Chapter 6-2

 この世界には、決して一般人が知ってはならない裏の世界というものが確かに存在する。『裏世界アンダーワールド』と呼ばれるそこには、魔術や超能力といった特殊な『スキル』を持つ者たちが潜み、それぞれの生活を営んでいる。


 ただし、それは決して表の世界のような平和なものではない。力こそがすべて。血と泥にまみれ、常に死と隣り合わせの危険なものである。しかし成功者には表の世界では考えられないような莫大な富が約束されており、それを狙って自らこの世界に飛び込むものも少なくはない。


 しかし、そんな世界でも特殊な人間というのは存在する。影ノ内かげのうち孤太郎こたろうもその一人と言えよう。

 彼の力は裏世界においても規格外だ。しかし、そんな力を持ちながらも表の世界で生きている、非常に珍しいタイプの人間だった。彼はすでに、裏世界では成功者と呼べるほどの富を得ているにも関わらず、その名がほとんど知られていない。いや、皆無とさえ言えた。


 そんな人間が突如として裏世界の扉を叩いてきた。紹介者はマリー。裏世界では有名な魔術師だ。自然と注目が集まる。彼は仲間とともにたやすく『ダンジョン』をクリアしてみせると、そのまま別のダンジョンも次々に攻略してみせた。

 ダンジョンの攻略は決して楽なものではない。多数のスキル持ちが集まり、結託して挑んでも多くの死傷者を出しながらようやくクリアできる迷宮。それがダンジョンというものだった。


 だと言うのに。影ノ内孤太郎はたった四人のパーティーでこれをクリアしてしまった。内三人が表の世界に生きる素人だと考えれば、彼一人の成した偉業と言えた。

 しかも、彼からもたらされた情報によれば、異世界の魔王が覇権を握るべくこの世界を侵略しようとしているとのこと。これは奇しくも彼と行動をともにした女忍者――石動いするぎ疾風はやてという、名門石動家に属する名うての忍者である――がもたらした情報と一致したため、信ぴょう性は確かだった。


 これにより、裏世界は激震した。その衝撃は裏世界と繋がる表の世界の権力者たちも観測しており、表沙汰にはなっていないものの、世界全土を揺るがしつつあった。


 ――とはいえ。


「うーん……」


 そんなことは露知らず、当の本人であるコタローは家電量販店のテレビ売り場で唸っていた。

 4K、8K……。正直よくわからん。店員さんに聞いてみたいが、声をかけるのも躊躇われる陰キャぼっちである。もちろんずっとテレビの前で唸っていれば店員さんから声をかけてくれるのだが、思わずキョドって「い、いえ、大丈夫です……」とか答えてしまったのでもうどうしようもない。


 埒が明かないな、とコタローは他の家電も見て回ることにした。

 サウンドバーか、ホームシアターも悪くないな、とモデルコーナーを見てみる。プロジェクターからスクリーンに映し出すタイプも魅力的だ。80インチの特大テレビ、5.1チャンネルのサウンドシステムを完備したシアタールームも雰囲気があって良い。


 やがてコタローは散々迷った挙句、複数の家電を購入。配達を指定して書類を記入すると、家電量販店を出たのであった。

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【長編】転生の書〜陰キャぼっちの俺だけ実は人生強くてニューゲーム中だということを誰も知らない〜【連載中】 椰子カナタ @mahonotamago

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