第10話.万能戦棒
「「さぁ、やって参りました! 秋のXQ学園魔闘祭!!」」
実況席の声が学校中に響き渡る。
教師陣との試合から約1ヶ月経った今日、秋の魔闘祭が開催された。試合形式は1 vs1の対人戦、春に行われた大会と同じルールだ。
俺は生徒用の控え室で準備をしながら今日の試合について考える。
その間にもグラウンドでは試合が続けられているが俺の番は1回戦の第15試合だからまだ時間に余裕はある。
今回の参加人数は90人、トーナメント形式で対戦していき優勝者を決める。1回戦の相手は当日の朝発表されるため、しっかりと対策を考えて臨むことができる。
俺は生徒に支給されたタブレットで対戦相手の情報を確認した。生徒を含めた学校関係者は学内のネットワークから生徒の能力についての情報を自由に見ることができるのだ。
対戦相手の名前は
俺は一枝の情報を見ながら考える。
棒状の武器っていうのは刀や槍みたいなものか。ということは、自ずと近距離で戦うスタイルになるだろう。
近距離が得意な相手には中長距離から攻めるのが定石だけど、そう上手くいくだろうか。
俺は距離を取って影人形を相手に向かわせた場合、影人形と一枝1 vs 1の状況が出来上がる。それで勝てればいいのだけれど、武器を持っている相手を徒手空拳の影人形で倒せるとは思えない。影人形と俺が順番に処理されてゲームセットだ。
となると、安直に1vs1の状況を作らず、俺+影人形vs一枝という状況に持ち込んで攻めた方がいいか。
俺は脳内でシミュレーションをして試合に備える。
試合のことを考えたり試合に持ち込む道具を選んだりしているとあっという間に時が過ぎた。俺の番が回ってきて試合の準備を終えるように案内される。
俺は学校から支給された
武器や道具を1つだけ持ち込むことができるルールでは、自らの魔力を回復できる魔水晶を持っていくのが最も無難だ。
入学したての俺はその事を知らずに扱えもしない剣を手にして試合に臨んだ。その結果惨敗だ。
俺は自身の充実した高校生活のために前回の二の舞にはなりたくない。
そう思って入場ゲートの前で気合を入れる。
「「続いては1回戦第15試合、
実況が俺の名前を呼ぶ。それと同時に目の前の門が開き、俺はフィールドに足を踏み入れた。
大勢の観客、グラウンド全面を使ったフィールド、周りに貼られた巨大なバリア、今年の春に見た景色そのままだ。
グラウンドの向かい側にある赤い門から1人の男子生徒が入場してくるのが見えた。
あれが対戦相手の一枝か。
俺と一枝はフィールドの中央まで歩いていき、お互い向かい合った。
「「さぁ、参りましょう。1回戦第15試合、試合開始ィッ!!」」
ブザーの音と共に門が閉じ、フィールドに俺と一枝2人きりになる。
俺はひとまず距離を取るために後ろに下がった。
一枝はそんな俺を見ながら右手を横に伸ばす。
「【
一枝がそう唱えると、伸ばした手の先に橙色に淡く光る棒が生み出された。一枝はその棒を手に取り身構える。
恐らくあれが一枝の能力で、あの棒が様々な武器に変化するのだろう。
俺が様子を伺っているのを見ると、一枝は棒を構えながら向かってくる。
そのまま棒術で戦うつもりだろうか。だとすれば事前に考えていた通り影人形と一緒にこちらも攻めよう。
俺がそう思い能力を発動しようとすると、一枝が手に持った棒を大きく振りかぶった。俺と一枝の距離はまだ開いていて棒が届く距離ではない。
「【
その瞬間、一枝の持った棒がみるみるうちに形を変え、棒の先に鎖が繋がりその鎖の先に棘のついた鉄球が付いた武器に変化した。
あれは確かモーニングスターという武器だ。漫画とかで見たことあるな。
俺がそんなことを思っていると、一枝はその武器を振り下ろした。殺意高めの形をした鉄球がどんどんと迫ってくる。
「かっ……【
俺は間一髪のところで影盾を生み出し、鉄球を防ぐ。
衝突音と共に盾を通してかなりの衝撃が伝わってくる。まともに喰らったら確実にダウンしていた。
「ちぇっガード硬いな」
一枝は俺の盾を見ながら呟く。一枝が放った鉄球は重量を感じさせる音を立てて落下し、俺の足元に転がった。
「(チャンスだ!!)」
モーニングスターの鉄球を手元に戻すには時間がかかるだろう。つまり、今の一枝は丸腰だ。
俺は影人形と共に距離を詰め、攻勢に出る。
俺は右足でローキック、影人形は左ストレートを繰り出した。左足を狙ったローキックは防がれてしまったが、影人形の拳は一枝の頬を捉えた。
「うぐッ……」
一枝が怯んだ。手応えありだ。
俺はこの隙を逃すまいと続けて打撃を繰り出す。
しかし、一枝は先程までモーニングスターだった棒を手元に戻し俺と影人形の攻撃を払いながら距離を取る。
「やっぱ2 vs 1はキツイな」
一枝は棒を構えながら口を開く。一枝も俺と同じように事前に俺の能力を調べてきたようだ。
「そんな盾も作れるなんて知らなかったよ」
「最近覚えた技だよ、試合では初めて見せたんだ」
俺は一枝の棒の動きに警戒しながらジリジリと距離を詰める。
2 vs 1にという状況に持ち込めばこちらが有利だ。
「でも、技の種類じゃ負けないよ。【
一枝の棒が今度は薙刀へと変化した。それと同時に一気に距離を詰めてきた。
薙刀の圧倒的なリーチと刃の脅威に、俺は防戦を余儀なくされる。少しでも近づこうとすると一枝の振り回す薙刀が襲い掛かってくる。
俺は一度仕切りなおそうと後ろに下がった。
「【
「【
俺が距離を取ったのを見ると、一枝は先程と同じように鉄球をぶつけようとしてくる。
攻撃を防ぐと、一枝は素早く鉄球を回収した。先ほどのような隙は無い。
一枝はモーニングスターを棒に戻しながら近づいてくる。俺は影人形と共に迎え撃つ。
「
一枝が思いっきり振りかぶった棒が今度は大鎌に変化した。三日月のような巨大な刃が迫ってくる。
俺はそれを寸でのところで躱す。
「もういっちょ!」
一枝は大鎌を振り回した勢いのまま一回転し、今度は大鎌を頭上に掲げてから振り下ろしてくる。
俺はすぐさま横に跳びそれも躱す。大鎌は勢いそのまま地面に突き刺さった。
あれが自分を貫いてたと思うと恐ろしい。
そう思いながら、俺は地面に刺さった大鎌に狙いを定める。
「【
影網を一枝の大鎌に絡ませる。これで武器を封じることが出来た。
「マジかッ!?」
俺は影網を片手で手繰り寄せながら、一枝との距離を詰める。その俺を見て一枝は大鎌から手を離して迎え撃った。それを見て俺も影網から手を放す。
お互い徒手空拳だ。
俺は右ストレートを繰り出すが、一枝に避けられ、返しのアッパーをモロに喰らう。
俺は痛みに耐えながら一枝の腹に向かって蹴りを放つ。一枝は腹の前で腕を交差させ、俺の蹴りを受け止めた。
俺の攻撃はほとんど避けるか受け止められ、その後も一枝にジリジリと攻められる展開が続く。
俺は肉弾戦で攻め切られる前に影人形を操り、2 vs 1の状況に持ち込む。一枝は影網の拘束から逃れた大鎌を掴み、振り回した。
俺は再び距離を取る。
手数の多さは一枝の方が圧倒的に上だ。一枝の能力を考えると作れる武器の種類は無限だ。この試合に勝つにはまずあの武器をどうにかしなければならないだろう。
しかも、モーニングスターや薙刀や大鎌を軽々と扱っているところを見るに、恐らく一枝の身体強化のレベルは俺より上だ。さっきの肉弾戦でも攻められる展開となってしまった。
一枝の武器の扱いには繊細さはないけれど、力任せに振り回せるだけのパワーがあるため脅威となっている。手数や能力の性質からして白兵戦は不利、何とか武器を封じて肉弾戦に持ち込んだとしても厳しい戦いになりそうだ。
一枝に確実に勝つには、影人形を使用せずに武器を封じ2 vs 1の状況に持ち込むことが必要だ。
中々厳しい。
「【
一枝の持つ大鎌が巨大なハンマーに変化した。一枝はそれを振り上げながら突進してくる。
「【
俺は再び影盾を作り出し、攻撃を防ぐ。モーニングスターと同じくかなりの衝撃を感じる。
その後も俺と一枝の攻防は続いた。
様々な武器を作り出し攻めて来る一枝と影人形と影盾で攻めと守りを切り替えながら戦う俺、今のところは互角だ。
しかし、勝つ方法が見出せていない俺に対して、一枝は初見の武器で不意をつくことや肉弾戦に持ち込むことで勝機を見出せる。
一枝の動きによってはいつ戦況が動いてもおかしくはない。早くこちらから打って出なければ。
「(でも、どうすれば影人形を使わずに相手の武器を封じれるんだ)」
考えている間にも一枝からの攻撃は続く。
防御に徹していると段々と魔力も体力も減っていくのを感じる。このままではジリ貧だ。
「(どうすれば攻勢に出られる……?)」
モーニングスターが迫ってくる。俺は盾で受け止める。
「(どうすれば近距離戦闘で一枝に勝てる……?)」
一枝が薙刀を振るう。俺は影人形と共にそれをいなす。
「(せめて薙刀や大鎌を受け止めることができれば)」
顔に向かってきた薙刀を影人形の拳ではじく。
俺はそれを見て思いついた。
「(そうか、あるぞ! 攻撃を受け止めながら攻める方法が!)」
俺は一度距離を取って体勢を立て直す。
「(狙うとしたら一枝が近づいてくる時だ)」
距離を取った俺に対し、一枝はモーニングスターで攻撃してくる。俺はそれを盾で受け止めた。
その俺に対し、一枝は距離を詰めてきた。先程までと同じ流れだ。
「(よし、今だ!)」
俺は初めて身体強化の練習をした授業での御陰先生の言葉を思い出す。
『化身型の生徒は身体全体を覆う化身を出すイメージをしろ』
その言葉まま、イメージして影人形を造形する。
「【
一枝の薙刀が俺に当たる直前、影人形が俺を包み込む。影人形はヒーロー映画に出てくるパワードスーツのように俺の身体の形に合わせて頭の先から手足の先までを覆う。
影人形を全身に纏った俺の脇腹を大鎌が襲った。しかし、ダメージはほとんどない。多少の衝撃は感じるものの大鎌の刃は通らず、影人形でできた鎧がしっかりと俺を守っている。
「なんだそれ!?」
一枝は俺の影鎧に驚き、後ずさりをした。
俺はその隙を見逃さず、攻勢に出る。
地面を踏み込むと一瞬にして加速し、一気に距離を詰めることが出来た。
まるで身体強化のレベルが数段上がったような、先ほどまでの俺には考えられないスピードだ。
影鎧を装着していれば総合的な身体能力が向上するらしい。自身の身体強化に影人形の魔力が加わりこのような効果をもたらしていると思われる。
俺は影鎧を装着したまま一枝に肉弾戦を仕掛ける。一枝は大鎌を薙刀に変え迎え撃つ。
薙刀が俺の足や肩に命中するが、ダメージはない。俺は攻撃を避けずに打撃を繰り出す。
一枝は俺の拳を薙刀で払う。俺はその隙に一枝の腹に蹴りを放つ。これはまともに命中し一枝は怯んだ。俺は攻撃の手を緩めず一枝の左頬に拳を放つ。殴りつけられた一枝はよろける。
影鎧を纏った俺はパワーでもスピードでも一枝を上回っている。加えて、一枝の武器による攻撃は俺にほとんど通用しない。その後も一方的な展開が続いた。
何発かまともに打撃を喰らった一枝はよろけながらも俺との距離を取った。
「【
一枝は再び鉄球を放ってくる。いくら影鎧でもあの殺意高めな鉄球は防げそうにない。
俺は横に跳躍して鉄球を躱し、そのまま一枝との距離を詰める。
「やべっ!」
鉄球を放った一枝は丸腰だ。
俺は距離を詰めた勢いのまま一枝の顎にアッパーを喰らわせた。
「グガッ……!!」
一枝は言葉にならない声を上げながら吹き飛ぶ。そのまま地面に倒れこんだ一枝は数秒間起き上がらなかった。
「「ノックアーーーーーーウトッ!!! 勝者、トオル カゲミチィッ!!!!」」
一枝が倒れた数秒後、フィールドに実況の声が響き渡り、歓声が聞こえた。
「はぁ、勝ったぁ~」
俺は一気に気が抜けて能力を解除すると同時にその場に座り込んだ。
「あっ! 一枝は!?」
俺は自分が吹き飛ばした一枝が心配になって駆け寄る。
幸い、もう意識が戻っているらしく周りをキョロキョロしている。
「大丈夫?」
俺は手を貸して一枝を立ち上がらせる。
「うん、ありがと。いやー負けちゃった、まだ顎が痛いや」
一枝は顎をさすりながら痛そうな顔をする。
「いやーごめんね。保健室行くといいよ」
一枝との二言三言交わしてから試合後の挨拶を終え、入場してきた門から控室に戻る。
とりあえず1回戦は突破できた。それに新しい技も出来たし上々だ。
俺は魔水晶で魔力を回復させたり保健室で傷の手当をしてもらってから、モニターで他の試合結果を確認した。
直弥も無事1回戦を突破したようだ。まぁ、前回準決勝まで駒を進めた直弥なら当然だろう。
明導くんも突破している。流石我らが学級委員だ。
意外なことに匣宮さんも突破していた。どんな相手との対戦だったのか少し気になるな。
俺はクラスメイトの試合結果を一通り見てから、自分の次の対戦相手を確認した。
1回戦第16試合の勝者、
______________________________________
能力名:【
型:化身型
・棒状の武器ならばどんなものにも瞬時に変化させることができる棒を生み出す能力。
・生み出した武器は込める魔力によって性能が変わる。魔力を込めるほどより硬く、より鋭く、より切れるようになり、武器の威力が増す。
・武器の大部分が棒状ならば一部が鎖などであっても変化させることができる。(例えば、モーニングスターは棒と鉄球と鎖を繋いだ武器だが、武器を構成する大部分が棒であるため変化可能)
影との道 ~能力激闘高校生活~ 藻野菜 @moyasai
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