第7話 気づき
部屋から出てきたのは来生さん本人だった。
服装とかもいつもと変わらずそうで、思いのほか体調もよさそうであった。いや、むしろ気持ちいつもより元気そうではないだろうか。
どうぞ~という招きに誘われてそのまま部屋に上がらせてもらった。上がってみると物の少ない部屋であった。なんというか生活感の少ないというか、言い表せない何かが。
しかし、今回来た本題を思い出し、リュックから取り出す。部屋や生活を詮索するために来たのではない。
「あ、これ机の中にはいいてたプリントとか。」
こうして瀬戸先生からもらったクリアファイルをそのまま渡す。3日分の授業資料だったりなのでまあまあな厚さになっていた。
「ありがとう、ゆっくりしていって。」
そう言われ、お茶とかも出してもらっちゃったのですぐに帰る雰囲気ではなくなってしまった。
部屋で付いていたテレビについて少し喋ったり、ここ数日の学校での出来事なんかについて、聞かれたので答えていく。そんな感じでゆったりと流れていく時間だった。
以前カフェではなしていた時に来生さんは今一人暮らしであると話していた。高校生の一人暮らしというとあまり想像がつかなかったが、こうしてタワマンの最上階の大きな部屋に一人で暮らしている。という姿を初めて実際に見たが、実際に見ても尚現実感は薄かった。
高校生のひとり暮らしという現実感の薄さについて理由がわかってしまった。
ゆっくりしゃべっていて、部屋が涼しかったこともあり、途中でお手洗いを借りた時のことだった。廊下の途中にいかにもゴミを集めておいているんだなというスペースがあった。人のごみを漁る趣味があるわけでは決してない。しかしながら一番手前の目立つところにそれはあった。酒の空きビンである。何本か。
この部屋が女子高校生の一人暮らし部屋であるという違和感について、こうなってくるともう一つ気づくことが出てくる。部屋のにおいである。確かに違和感だったのだ。おそらく本人は気づいてないであろう、タバコのにおいである。
この現実感のなさ。いわゆる“女子高生”というステレオタイプなにおいについて語れるような変態ではないが、“おじさん臭い”ステレオタイプなにおいについてはもうちょっと感じる。おじさん臭いわけでもないが、それに近いにおいな感じはあるのだ。
あまり詮索をするようなことはしたくない。しかしただでさえ来生さんは謎が多い。その謎の一端に触れられそうなところでどうしても気になってしまう。
「この家ってほかに人がよく来たりするの?」
純粋に来客が呑んでいった可能性も全然あるのでこういった聞き方になった。しかし、この質問をしたとき、来生さんはすっと息を吸い込んだ。これを見て悪い確信を得る。
「人を入れることはあまりないかな。家に来た友達は霞屋くんが久しぶりだよ。なんで?」
「いや、なんかお酒とかの瓶が多かったから。ほら、一人暮らしだし。」
ここで来生さんは今度ふっと息を吐いた。そして部屋の端においてある、普段学校にくる際にも持っている見慣れたカバンの元へ進み、中の財布から何かを取り出した。
「はい。多分気になってる答えだよ。」
そう言って渡されたのは来生さんの学生証であった。一見すると来生さんの顔が載り、名前や住所、生年月日が自分とは違うものの、見慣れたフォーマットの変わりないものに見えた。
しかし、すぐに気づく。生年月日に刻まれた年の違いに。自分の生まれた年よりも3年前の西暦が書かれていた。
「私さ、休学期間も合わせれば5年生なんだよね。」
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