15「番外編」

夏音は、神野家を訪れていた。

軍の報告をする為である。


神野家は、このあたりでは土地が広く、資産家であった。

色々な会社を設立していて、世界中に広がっている。

神野家の一室で、いつもの様に小さなテーブルにお茶とお菓子を置かれ、そのお茶を飲みながら神野家当主、神野一輝と話をしている。


「あの太平洋に上がった陸は、神野家も関わる事になって、調査を依頼された。」

「そのようですね。軍でも、魔法使いを少し寄越して欲しいと。」


神野は、夏音が持ってきた資料を読み、先日の津波報告書を読む。


「しかし、キラスは、とてもいい働きをするな。」

「それは、頼もしいですよ。」


すると、一輝は一つのカードを夏音に渡した。

夏音は、両手で受け取ると。


「これは何のカードですか?」

「キラス、コンビと旅行するんだろ?その祝いだよ。」

「この様な贈り物は勿体ないと思われます。」

「いいから渡してやれ。」

「はい。」


ゴールドのカードで、名前は神野と書かれている。

このカードは、全国の旅行会社、とても小さく、今日出来たばかりの家族経営の店であっても、対応可能のカードであり、そこに持っていけば、旅行を全て企画し、案内と準備をしてくれるという。

このカードは、一輝も自分の新婚旅行で使ったから、とても便利なのは知っている。


「このカードも使い道が無くてな。使わないと破棄しないといけなくなるから、使ってくれる人がいると助かるんだ。」

「それならば、お受け取りします。旅行が済み次第、お返しに来ます。」

「そうしてくれ。それと…。」


一輝は、手を鳴らすと、一室の扉が開かれた。

開いたのは、一輝の傍にいる執事であった。

執事の名前は、山倉祠やまくらほこら

かつては一輝の師匠だったが、一輝が神野家の当主になると、執事となった。


「あの者を。」


一輝が言うと、山倉は「直ぐに連れてきます」といい、一室を出る。

五分もしない内に山倉は一人の少年を連れて来た。

少年は、神野一輝がこの家の当主だと知っていたから、とても緊張をしている。


「訊いた話だと、キラスと刃は、子供を願っていると。だったら、この少年はどうだろうと思ってな。」


一輝は、少年に向かって歩き、手を出すと、少年は一輝の手を取り、一緒に歩く。

少年が夏音の前にくると、一輝と手を離して、一礼をした。


少年は小学一年生位の年齢であり、見た目は何も能力がないと見える。


「はじめまして、僕は、十里とうりといいます。」

「十里君か。私は夏音だ。」


一輝は、十里を見ながら。


「この十里を、キラスと刃に任せようと思う。」

「そうか。なら、話はしておくよ。所で、十里君。両親が男性でもいいのかい?」


十里に訊くと。


「はい。僕は、その選択が出来ない身なのは分かっています。両親が出来るだけでもありがたいです。」

「いいんだよ。別に嫌なら嫌って言ってくれても。」

「いいえ。神野様の紹介なら、間違いはないと思います。」


とても賢い子だと、夏音は思い、その件も含めて、その日の内にキラスと刃に話をした。

すると、二人は夏音の意見を取り入れた。





刃とキラスは、軍の施設と近い場所に一軒家を見つけて、そこで暮らし始めている。

車で五分、海が見える場所であった。


家は周りには、樹で囲われ、庭も狭いがあった。

玄関を入ると、廊下が見える。

廊下の左右に一部屋、奥に一部屋あった。

上から見ると、三つ葉のクローバーの形をしている一階である。


廊下には階段があり、階段下がトイレとなっていた。

二階は上から見ると四角い形をしている。

階段を上がると、既に居間になっていて、台所には、IHクッキングヒーター、冷蔵庫、食卓、テレビ、ソファーなどが置かれている。


玄関上の二階スペースには、お風呂と脱衣場、洗面所があり、トイレももう一つあった。

脱衣場の一カ所は、掃除道具入れとなっていて、その横には洗濯機もある。


一階の奥の部屋を、子供部屋にしようと作っている。

ふと刃は思った。


「机、必要だよな。」

「そうですね。」

「だったら、俺が使っていた机、持って来ていいか?」

「かまいませんが、新品を買える余裕はありますよ。」

「でも、なんとなく、あの机がいいと思ってな。机以外は新品にしてやろう。」

「わかりました。では、早速、実家に孫が出来る報告も含めて向かいましょう。」


刃は、早速、軍から軽トラックを借りてきた。

キラスと一緒に走らせ、実家へといくと、夏音から連絡を受けていた司とサカが待っていた。

机を持ち運んで来ると訊いて、外まで運んでくれていた。


「孫まで出来るなんて、思わなかったな。」


司が言うと、刃はとても誇らし気にしていた。

キラスが、十里の写真を見せると、司とサカは、とても喜んでいた。


「結構、きっちりした子だね。」

「一度連れて来てな。」

「分かっている。十里君が、家と俺達に慣れてきたら、紹介するよ。」


机を軽トラックに運びながら、刃は言うと、キラスはもう一つ話をする。


「魔法が使える事は、十里君には教えておきたいので、今度の新婚旅行と任務は、一緒に行こうかと思います。行き先は、こちらになります。」


キラスは、資料を司に渡すと、子供部屋作りがあると言って、手短に話をして、家へと向かった。

家へと着いて、机を子供部屋へと運ぶと、机があるだけでも住んでいると思わせる。


「後は、ベッドに箪笥だな。」

「身に着ける物は、ちゃんと測ってからにしましょう。」

「本人が好きな色もあるから、一緒に買い物行こう。」

「そうですね。後は、小学一年生だと、ランドセル。」

「ランドセルも、店に行って背負わせ、色も選んでもらおう。」

「小学校は、夏音様がすすめてくれた所でいいかな?」

「夏音様のおすすめなら確実にいい。そこにしよう。」


そんな会話をしながら、子供部屋に掃除機とはたきをかけていた。

色々な書類が届き、全てに記入をして、それを持ち、神野家に刃とキラスが訪れる日が来た。

その時は、夏音も一緒だ。


神野家に始めて来た刃とキラスは、周りを見ながら緊張していた。

こんな豪邸、始めて来たからである。

門から玄関まで、どれくらいの距離があるのだろう。

それに、周りに植えられている木々が、とても生き生きしていて、見ていると落ち着いてくる。

とても大切に手入れされているんだろうと、見て分かるほどであった。


玄関までたどり着くと、門を開けてくれる門番がいて、中に入ると、一人の男性がいた。

男性は、快く受け入れて、夏音と話をする為の一室に通してくれた。

その男性は、神野一輝であった。

山倉にお茶をお願いして、一室にて話をする。


刃とキラスは、夏音と同じ様にすればいいと思い、軽々と椅子に座った夏音の後を追って、椅子に座る。

そして、持ってきていた資料を渡し、中身を神野が確認し終わると。


「さて、関口刃、関口キラス、はじめまして、神野一輝です。緊張しなずに、楽にして欲しい。」

「は、はい。」「…はい。」


一室がノックされて、山倉がお茶と十里を連れて来た。

十里は、一輝の隣に立ち、山倉がお茶を出している間、一言も話さず、待っていた。

その姿は、緊張をしているようで、ガッチガチである。


お茶を淹れ終わり、山倉が去ると。


「さあ、十里君。この二人が、今日から君の両親だよ。」


一輝は、右手を刃とキラスに向けた。

十里は二人を見ると、歩き出して一礼をする。


「僕は、十里といいます。これからよろしくお願いします。」


すると、刃は十里の前に右手を出した。

そして、そこからダーツの矢を出すと、十里にあげた。


「え?これ、どこから?」

「俺達、二人共、魔法使いなんだ。」

「え?魔法使い?」


キラスが、魔法の原理を教えると、十里はすごいって言い始めた。

その目は、とてもキラキラしていて、両手をグーにして、上下に振っている。

それから、十里と話す刃とキラスを見ると、夏音と一輝は大丈夫そうという顔をした。


その日から、十里は関口十里となる。

関口十里は、この時は知らなかった。


今、世間を騒がせている太平洋に上がってきた陸の主になるとは。





夏音は、まだ一輝と話があると言って、そのまま神野家に残り、刃とキラスは、十里と一緒に神野家を出る。


「十里君…じゃなく、家族だから呼び捨てで良いな。十里、今から、服と靴、それにランドセルを見に行こう。」


刃は、神野家の帰りに近くのデパートに向かった。


「え?でも、お金が。」

「子供がお金の心配はしなくていいよ。それよりも、何か食べたい物ある?」

「食べたい物……メロンかな。」


キラスも、十里を会話すると、次第に十里が微笑んで来た。

デパートまで歩いていると、風が吹いて来た。

その風は、とても暖かく、優しい。


「十里、寒くないか?」

「大丈夫です。」

「十里、手を繋ごう。」

「はい。」


十里を真ん中に、刃とキラスは手を繋いだ。

そんな三人を、快晴の空にある太陽が、暖かく包み込んでいた。





「これでいいんだな?ポセイドン。」


一輝は、夏音が帰った後、目の前にいる自分と顔が似ている人物に声をかけた。

ポセイドンと呼ばれた人物は、にこやかにしている。


「その言い方はやめてよ。お父様。」

「しかし、お前は俺の息子、咲矢さきやだが、海の神、ポセイドンの生まれ変わりなんだろ?」

「はい。でも、貴方の息子、咲矢も事実ですよ。それに、お父様にはその名で呼ばれたくないよ。」


神野咲矢は、次期当主で、マティドの兄である。

今は、世界中の海を見て、異変調査をしている。


それには、高校一年生になり十六歳を迎えた日、体育でこけて鼻血を出した時、自分の血を見ると、急に頭の中に、自分の魂が、実は海の神、ポセイドンだという記憶が蘇った。


「あの十里という少年が持っている能力は、まだ目覚める時ではありません。目覚めには、俺と同じ十六歳だと思います。ですので、それまでは普通の生活を経験するのがいいと思いますよ。」

「そうだな。、その様にするのがいいだろう。ってなんだ?」


一輝は、顔から微笑みが消えない咲矢を見て。


「いいえ。とても嬉しくてね。」

「そうか。で、夏音からの報告でな。マティドの様子だが……。」


周りからはシスコンと言われ、それを誇りにしている咲矢が心配で仕方ないマティドの話に入り、報告書を読みながら、神野親子の語らいが始まった。

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