第31話 美男美女姉弟だよね。眼福眼福
「ごめんね二人とも、終わったよー」
電話を終えたハルキが戻ってきた。
はじめの頃は、着信があってもそれをどうすればいいのかわからずにわたわたしていたのに。
間違って電源ボタン押して電話を切っちゃったときとは、えらい違いだ。
「いやあ、こうして見ると美男美女姉弟だよね。眼福眼福」
ハルキは私と聡を見比べて、にこりと笑った。
眼福かぁ……私はきれいでいようと努力したから、自画自賛じゃないけどそれなりに美女寄りだとは思う。
というか、ハルキのために自分を磨いてきたので、そのハルキに褒められると嬉しい。
たとえハルキが女の子でも。
で、聡は……姉から見ても、かっこいい部類には入ると思う。
確か、部内じゃ人気が高い、なんて聞いたな。本当かわからないけどね。
「そ、そんなこと……は、はるきさんだって、その……き、きれいに……なっ……」
まんざらでもない様子の聡が、ハルキを褒め返そうとする。
だけど、その言葉は後半に行くにつれて小さくなっていった。
こいつ、私を相手にするときはえらい違いだな。まあ姉相手にこんな態度取られたらキモいけど。
「? きれいって言ってくれたのかな、ありがとう」
「! は、はひ……」
そんなボソボソした言葉も、ハルキは拾ってくれていた。
それを理解した聡が、嬉しそうに顔を上げた。顔は赤い。
ちょろすぎだろ、我が弟ながら。
「なーに意識してんのよ」
「! いやっ、俺は別に……!」
聡に小声でささやく。すると聡は、大げさに反応した。
わかりやすいなぁ。初々しいったら。
まあ、思春期男子ってのはこういうものなのかもしれないけど。
姉の友達の超美人って……なんかこう、えっちな感じするじゃんね!
「とりあえず、座ろっか」
「どこにだよ」
ともかく、このまま立ち話もなんなので、私たちは椅子に座ることに。
ただ、問題がある。私たちは三人、椅子は二つ。
一人余ってしまうのだ。
一人暮らしなのに椅子が二つある時点でも褒めて欲しいけど、もう一つあればよかったなぁ。
「あ、お構いなく。ボクは床に座るし……」
「だ、だめだよそれは!」
床でいいと言うハルキに、しかし聡が反論した。
きょとんとするハルキに、聡は自ら椅子を差し出した。
「お、俺は床に座るの、慣れてるし……は、はるきさんはお、女の子なんだし……その……」
「あはは、ありがとね。じゃ、遠慮なく。てか、はるきにーちゃんでいいのに」
照れた聡、言ってることは要領を得ないものの、言いたいことは伝わったのだろう。ハルキは笑顔で答える。
おうおう良かったのぅ聡。
そんなわけで、私とハルキは椅子に、聡は床に座る。
「聡、学校はどう? いじめられてない?」
「こ、子供扱いしないでよ」
ハルキは、進んで聡に話しかけている。それは純粋に、久しぶりに会う弟のような存在に対してのもの。
でも聡は、年上のお姉さんに話しかけられてドギマギしている。
ふぅむ……なんだか、見ているのおもしろいな。
それはそれとして、なんか胸の奥がもやもやするよはなんでだろう。
「うまくやってるよ、学校は。友達だっているし」
「そっか。でも、じゃあ夏休み中は友達と遊べないけど、いいの?」
「まあ、少し寂しくはあるけど……せっかくの機会なんだし、って思って」
私も気になっていたことを、ハルキが聞いてくれる。
こういうのって、身内の私から聞くよりもハルキから聞いてくれたほうが、すんなり答えてくれそうだ。
聡にとっては兄のような存在だったけど、本当の身内じゃないからこそ素直に話せることもある。ま、兄じゃなくて姉だったけど。
年上お姉さんに逆らう術なし……ってね。
「せっかくの機会?」
「あぁ。俺、陸上部に入ってるんだけどさ……姉ちゃんたちが通ってる高校から声をかけてもらって、夏休み中はそっちで練習することになったんだ」
「え、そうなの!?」
なんでもないように答える聡の言葉に、つい驚いて声を上げてしまう。
いやでも、だって……まだ中二だよ? それで、高校から声がかかるなんて。
もしかして私の弟、結構すごい?
「なんだよ、そんな驚いて」
「だって、聡がこっち来る理由聞いてなかったし」
でも、これで合点がいった。
夏休みなのに、友達や部活動はどうするのか……その疑問に対する答え。
まさかこんなことになっているとは、思っていなかったけど。
「しかも、私たちの通う高校に……」
「あ、だからカレンのところに泊まるようになったのかもね」
確かに、どうせ高校に通うならば近いところに住んだほうがいい。
その点で言えば、高校から近くなにより身内の私がいることは、都合がよかったのだろう。
もっと早くに知りたかった気持ちはあるな。
「へー、じゃあ聡はウチの高校に入学するんだ?」
「何事もなければ、そうなりますね」
わざわざ高校から、部活関係で声がかかった。
それは、つまりは部活推薦みたいなものだろう。なにか問題でも起きない限り、入学できる。
もっとも、聡にだって選ぶ権利はあるわけで。
「まだ中二でしょ? もう決めちゃっていいの?」
「ん……正直、どの高校がいいかとかよくわかんないし。走るの好きでやってる陸上で声かけてもらったなら、行ってみるのも悪くないかなって」
「そ」
まあ、ここは姉の私がとやかく言っても仕方ないな。
聡自身のことなんだし。あとはお父さんやお母さんと話し合えばいいさ。
「そっかぁ、じゃあ聡はボクたちの後輩になるのかぁ」
「ちゃんと入学できればねー」
「で、できらい!」
聡が高校に入学するのは、あと二年後……正確には一年とちょっとだけど。
その頃には、私たちは三年生だ。
たった一年だけでも、同じ高校に通うことになる。
なんだか、不思議な気分だ。
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