第4話

 昼放課になって、私は五月ちゃんの所に行った。

「ねぇ、五月ちゃん。先生にいじめのこと言ってくれてたの?」

「う、うん。だけど、証拠が無くて…。なつきたちも否定してそれを先生は信じたんだ」

「私、呼ばれなかったよ。当事者なのに」

「うん。先生も、呼ばなくていいって言ってた。問題ないからって」

「…おかしいよね、明らかに」

「うん。だからもう、どうしようもないのかなって、思ってて」

 五月ちゃんは、俯いた。

 それから、ふと思いついたように顔を上げた。

「なつみちゃん、ユウトから話、聞いた?」

「え?何?なんでユウト?」

「聞いてない?」

「聞いてないけど…」

「あのね、ユウトがこんなこと言ってたの」

 五月ちゃんが話したのは、【キヨ】という呪いについてだった。

 ユウトは、キヨという名前は、呪いのようなものだと五月ちゃんに教えたらしい。

 そう思う理由は、ユウトの姉が、六年生の時、この学校で机に描かれた【キヨ】の文

字をきっかけに、いじめに合うようになり、二学期末に自殺をしていたからだった。三年前の話だという。

 その時自殺をした姉は、クラスメイトから【キヨ】と呼ばれていた。私と同じ用に。

 ユウトはこの学校で、過去に【キヨ】と呼ばれる生徒が、いじめられて自殺したのではないか、という仮説を立てた。【キヨ】が使っていた机を当てた生徒がいじめにあう。そういう呪い。その呪いを、今年引き当てたのが私と言うことだった。

 私は、その話を信用することにした。

 実際いじめに会っているし、先生も、クラスメイトも、誰も私のいじめに無関心を貫いているように見えたから。呪いのようなものじゃないと、不自然すぎると思った。

 私はそれから、ユウトと五月の二人だけを信頼し、この一年いじめに耐え忍ぶことを決心した。小学校を卒業すれば、呪いは解けるはずだと信じて。

 その時、私達はこんなルールを決めた。

 絶対に、私、泡瀬なつみのことを【キヨ】と呼ばないこと。

 きっと、その名で呼ばれることが、いじめのトリガーとなるのだ。

 

 私のよそお通り中学に入ると、いじめは終わった。

 なつきも、私のことを【キヨ】と呼ばなくなった。

 彼女に、昔私をいじめていたことを聞くと、どうも要領を得ない様子で謝ってきた。

 詳しく聞くと、いじめをしたことは覚えているが、罪悪感の一切を持っていなかったのだという。そもそも、どうしてあんなことをしたのか自分でもわからないのだと。

 ゆきとみなみも、同様な反応だった。


 高校二年の時、ミナミという女子生徒が不登校になった、という噂を聞いた。どうもその子は周りの生徒から【ミヨ】と呼ばれていたらしい。

 私は授業後、こっそり彼女が座っていた席を見ることにした。

「やっぱり…」

 机には【ミヨ】という文字がギザギザに刻まれていた。

 その名前は、去年自殺したお姉ちゃんの名前だった。

 

  

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キヨちゃん 一色雅美 @UN77on

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