Chapter6 快進撃っていうのはやってるときが一番怖い

Chapter 6-1

 暗闇の中に一つの炎が灯った。そこから少し離れたところにも炎が一つ二つと灯っていき、やがて色の違う11の炎が、円を描くような形で暗闇の中に灯った。


「……集ったようだな」


 声の主は、最初に灯った炎だった。

 しかしその声に異が唱えられる。


「待て、マゼラスがいないぞ」

「ヤツは来ん」

「どういうことでしょうか」

「まさか」


 それぞれの炎がざわめき、揺らめく。


「静粛に。皆の考えている通りだ。ヤツは討たれた」

「フッ、ヤツは我ら魔王の中でも最弱。やられたからと言ってどうだというのだ」

「――それがたった一人の人間によるものだとしてもか?」

「何……ッ!?」


 炎たちは再びざわめき出す。


「人間が、最弱とはいえ魔王をたった一人で討ったというのか!」

「本当なのでしょうね?」

「儂がおぬしらを謀ってどうするというのだ」

「それはそうなのですが……。ですが、話があまりにも荒唐無稽すぎる。そう簡単には信じられません」

「そういえば、この間ほんの一瞬だが、恐ろしく強大な気を感じた。まさか、あれがそうだということか……!?」

「なんだと……!?」

「どういうことだ、詳しく聞かせろ」


 ざわめきが更に大きくなっていく。

 これ以上は収拾がつくまい。最初に灯った炎が大きく咳払いをする。


「静粛に。この人間、あちら側の住人だということはわかっている。あちら側には我らにも計り知れないなにかがある。これまで通り『空き道』を使って兵を送り込み、あちら側のことを調査するのだ。これまで以上に慎重に動け。よいな?」

「ケッ、そんなんであんたが死ぬまでに次の大魔王が決まるのかよ」

「口を慎みなさい。陛下の御前ですよ」

「うるせぇ。いつもいつもいい子ちゃん振りやがって。俺たちゃ魔王だぞ? しかも、このジジイが死んだあとの大魔王になるのは誰かを争ってる真っ最中だ。人間一人にビビってられるか、アホらしい。直接ぶちのめしてやりゃあいいだろうがよ」

「その通りかもしれんな。マゼラスを倒すだけの力を持っているのだ。どのみち、我ら魔王が直接手を下さなければなるまい」

「どうかな。所詮相手は一人。数で押し切れば問題ないだろう」


 またも紛糾する炎たちに、最初に灯った炎が深く溜め息を吐く。


「……とにかく、無茶だけはするなよ。我が息子たちよ」


 その声は、暗闇の中へと溶けて消えていった。


 やがて会議は落ち着いていき、炎が一つ、また一つと消えていく。

 最後に残ったのは、最初に灯った炎と、青白く光る炎だけだった。


「……どうしたカウラード。おぬしも何か儂に言いたいことがあるのか?」

「いえ、そういうわけではありません。私は従います。しかし陛下、ヤツを、ドラゴラをあのままにしておいてもよいのですか? ヤツの気性は荒すぎます。あのままでは陛下の――父上の方針に従わず暴れ出すのは明白。マゼラスの二の舞になるのは目に見えています」

「ならば、おぬしがヤツを監視するがよい。そしてドラゴラが暴挙に出ようとするならおぬしがヤツを止めるのだ」

「はっ。かしこまりました。それでは、失礼いたします」


 青白い炎も消え、その場には最初に灯った炎だけが残される。


「マゼラスの二の舞、か。かつてはヤツを兄と慕っておったのにな。カウラードよ」


 そして、すべての炎が消えた。

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