第5話新たな旅路へ

プライドをへし折られたカーマは取り巻きと共に走り去った。


その場には俺達3人だけが残される。


「ハルトくん!」

「うおっ……! ユイ、大丈夫……?」


ユイが抱きついて来た。いきなりで驚いたがしっかりと受け止める。


「怖かった……! 怖かったよぉ……! もう、ここに居られないって! 君とも、二度と会えないかと思った……!」


緊張が解けたのか、堰を切ったように涙が溢れている。震える肩を抱き、安心させるように背を優しく叩いてやる。


子供の体はどうにも情緒が制御しずらい。だから些細な事で不意に涙が溢れてしまう。


俺はただ己の体が思うようにならず困惑してしまっていた。そんな時は母がよく慰めてくれたのだ。


だからそれを真似してみた。


「ユイ……もう大丈夫だ。そうだろ? セイヤ」

「ああ、ありがとなハルト。俺もお前に助けられた」


セイヤも安心したように頬を緩ませる。


「友達を助けるのなんて当たり前だろ?」

「おう、そうだな」

「……うん! ありがとう。ハルトくん」


顔を上げ感謝を述べるユイ。その涙まじりの笑顔が可愛らしくて……心が騒めくのを感じる。


「う、うん……どういたしましてだよ」

「あ、なんか……いつものハルトくんだ」


ぎこちなく返すと不思議そうにユイが見つめてくる。


「あぁ、口調か」

「あっ……」


セイヤに言われて思い至る。いつもは徳ポイントの為にも印象を良くしようと丁寧な口調を心がけていた。


けど怒りの余り知らない内に素の俺の口調が漏れ出ていたようだ。


「俺って言ってたよね?」

「俺って言ってたな」

「そ、それは……セイヤのが移ったって言うか……!」


いざ指摘されると急に恥ずかしくなる。


「良いじゃねぇか、今度からそれで行こうぜ」

「うん! なんか、いつもよりずっと頼りがいがあって……その! すっごくカッコよかったよ!」

「え、えぇ……!?」


変に思われる所か、逆に褒められて更に困惑する。


頬が熱くなるのを感じる。さっき迄あんなに張り詰めた空気が嘘のようだ……。


「……ぷっ! あはは!」


それがなんだかおかしくなり、思わず吹き出してしまう。


それを見て2人も笑い出す。日常が戻ってきたように感じて……胸の奥が熱くなった。


「てかあの動きなんだよ〜!魔法か?……あ、そういや親父さんが軍人だったよな? それか?」

「いつものハルトくんじゃ考えられない動きだったよね〜」

「えーと、とりあえず秘密で……」


俺のチート作成能力は神から与えられている。同じように神から力を与えられてる奴がいない限り、これを知られれば忌避の目で見られたり変な組織に狙われたりしそうだ。


だから2人にもチートの事は知られない方がいいだろう。


「ええ〜? 教えてよハルトくん〜」

「気になるじゃんかよぉ……いや、まさか秘伝の技術か……!? 一子相伝ならそりゃ教えられないか……」

「そっか。ならしょうがないよね」

「まあ、うん……そんなとこ」


自分達で勝手に納得してくれたらしく、この場は取り会えず誤魔化せた。


「ふぅ……うん、やっぱり私、2人の事好きだなぁ」

「ど、どうしたの急に」

「そうだぞ、藪から棒に」


突然ユイに好意を伝えられやや戸惑う俺とセイヤ。


「えっと、セイヤくんやハルトくんが来てくれなかったら私……こうして楽しく話せて無かっただろうなって……だから2人とも! 助けに来てくれて本当にありがとう。2人とは……これからもずっと友達で居たいよ」


真っ直ぐ想いを伝えるユイ。


「俺はいいとこ無しで助けられた側なんだが……ま、さっきもハルトが言ったろ? 友達助けんのは当たり前。んで俺もユイと同じ気持ちだ」

「うん、僕も一緒だよ」


セイヤに同意する。

3人で同じ気持ちを共有している……その事実が心地よくて、前世ではついぞ無かったその友情を噛み締める。


いや……前世では自分の心の奥底に誰も踏み込ませなかったんだ。犯罪してたし。けど、今世は違う。


徳ポイントの為とはいえ、俺は積極的に良い事をして人と関わろうとした。


だから……2人みたいな素晴らしい友達ができたんだと思う。


こうして俺達は無事それぞれの家へ帰宅した。


「ただいま、母さん。父さんも」

「おう、ハルトおかえり」

「おかえりハルトくん! どうだった? ちゃんとできた? 緊張しなかった?」


父はいつも通り短く、母も相変わらず過保護に出迎える。


どちらも声色は優しい。俺は両親にも恵まれたんだと強く実感する。


前世を考えると余りにも……恵まれすぎだ。


「うん、ちゃんと魔法を使えるようになったよ。父さん、母さん……今日まで育ててくれてありがとう。」


今日は本当に感謝されて、感謝しっぱなしの日だった。


その日は魔法解禁祝いとしてシチューにハンバーグ、今朝採れたての新鮮な野菜を使ったサラダや牛乳など……合わせて6人前くらいある豪華な食卓だった。


家族水入らず、たわいのない話をしてその日を終えるのだった。




数日後。


この日は俺が新たな地への出立の日だ。


行き先は首都トゥド……にある騎士・魔法使い育成機関セリヤベルグ学園だ。


学園名の由来は有名な騎士と魔法使いの名を組み合わせているらしい。


そう、俺はこれからそこへ入学しどちらかになろうと考えていた。


「ハルト、村の人達から餞別じゃ。お守りぐらいにはなるだろう」


見送りに来てくれた村人達。村長が代表して俺へ長い布に巻かれた棒状の物を手渡してくれた。


布を解くと、白く輝く剣が姿を現した。


「これは……!」

「シュバルツと呼ばれる木を使った木剣じゃ。名をシュタールシュナイダー……鋼を切り裂く意味を持つ」


シュバルツは白く太い樹木で、軽量かつ頑強なギガスギの中でも最高品質の物を指す。奇しくも俺の苗字と同じ名だ。


その強度は鋼を優に超え、切り出しから加工まで全て専用工具が必要な程だ。


それを素材にした剣となるとその力や価値は計り知れない……。


「お守り所じゃないですよ! こんな凄いもの……いいんですか?」

「良い良い! 何故ならお主はこの村の誇りだからじゃよ。先日もあのタチの悪い貴族の坊の鼻を明かしたろ? それに昔は祈りを提言し村を救った事もあったかのぉ……」


つい最近の事から数年前の事まで村長は語る。


「そう言った風に、村人皆がお前に助けられた事がある。ならばそれを返さねばバチが当たると言うものよ」


村長の言葉に皆が頷く。


「村長……皆も……ありがとうございます!」


俺は思わず泣きそうになるのを堪えながら、ありがたくそれを受け取った。




俺がした事は全て俺自身の為だと思ってやっていた。けど、こうして皆の役にも立っていた。


良い事をしたのだからそれは当たり前の事だ……だがそんな当たり前が、俺の第2の人生を豊かにしている。


前世の俺では考えられないな。


地獄で罰を受けた事さえ、この今に繋がるなら……少しは良かったと思えるかもしれない。




俺は少し離れていた両親の前に来る。散々昨日の夜や朝起きてからも話したので手短に。


「それじゃあ……父さん、母さん。行ってきます」

「ああ、ハルトならきっと大丈夫だ! 俺が教えた剣術があるからな!」

「頑張ってねハルトくん! 何かあったらすぐ連絡してね?」


挨拶を済ませ、俺は2人に見送られて大型の馬車に乗り混む。すると見知った顔が出迎えた。


「おう、来たかハルト」

「ハルトくんおはよう!」

「おはよう、2人とも」


セイヤとユイ……幼なじみの2人も俺と同じ学園へ入るのだ。


「これから2週間の旅かぁ〜。受験の時思い出すな」

「長くて大変な旅だったよね。なんせ首都までだから……」


アレは大変だった。特に長時間馬車だから尻は痛くなるし、道が壊れたトラブルもあったな。でも……


「でも……また3人での旅だから、僕は楽しみかな」


そう、大変さよりもこれからの楽しみが勝っていた。


2人も頷き微笑む。


馬車の窓から見える両親や村の人達。皆手を振って俺達の門出を祝福してくれている。


それに応えるように俺達も手を振る。


やがて村が点に見える程離れた。

そうしてやっと俺達は薄いクッションが敷かれただけの馬車の床へ座る。


騎士か魔法使いか。

どちらになるかまだ決めていないが、俺は変わらず善行して……たまにチートスキルを作ったり使ったりしながら天国目指して生きてくのだろう。


確かな未来への希望を胸に、俺達は馬車に揺られて行くのだった。



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チートクリエイター転生~地獄で身に余る罰を受けた俺はチート作成能力を与えられて人生やり直し!今生は天国目指して徳積みます!~ 竜田揚げゆたか @mutuki647

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