第32話 今まで誰とも付き合ったことはないからね!



 聡は両親に着いていったから、てっきり高校も私とは全然違うところに行くと思ってた。

 まさか、一緒の高校に通う可能性が出てくるなんて。


 高校から、陸上部の聡に対して推薦。しかも中二の夏にだ。……いや、私にお母さんから連絡があったのは春先だから、その頃にはもう話があったのか。


「すごいなー、聡は! 高校から声がかかったってことは、かなり速いんだろ? すげー!」


「や、やめろってっ」


 すごいとは思うだけの私と、すごいと声に出して聡の頭をわしゃわしゃ撫でているハルキ。

 聡はやめろと言いながらも、本気で嫌がっている様子はない。


 というか、聡のやつ……さっきからハルキの身体チラチラと見てるな。いろんなところを。

 いやらしいやつめ。


「は、はるきさんは……なんか部活入ってるの?」


「いや、ボクは部活には入ってないよ。ただ、運動部の助っ人としてちょくちょくいろんな部活に駆り出されてはいるかな」


「そっちのがすげーじゃん!」


「そうかな?」


 うーん、この二人を見ていると……仲のいい兄弟って感じがする。首から上は。


 ただ、男兄弟ってこんななのかなーとはぼんやりと思う。スキンシップがそれなりにあって、こうして笑いあって。

 私と聡がこの距離感だったら、ちょっとキモいし。


 ……やっぱりハルキ、生まれてくる性別を間違えたんじゃないかな。今からでも男だってことにして、私と恋仲にならない?


「聡って、やっぱりモテるのか?」


「な、なんだよ急に。それに、やっぱりってなんだよ」


「だって、足の速い子ってモテるだろ?」


「小学生かよ」


 ハルキからの話が止まらない。

 私の時もそうだったけど……ハルキってば、とりあえず思いついたことそのまま口にする癖があるよな。そっから話がつながるから別にいいんだけど。


 ハルキと話していると、話題が途切れることはまずない。

 それどころか、自分の話したいことを話すだけでなく、相手の話をうまく引き出して話しやすいように誘導してくれている。


 言葉巧みだよこの子は。


「いや、足が速いは抜きにしても、聡かっこよくなってるからさー。モテるでしょ」


「! か、かっこいい……か?」


「うん、かっこいいよ!」


 うわぁ、聡の顔真っ赤っか。弟のいろんな表情、この短時間でよくもまあ引き出してくれるなぁ。


 そりゃあ、思春期男子にとって、美人のお姉さんからかっこいいなんて言われたらお世辞でも嬉しいだろう。

 ……ハルキの場合、お世辞ではないんだろうなってところ含めて恐ろしい。


「ボクの通ってた中学でも、それなりにかっこいい子はいたけど……聡には負けるかなぁ」


「へ、へぇ」


 嬉しさが隠しきれないのか、口角が上がりそうなのを聡は必死に堪えている。


「ま、まあそれなりには……ね。その、告白されたことだってあるし」


「そうなの!?」


 調子を良くした聡は、自分のモテエピソードを話し始めた。

 その開幕から、私は大声を上げてツッコんじゃったわけだけど。


 いや、そりゃモテそうだなとは思ってたけど……


「告白されたの!? お姉ちゃん聞いてないよ!」


「なんでいちいち姉ちゃんに言わなきゃいけないんだよ」


 そうだけど! 確かに言う必要ないけど!


「てか、そんな驚くことか? 自分だって経験あるだろうに」


「ちょっ……」


 聡はさらっと、私も告白された経験があると言いやがった。ハルキのいる前で。

 ハルキの前では、そういう話避けてきたのに……


 聡の言っていることは、事実だ。中学のときは、自分で言うのもなんだけどそりゃあモテた。告白されたこともある。

 でもそれを、ここで……ハルキのいる前で言っちゃうわけには……


「あ、やっぱりカレンモテてたんだ」


「まあね。学校中の噂だったし……俺も友達から、姉ちゃん紹介してくれって何度言われたことか」


「おいぃいいいい!」


 話しちゃった! 私のエピソード話しやがったよこの野郎!

 事実だけど! 全部事実だけど!


 なんとなく、後ろめたい。は、ハルキの前でこんな話……


「そっかぁ。カレンほどの美人さんなら納得だよ」


「びっ……」


 だけど、ハルキは気にする素振りもなくて。

 私のことを、美人だなんて褒めちぎる始末だ。


「てことは、交際経験もあったりするんだ?」


「それがねぇ、姉ちゃんってば告白されてもことごとくを断って。その理由が……」


「ストォーップ!」


 言わせない! その先はさすがに言わせないよ! てかなに言おうとしてんのよ!

 私は聡の口をふさぎ、物理的にしゃべれなくした。


「むぐぐっ……」


「わ、私のことは別にいいじゃない。あっ、今まで誰とも付き合ったことはないからね!」


「そ、そう?」


 とりあえずこの話はさっさと終わらせてしまおう。

 そう思いつつも、どうしても言っておかないといけないこともある。私自身、これまで誰とも付き合ったことがないということだ。


 告白されたことはあるけど、誰かと付き合った経験はない。これを伝えておくのは、とても大切なことだ。

 だって……なんとなく、ではあるんだけど。ハルキには、変な誤解はされたくなかったんだ。

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