第8話 欠片
5年生という単語を聞いたときに、様々な事柄に対し腑に落ちる感覚があった。来生さんの時折見せる謎の大人びた感じや、妙に学校を知り尽くしていた感じ、それぞれの欠片に対してだ。
「じゃあ、転校してきたっていうのは、」
「嘘。2年間の休学明けってところかな」
「なるほど。」
この時の来生さんには言葉に表せない雰囲気があったように思う。そんな様子に気後れしていると、
「タバコのにおいダメな人?」
と、自分のタバコを取り出しながら聞いてきた。この雰囲気に対して苦手、とも言い出せずに構わないと返すので精いっぱいだった。
タバコに火をつけ加えるととても絵になる雰囲気を醸し出してきた。
「詳しくは言わないけどさ、3年前も同じように2年生だったのよ、担任も今と同じ瀬戸で。」
「で、まぁ結局は今思えば自分の弱さとか、そういうのもあるんだけど結果的にこうこうに通い続けることはできなかったんだよね。」
ここまで話し、彼女は一気に吸い込む。
「その時、瀬戸先生は?」
「教師としてどうなのかはわからないけど、私にとってはいい先生だったよ。当時一旦学校から離れる選択肢を提示してくれたのは瀬戸だった。とりあえず半年休んでもう一回2年生やればクラスメイト変えられるよって。」
聞いていて、相変わらずのテキトーな先生だなと思う。しかし、そのテキトーさ加減がいい距離感を生み出しているようにも思う。
「でも結局当時のメンツがいるうちに復学は出来なかったんだ。でも休学って基本的に2年までだし、ちょうどこないだの春で知ってるメンツはみんな卒業した。だから戻ってみた。」
うなずきながら聞くことしかできないが、吐露しているうちに抱えているものは晴れていっているように自分には見える。
「久しぶりの学校はさ、先生の計らいもあったけど結構楽しいのよ。でも1年半ニートをしていたようなもんでしょ?やっぱ一度寝坊したりすると動けなくなっちゃうんだよね。」
ここまで話きり、とてもすっきりしているように見えた。
「でもこうして霞屋くんも今日来てくれたし、明日は行くよ、学校。」
ここまで言い切って来生さんはもう一本とタバコに火をつけた。しかしそろそろこちらの咳が我慢できなくなってしまい、ごほごほと咳をする。
「あ、ごめん!タバコやばかったよね。」
多分今時タバコのにおいに慣れている高校生なんてまぁまぁマイノリティだと思う。
この様子を見て慌てて火を消す来生さん。
こんな話をしているうちに気づくと外は暗くなり、いい時間となっていた。帰る支度をしていると、
「私実は車も運転できるの。送っていくよ?」
とニコニコしながら車のカギを手の上でゆらゆら振っていた。
しかし、この大都会の駅のすぐ近所だとどこまで送ってくれようとしているのかはわからないが、夕方の込んでいる時間、どこに行くにしても電車の方が早そうだ。それに、
「来生さん、今日俺が来る前に酒も飲んでるでしょ。」
「あ、ばれてた。」
せっかく復学したのに今度こそ本当に退学になりかねない事案である。本当によくない。
丁重にお断りし、また明日学校で、という挨拶をして帰路についた。
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