エピローグ

翌日、何事もなかったかのように来生さんは学校に来て、少し風邪で休んだなりのクラスメイトからの心配を受けたりとかも多少はあったようだが、元の日常へと戻っている。


来生さんは相変わらず縦に一つずれた席であり、初対面のころに感じた不思議な感じはそこまでしなくなったものの、少しほかの人とは変わった雰囲気を感じることは変わらない。ここ数日の欠席を経て変わったことと言えば、俺が来生さんの秘密を知ったことくらいだ。


今日もつつがなく授業は終わり、ホームルームでだるそうに話す瀬戸先生の話を聞いて放課後となる。今日は部室に行って課題でもしようかなと考えていると、


「少し時間ある?」


と聞いてきたのは後ろの席の住人である。

特に予定もなかったので、全然かまわない旨を伝えると、一緒に教室を出ることになり、来生さんの進む方向についていくことになった。

ある程度生徒の人通りも少ないあたりに差し掛かり、ふと彼女は歩みを止める。


「昨日教えたことは秘密にしておいてね。」


そっとつぶやくように彼女はそう言った。

まだ詳しくは聞けたわけではないが、彼女の中に2年間学校に来なくなるだけの理由が過去に存在するのだ。そんなに軽々と大っぴらに話すようなことでもないだろう。このように呼び出されてわざわざ伝えられなくても最初からそのつもりだった。


しかし、あえて伝えるとしてもお互いラインも持っていることだし、こうして伝えてくることの理由は気になった。

「連絡じゃなくて、こうして伝えてくるのは何かワケが…?」

これを聞くと彼女は一瞬目を大きく開き、すぐに元に戻る。

そして少し微笑むようにして向こうを向く。

「特に深い意味があるわけじゃないよ。ただ…」

「ただ?」

「ただ何となく感じたんだ。」

そこまで言うと彼女はタッタッタっとすぐ横にあった階段を少しのぼる。

階段には踊り場に大きな窓があり、ちょうど西日が強く差していて、彼女の姿は逆光となる。

そして少し神々しくも見える。もともと彼女に対して感じている少し特別な雰囲気が、よりその感じを強くしているのかと思う。

彼女は少しタメを置いてからまたつぶやくような声量ではあるものの、はっきりと言った。


「思ったことはやっぱはっきり伝えないとなんだよ」


自然な笑顔で彼女は続けていく。


「それに初めて君に会ったときに何となく君なら私のことわかってくれる気がしたんだ。」


そこまで言うとまた階段を下りてきてフフッと前でほほ笑む。そして

「そんなに深い意味はないよ、ただそれだけ」

ここまで伝えると彼女はまた明日という一言を残して帰っていった。

何かもっと大切なことがあるかのような雰囲気もあったが、“はっきり伝えないと”と言いながら伝えていかなかったのではないだろうか、というような気がしたが真意は分からない。ただ階段を数段上がったときの来生さんの姿は妙に印象として強く残った。


いつか自分の感じた後味と彼女の持っていた言葉の真意の答え合わせができるときはやってくるのだろうか。今はまだわからない。ただ、まだこの学年になって間もないこの5月。どこかで答え合わせの時が来るかもしれない。そう思った。


そんな後味を覚えながら俺は部室へと向かい課題をやることにしたが、集中できずに進捗が全然得られなかったのは、言うまでもなかった。



_____________________________________


ここで一旦は完結となります!

ここまで読んでいただいた方々ありがとうございました!

しっかりと区切りまで書いた小説作品は今回が初めてでした。定期更新に追いつくように最新話を書いていける自信はなかったので、ここまで全て描き切ってからの全話定期更新だったのですがいかがだったでしょうか。

霞屋と来生のこの二人についてはまだこの先も続いていく関係性があり、続編を書くかは迷っていますが、もし書くとしたらこのままカクヨムの完結の設定を解除して描き加えていけたらとは考えていますがとりあえずここで完結とします!


また機会があればどうぞよろしくお願いします。

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転校生と秘密 藍田 匠 @shoaida64

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