第7話
瑕疵の付いた私はこれからどこかの富豪に売られるかもしれない。
まさかのフェルディナンド様の裏切りに心が受け付けない。
一生懸命私なりに努力してきたつもりだった。
でも、私の人生もここまでなのね。
どれだけ頑張っても幸せになれない運命なのね。
私は打たれた頬を構う事無くフェルディナンド様に視線を向けて話をする。
「何故? なぜ、私の話を聞いてくれなかったの?」
「……ごめん」
私は腫れてきた頬よりも彼の行動に傷ついていた。
「言ったじゃない。関わらないでって。私に黙っていればいい? ふざけないで。私は、もう……」
「リヴィア王女様、すぐに冷やしましょう」
ダリアは公爵達を無視するように駆け寄り、私を心配してくれている。
私はじわじわと溢れる涙と苦い感情を堪えて立ち上がり、部屋を出た。
元々、王妃の管理する部屋だった事が幸いし、誰にも会わずに自室に戻った。
自分の部屋に入ると同時に涙が溢れてきた。止めどなく流れる涙。嗚咽を上げる。
フェルディナンド様が好きだった。
彼の妻になるものだと思っていた。
女王でも公爵夫人でもなんでも良かったの。
信じていたの。
この息苦しい生活から連れ出してくれると信じて疑わなかった。
その夜、父に婚約破棄のことで呼ばれると思っていたが、声が掛かることはなかったわ。きっと王妃が止めたのだろう。
私の頬は赤黒くなっている。王妃も私の顔を殴った手前、さすがに今の状態で陛下に会うのはまずいと思っているのだろう。
王妃から数日は部屋で謹慎するよう言いつけられた。その間、ダリアやモニカが甲斐甲斐しく世話をしてくれる。
モニカが同僚から聞いてきた話でも私が彼女と会うなと言った後もロジーナと隠れて会っていた。
彼女は彼の子を妊娠してから自分は次期公爵夫人なのだと様々な場所で自慢して回っていたのだとか。
その話を聞いて呆れるのと同時に心が痛む。
彼女はきっと公爵家を陥れたという自覚はない。アンバー妃側に利用されたことも気づいていない。
そこまで考えられるのであればそもそも王女の婚約者に手を出したりしないはずだ。もう、彼のことを考えるのはよそう。
どれだけ想っても、どれだけ後悔しても何も変わらないのだもの。
そうして父に呼ばれたのは痣が消えた一週間後のことだった。
呼ばれた場所は王族のみが使えるサロン。そこには父とアンバー妃、弟たちが仲良くお茶を飲んでいた。王妃は苛立つ様子を隠さずにただ座っている。
「お呼びでしょうか?」
私はサロンへと入っていく。家族という敵に囲まれている中、ソファに座る。彼らの蔑む視線は精神的に辛い。
「リヴィア、大丈夫か?」
「陛下、ご心配をお掛けしました」
「あー恥さらしもいいとこだな。恥ずかしいやつ!女公爵になれなくて残念だったな!」
「止めないかラジーノ。リヴィアは何も悪くない」
「父上、こんな瑕疵の付いた行き遅れの王女、どこかの金持ち爺さんの嫁がちょうどいいだろ」
「ラジーノ、口を慎みなさい」
「チッ。父上に庇われて良かったな!」
「ラジーノ!」
私は執務室ではないこの場で婚約破棄の話を陛下の口から聞くことになった。
どこまでも私のことを考えていない人達。私の扱いはサロンで話す雑談程度のもの。
やはり私は家族ではないのね。
王妃は冷たい表情のまま。アンバー妃は陛下の腕にくっつきながら言葉では心配そうにしながらも顔は笑っていた。ゼノもクスクスと笑っている。この場に居たくない。
誰も、私の家族ではない。
誰も、助けてくれない。
グッとドレスを掴む手に力が入る。
陛下は彼らを諫めることしかしない。
「リヴィア、離宮で少し休みなさい」
陛下は顔色一つ変えずに言う。
「……陛下、それは、私は、もうお払い箱だということでしょうか」
「いや、そうじゃない。婚約破棄で傷ついたお前は離宮で静養して過ごすんだ。その間に噂を流す。次の婚約が上手くいくように、だ」
「……畏まりました」
……上手くいくわけがない。
私はその言葉を聞いた後、早々に部屋に引き上げた。年頃の上位貴族で婚約者が決まっていない人などいない。
事実上のお払い箱だろう。
他国なら一国の姫が婚約破棄をされたところで王命を出してでも同じ年頃の貴族が宛てがわれるだろうが、家族から疎まれている私はラジーノが言っていたようになるかもしれない。
運が良ければこのまま離宮で軟禁。運が悪ければ王家の後ろ盾となる富豪へ嫁ぐことになる。
「ダリア、モニカ。今までありがとう」
私は自室に戻り、離宮へ行く準備をしている二人に声を掛けた。
「何を……。悲しいことを言わないで下さい。私たち家族はリヴィア様に付いて行くのを決めております。これからもリヴィア様のもとで働かせて下さい」
ダリアの言葉に声がうまく出なかった。心配してくれる人たちがここにいる。私をそっと支えてくれている人たち。
悲しくて、嬉しくていろんな感情がごちゃまぜになりながらようやく言葉に出た。
「……ありがとう」
陛下から離宮へ向かうように言われて三日後。
家族からの見送りはなく、そっと馬車は離宮へと向かっていった。
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