ラップ DE 街コン プチョヘンザ

ちびまるフォイ

フリースタイルラップ街コン

『それでは街コン参加者のみなさんは、

 お手元のプロフィールカードを書いて、

 テーブル向かいの異性の方へお渡しください』


カードを渡して、フリートークが始まる。


「あ、趣味は……映画なんですね」


「はい。恋愛ものが好きで……」


「へぇ。僕あんまり映画みないから……」


「そうなんですね、あはは」


「あはは」


「……」


「……」


「……」


「……」




『はい、それではお時間となりました。

 男性のみなさんは次のテーブルに移動してください』



まるで回転寿司の寿司側になったよう。

次のテーブルに移動すると同じ行動を繰り返す。


お互いの顔色を伺いながら、

個性の上ずみをちょろっと撫でるだけの浅い会話。


街コンが終わる頃にはドッと疲れてしまい、

もう何もしたくなくなった。


もちろん連絡先なんて交換できてない。


「何しに言ったんだ……」


街コンにお金を寄付したに過ぎない。

これではダメだとリベンジを誓い次の街コンへと挑んだ。


勢いだったので内容はよく見ていなかった。


会場に到着するとコンシェルジュがラップバトルを仕掛けてきた。


「YOYOYO、ようこそ街コン♪

 心が踊る この瞬間♪

 

 最初は緊張♪ みんな順調♪

 だけど話せば、すぐに調子良好♪

 ようこそ街コン、ヒェア☆」



「え」



「ようこそ街コン、心がおどーー」


「ちがいます! 聞こえてました!」


「ラップ街コンの参加者の方ですよね?」


「あ、はい……ラップ街コン!?」


聞いたことのないフレーズに目が点。


たしかに会場にはミラーボールがきらめき、

参加者全員にマイクが渡されている。


「ラップで街コンをするんですか?」


「といってもディスり合いじゃないですよ?

 もっと建設的なラップバトルです」


「ラップに建設的って相反する要素すぎませんか」


「いいえ。あなたも街コンに参加したとき、

 本当に相手に聞きたいことを聞いたことがありますか?」


「え……。そんなのできないですよ。

 だって初対面なんですよ。気を使います」


「だからダメなんです。

 もしうまくいって次のステップになったとき、

 相手との価値観のズレが生まれるかもしれない。

 そうなったときの時間と労力は無駄になります」


「まあ……」


付き合ってから欠点に気づく、価値観の相違に気づく。

そういうケースは枚挙にいとまがない。


「なので、うちではラップを街コンに取り入れることで

 本音の価値観をぶつけあってカップルを作ろうという試みです」


「大丈夫ですか!? ギスギスしないですか!?」


「あくまでもラップですから。

 歌に乗せていけば意外となんとかなりますよ」


「ラップなんてやったことないんですけど」


「みんな同じですよ。さあもう始まります」


あれよあれよと案内されるままに従う。


街コンのよくある対面式テーブルではなく、

ここでは同じ番号を手にした二人がリングにあげられる。


『さあ! 街コンラップバトル!

 はじまりです!!』


ゴングが鳴らされると、相手の女性がマイクのおしりを上げて切り込んでくる。


「私の夢♪ それはお嫁さん♪

 憧れるは家庭のエース、専業主婦♪

 あなたが疲れて帰る、それを癒やす♪

 あなたはどういう家庭を望む? ヒェア」


このままでは負ける。

とにかく必死にラップを刻む。


「先の見えない、この世の中♪

 預金は大事 将来の保証♪

 夫婦で共働きでより良い未来♪

 老後は二人でゆっくり余生♪」


「価値観の相違♪ 逃げない行為♪

 早めに気づけてよかった、GOTCHA♪」


「イエァ」


会場が歓声と拍手に包まれる。

価値観こそちがったが、それを早い段階で気づけたこと。


ご趣味は、なんて湯葉よりも表層な会話ではなく、

より芯に切り込んだ会話ができたのは建設的だった。


「ラップ街コン、すごいですね」


「でしょう。参加者が望んでいるのは、お互いの本性なんですよ」


こうしてラップ街コンはつつがなく進行していく。

参加者はいたるところでラップバトルもとい意思疎通を行っていた。


時間も終盤になろうかというとき。

リングにあがってきたのは驚くほどの美人だった。


輝く後光に怯みそうになりながら、ラップバトルを仕掛ける。


「YOYOYO、あなたはどんな家庭を望む? カモン♪」


「私は子どもと自由♪ それを望む♪

 一緒に過ごす時間、それが財産♪

 笑顔があふれる、毎日がリズムフル♪

 あなたはどんな家庭をホープ?」


「感謝と愛 毎日溢れる♪

 笑い声が響く それが理想♪

 君はどんなものが好き? Say!」


「脱出ゲーム それは映画♪

 自分がヒロイン まるでワンシーン♪

 答えにたどり着く それが快感♪

 脱出ゲーム 私の生きがい♪」


「僕も大好き♪ プチョヘンザ♪」


「連絡の頻度 お互いの距離感♪

 あなたはどれくらい? Say!」


「僕の頻度は少なめ♪ 適度が肝心♪

 大事ことはは気持ちを届ける♪

 1日1回が最低限♪」


「私も同じくらい♪ プチョヘンザ♪」


ラップで質問を投げかければ投げかけるほど、

どうしてこれまで出会ってこなかったんだと思うほど

ぴったりすぎる相手にうれしくなる。


用意してきた建前の言葉ではなく、

即興で語られる等身大でリアルな言葉。


ラップはお互いのソウルの距離感を縮めてくれる。

そう思った。


「あなたとまだ話したい♪

 このあと食事いかがですか?♪」


「もちろん嬉しい♪」


盛り上がった彼女とすぐに連絡先を交換。

ちょうどラップ街コンも彼女で終了となった。


「参加者のみなさま、今日はありがとうございました!

 お忘れ物がないようにしてください」


ラップで仲良くなった人たちは

すでに二次会の話なんかしながら帰路についていた。


自分が待つのはただ一人。

最後のラップバトルで一番輝いていた彼女だった。


会場の外で待っていると、軽い足音が聞こえる。

まるで彼女の周囲にだけ花が咲いているように見えた。


「あ、こっちです!」


彼女に気づくように手を振った。

すぐに気づいた彼女はこちらを待たせまいと早足でやってくる。


こういう心遣いも彼女に惹かれた魅力のひとつ。

これからもっと彼女のことを知れることが何よりうれしい。



「おまたせでごわすでござる。

 お待ちくださって申し訳ないでござ候」




「……え。そ、そそ、そんな感じのしゃべりだったっけ?」



「ラップのときは、標準語になるんでござごわす。

 わぁいの普段の口調はこんな感じでごわす」




「なるほど。好きすぎる」



ラップでお互いの価値観をすりあわせた二人にとって、

相手のアバンギャルドな語尾などたいした障害ではなかった。


めでたしめでたし。



もちろん、それ以降ふたりの会話の公用語はラップとなった。

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