魔王と召喚獣と眼鏡と

藤泉都理

魔王と召喚獣と眼鏡と




 芒と秋桜が厳かに波打つ中を、魔王は独りで歩いていた。




 頭に棲みついていた召喚獣、タイガーサンダーはもう、居ない。

 額に出現して眼鏡をかけた両の目で共に世界を見ていた召喚獣、タイガーサンダーはもう、居ない。


 来たる勇者との闘いに備え、戦力を増やそうと召喚を試みるも、召喚に失敗しては頭に棲みついてしまった、召喚獣、タイガーサンダー。

 視力が弱く、魔王の額に出現させた両の目には、常に眼鏡がかけられていた。

 魔王もお洒落眼鏡をするんだなと、恐れ戦かれていた魔王の好感度を僅かに上昇させた。

 魔王はお洒落眼鏡で誤魔化しているのだと、恐れ戦かれていた魔王の好感度を僅かに上昇させた。

 常にサンダーを放っては魔王の脳を活性化させ、能力体力高揚感を上昇させ続けた。

 役に立つものだと、残虐無比な魔王を笑わせ続けた。


 召喚獣、タイガーサンダーは、もう、居ない。


 勇者が魔王の元に辿り着いた時。

 タイガーサンダーは眼鏡へと自身を転移させてのち、勇者へ目がけて飛翔しては、勇者の目に装着。

 最大出力のサンダーを放っては、勇者と共にこの世から消滅したのだ。






 立ち止まった魔王は額にかけていた眼鏡を空に放ってのち、咆哮で以て粉砕。

 させようとしたが、それは、叶わなかった。




「っち、要らぬ事を」




 額に戻って来た眼鏡を魔王は空に放つ事はせず、歩みを再開させた。




「角の代わりも、ぬしの代わりも、務まりはせぬと言うに」




 ざああぁっと。

 風が芒と秋桜に強く吹きかけた。

 風が眼鏡を地へと落下させた。











(2024.9.4)



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