14「修復」

「キラス、目を覚ませ!」


刃は、目を瞑ったまま横たわっているキラスに声を掛ける。





太平洋に、いきなり陸が浮かび上がってきた。

そこは、ムー大陸があるとか、アトランティスがあるとか、言われ研究されている所であった。

確かに、地球を見ると、太平洋がぽっかりと陸がなく、海で満たされている。

だから、昔はそこに大陸があったのではないかと、言われてきていた。


陸は、火山みたいに湯気を出しながら、山となって、あたりの海を温め気体化させながら、いきなり現れた。

そのことにより、太平洋に面している地域に、津波警報が出された。

津波を食い止めるのが、任務内容であった。


刃の任務は、海を凍らせる事。

キラスの任務は、結界を張る事。


まず、海の水を陸に上がらせない為に、津波事態を止める。

止めている間に、陸に面して暮らしている人々の避難と、建物や自然などに結界を張り護る。

津波が来ても、建物や自然などに影響がないようにする。


だから、まずは、刃の様に凍らせる、または、防御壁を作れる魔法使いが津波の前に立ちふさがり、津波を一時的だが止める。

そこまでは、完了した。


しかし、津波の威力は強く、止めておくのもそんなに長くは出来ない。


「キラス、後、どれ位だ?」


キラスは、太平洋の陸に面している、一部に結界を張る。

以前、北海道の一部だが結界に包む事をしていた位の魔法を使えていたから、太平洋に面している県、青森県、岩手県、宮城県、福島県、茨城県、千葉県、東京都、神奈川県、静岡県、愛知県、三重県、和歌山県、大阪府、兵庫県、徳島県、高知県、大分県、宮城県、鹿児島県の内、愛知県、三重県、和歌山県の面している所を担当していた。


丁度、三重県の鳥羽市あたりにある展望台に降りると、結界魔法を出す。

キラスの魔法は、いろは歌が星の形をかたどっている形で、それを出すために、右手と左手を前に出して、発動させた。

すると、次第に海の中、空の上までの魔法陣が発動される。


「これで、大丈夫。こちらキラス、結界、愛知県、三重県、和歌山県に発動完了しました。」


その声を最初に、各県の担当をしている結界魔法が使える人が完了の合図を行う。

また、津波が来た時に被害が被る地域にある建物や植物などにも結界を張る人がいて、それらも完了したとあった。


夏音は、それらを確認すると、津波を食い止めている部隊に撤去を言い渡した。

解除をすると、予知魔法を使う人が夏音に警告した。


「この津波は、普段の津波とは違います。威力が大きい。今の結界では、持ちません。」

「なに!もう一度、津波を行く止めろ!」


刃達に再度の指示をする。

刃達は、再度、自分の持てる魔法を使い、津波を食い止める。

だが、参加していた中には、最初に食い止めていた魔法でエネルギー不足になり、そこから決壊した。

その津波は、キラスが担当していた所へと向かっている。


刃は、自分の担当している徳島県と高知県辺りを、自分の凍らせる魔法を使い、津波を全て凍らせると、一緒に来ていた相座に維持を任せ、キラスの元へと行く。

飛ぶ力は、あれから強化されており、早さも増していた。


キラスは、結界を強め、自分の出せる力を全て注ぎ込む。

刃は、津波には追い付いて、自分の出せるだけ青色のダーツの矢を出して、津波に攻撃を仕掛けた。

結果、津波は凍り付いて、止まったものの、キラスの結界は次第に弱くなっていた。

三重県を護るだけで背一杯になり、和歌山県と愛知県の結界が出来なくなった。


補給要因として、愛知県の結界をマティドと、まだ、小さいけれど結界が使える魔法使いが担当し、和歌山県を夏音が担当した。


津波が来て、地域は護られたが、キラスが津波が引いた後、そのまま倒れた。


そして、刃はキラスに向かって飛び、声を掛け続けている。





「キラス!キラス!!」


声をかけているが、目を覚まさない。

刃の瞳からは、目いっぱいの涙があふれていた。

抱っこして見ると、いつもより少し軽く思える。

そんな刃の肩に手を置いた人物がいて、刃は振り向くと。


「父さん。」


司がいた。


司には、いつも家族の報告をしてくれる魂がいて、キラスも家族の一員としていたから、キラスを見守る魂がいた。

その魂が、キラスが危険な状態だと報告され、サカと一緒に来ていた。

本来なら、司もサカも避難している身である。

隕石の件で軍には配属されていないが、特別扱いをされていた。


軍の魔法使いには、瞬間移動の魔法を使える人がいる。

その人が、丁度、軍の施設にいて、説明をすると、キラスの所まで飛ばしてくれた。


司は、キラスの身体を見ると、目を細めた。


「これは、魂が抜けかけている。刃、今から、キラスの魂に語りかけてみるが、覚悟はしておけ。」

「え?それって。」

「出来るだけやって見る。」


司は、キラスの身体に手を置くと、目を瞑った。

手からは白い光が放たれ、キラスと司を覆う。


刃は、キラスの身体毎、身に引き寄せ、その光を包むかのように抱き締めた。





「帰って来い!キラス!!」






軍の医療室で目を覚ましたキラスが見たのは、横で眠っている刃だ。

刃の顔は、目の周りにクマを作っていて、顔色が少しだけ悪かった。


部屋にあるテレビがついており、そこでニュースが流れていた。

内容は、太平洋に現れた陸地について。


専門家が、ムー大陸とか、アトランティスとか、都市伝説に近く、オカルト方面でも話をしている映像であった。


刃は、目を覚ますと、キラスの顔を見る。

キラスは、目を開けているのを確認すると、次第に目から涙を流した。


「や、刃。」

「キラス!」


刃のその言葉で、隣の部屋にいたマティドが来た。


「キラス、起きたの?」

「はい。」


刃は、顔いっっぱいに笑顔になりつつも、涙が止まらなかった。

報告を訊いた夏音は、司とサカと一緒に医療室まで来た。

塩梅に六道に南野、相座、シュナもキラスの様子を見に来ていた。

キラスの周りには、たくさんの人が集まってきた。


「キラス、命を失いかけていたのよ。」


マティドは説明をし始めた。

説明を訊くと、キラスは夢を見たといった。


「夢の中で、司様が出て来て、いきなり殴られた。そしたら、目を覚まさないといけないと思って、左手を上に向けると、そこには同じ手があった。その手を握ると、次第に光が見えて来て、目を覚ました。」


すると、手を握っているのが、今までわからなかったのか、刃の手を握っていた。

刃は、ずっと、キラスの手を握っていた。


「私は、あの地を護れたのか?」


キラスは心配をしていた。


「うん。護れたよ。建物も自然も道路やガードレール、それら全て護れたよ。」

「そう、良かった。」


刃は、キラスの顔に笑顔が見られると、夏音が前に来て。


「一つ被害があるとすれば、キラスが倒れた事だけだよ。」

「ははは、心配かけました。義父さん。」

「本当、心配したよ。」


夏音は、うっすらと瞳に涙を浮かべる。

その顔をキラスは見ると、とても大きな心配をかけたと思い、胸が痛んだ。

だが、痛みは温かいモノに刺さっている痛みであった。


ふと、キラスは、疑問があった。


「義父さん、魔法使えたのですか?」

「えーと、まあ、使えるよ。全ての魔法は一通り。」

「どうして、今まで?」


その話は、聞いてはいけないと思い、キラスと夏音、そして刃以外は、この部屋を去った。

夏音は、話をする。


「私の魔法は、一通り使えるが、条件があってね。」

「条件?」

「家族が危険に晒されている時のみ発動という条件。」

「へ、そんな条件の魔法あるの?」

「うんあるよ。だって、私は家族がいなかったからね。」


夏音は、生まれて直ぐに両親が亡くなり、家族がいない、天涯孤独であった。

だが、いないのが当たり前で、施設の人に助けられて生きてきた。

施設は、身寄りのない小学校に上がるまでの子供達が住んでいる場所だ。

そんな時、施設の先生が教えてくれた折り紙を見て、興味が沸いて来た。

色々と折り紙を折っていると、先生のすごさが分かり、心にすごいって思い始めた。

先生の名は、神谷一夜かみやいちやという。


その時である。


手から、赤い光があり、それらが攻撃出来る武器だと思った。

攻撃の武器は、とても小さな紙であった。

その紙を折り、折り紙の基本、鶴を折り、一息かけると、折り鶴はそのまま飛んでいき、樹に当たった。

樹は、ひびが入って折れ倒れた。


施設の樹が折れたから、先生も子供達も驚いていて、検査結果は樹が脆くなっていたからだと言われた。

だが、夏音は施設の中でも頭の回転が良く、この力は広めてはいけないと思い、封印をした。

ただ、封印をした時に、決めてしまった。


「この力は、いずれ、自分に家族が出来た時、その家族の為に使う。」


その言葉が、決まりになった。

当時の夏音は、家族はこの先も出来ない。

いないと強く思っていたから、産まれた魔法である。


ある時、施設の折り紙を教えてくれた先生が、夏音に紹介をした。

その人物は、神野一輝かみのいっきという。

神野は、自然を増やす仕事をしていて、今回の樹が折れた報告書を読んだ時に、違和感があった。

神野は、妻のつたと親友の三城みきと一緒に、倒された樹を調査すると、夏音が放った折り紙の鶴が原因と突き止めた。


夏音は、怒られると思い、覚悟をしていた。

神野は夏音に手を伸ばす。

殴られると思った手は、とても温かく頭を撫でた。


それからは、とても早く、神野は夏音に家族を与えた。

親友の三城が夏音の引き取り相手になった。

三城夏音となった。

三城は、大学で一緒の勉強をしていた女性と結婚した。

しかし、女性は子供が望めない身体と知り、神野が三城と話をして、夏音を引き取るとなった。


夏音は、小学校、中学校、高校、大学と普通に進み、魔法の事も神野と三城には話をして、大学が終わった後、神野の情報に軍には魔法を使う部隊があるのを知り、夏音をその道へと進めた。


夏音は、小学生の時から一緒に学び遊んだ女性の友達がいて、その女性から告白されて、高校卒業と同時に結婚し、婿養子となり、海青夏音となった。

軍に入って、いざ魔法を使おうとするが、使えなく、発動もしなかった。

だが、神野からの紹介ということで、その当時の軍の指揮官が自分の代わりにならないかと思い、指揮官の仕事を覚えさせた。

指揮官は、魔法が使えなかったのと、自分の身体が弱っているのを感じていて、代わりを求めていた。


指揮官の仕事を吸収するのが早く、若くして軍の指揮官へと上がる。

その時の指揮官は、軍をやめて、自分の身体を治療に専念し、今でも夏音は見舞いに行っている。


そんな時、夢を見た。

夢では、イタリアの海で泣いている子供である。

とても現実的で、夏音は手を伸ばすと、夢から覚めた。

その夢を神野に報告すると、すぐに調べが始まり、夏音をイタリアへと送った。


「そこでであったのが、キラスだよ。」


キラスは、夏音の生きた道を訊くと、とても多くの人が、この現在へとつなげてくれたと感じ、涙があふれていた。

刃は、キラスの涙をふき取り。


「キラス。」


名前を呼ぶと、さらに涙があふれて来た。

キラスは、声を上げて泣いた。


しばらくし、キラスが落ち着いてくると、刃は夏音に頭を下げた。


「夏音様、貴方が俺とキラスを出会わせてくれた。とても感謝をしています。」

「刃。」

「キラスの事、俺が幸せにします。これからも見守っていてください。」


頭を上げると、夏音は微笑んでいた。


「ええ、キラスの事よろしくお願いしますね。」

「はい。」


一つ疑問が湧いて来たので、夏音に訊く。


「いつ、家族が危険な時じゃないと発生しないって、わかったのですか?」


キラスが夏音に訊くと、ふと微笑んで。


「キラスがまだ日本に来て間もない頃に、海に連れて行ったんだ。イタリアと日本は海といっても性質が違ってね。イタリアでは泳げたけれど、日本では同じ様に泳げなくてね。海でおぼれた事があったんだよ。その時に、私が助けなきゃって思ったら、手から紙が出て来たんだ。そこで風船を折って息を吹きかけると、キラスを助けられる位の大きさになり、移動魔法を使ってキラスに届けた。キラスは、その風船につかまっていたけれど、潮流が激しくてね、自分が空を飛べればと思っていると飛行魔法が出来て、キラスの所まで飛んでいけたはいいけれど、キラス、意識を失いかけていて、そこで助けたいって一心で治療魔法も使えちゃったりして、海の中だけどキラス、意識を取り戻したから、そのまま陸へとキラス抱えて飛んで行ったんだ。周りが、私が飛んでいるから、驚いてしまってね。瞬時に結界魔法を張って、電波妨害して、ついでに、私の飛んでいる姿を見た者全てに忘れてもらう為に情報操作魔法もかけたんだよ。その時にうっかりキラスにもかかってしまって、キラスも忘れちゃったんだね。あの時は、沢山、魔法使ったから、水分と食事が進む進む。それにとても眠かったんだよ。」


息継ぎしているのか分からない位の速さで話す夏音から放たれる真実から、キラスと刃は、さらに海青夏音という人物が、とてもすごい事を再確認させられた。


そして、夏音は医療室を去ると、キラスは刃に顔を向けた。


「義父さんの魔法、みたいんだけど、データーとかない?」


そんな話を訊いた後だから、あの任務でどんな魔法を使ったのか、とても気になった。


「あるぞ。そういうと思って、タブレット持って来ている。」


ベッド脇のテーブルにあるタブレットを取り、その時のデーターを見せる。

その姿は、確かに、手から紙が出てきて、急いで折り紙をし、盾を作った。

盾に息を吹きかけると、順番に大きくなり、和歌山県の沿岸をガッチリ覆える位になった。

その盾をもう一枚作ると、今度は愛知県を覆える位の同じ盾を作り、瞬間移動が出来る魔法を使い、愛知県を護っているマティドがいる場所まで届けた。


その姿をみたキラスは。


「すごいな。」

「ああ、俺もこのデーターを見た時には、とてもすごいなって思っていたよ。」

「え?刃は、直にみたのでは?」

「それ所じゃなかったよ。」


刃は、キラスを見た。

キラスは、刃の顔を真っ直ぐに見ると、涙があふれて来た。

とても、大切にされていると、再度認識したキラスに、刃は、魔法で緑色のダーツの矢を出した。

それをキラスに渡す。


「これは、修復の魔法。このダーツの矢が消えた時が、完全回復した証拠になる。」


キラスは、緑色のダーツの矢を受け取ると、夏音から受け取った折り紙で作られたピンクのダーツの矢を思い出した。

自然と笑顔になり、キラスは刃の顔を見ると、そこには刃の熱が伝わってきた。

熱が離れると、キラスは口元を左手で覆う。


「愛しているよ。キラス。」


刃の笑顔は、キラスの力となった。





緑色のダーツの矢が消え、キラスが完全回復をした。

軍の施設では、キラスの回復が報告され、廊下で出会う人が祝福してくれた。


刃の部屋を訪れると、そこには司とサカがいた。

キラスは、司に礼をすると、司はキラスの頭を、人差し指ではじいた。

頭を両手で覆うキラスを見て、司は笑顔になる。


「あの時は、焦ったよ。キラスの魂が、肉体から離れようとしていたから。」

「お手数おかけしました。」

「でも、よかった。戻ってくれて。」

「殴られましたからね。」

「ははは、でも、その方法で良かっただろ?」

「はい。」


サカも魔法は使えないが、司の魔法を増幅させる為に手伝ったのは、内緒である。

どんな手伝い方をしたのかも、内緒である。


「刃は、とても頼りがいがある男性になったと思う。キラス、刃をよろしくお願いします。」

「はい。こちらこそ、刃と、これからも一緒にいます。」


刃は、司とキラスの会話を遮るように。


「さて、キラス、新婚旅行はどこにしようか?」

「へ?」

「旅行の相談する為に父さんとサカさん来てもらったんだ。ほら、パンフレットに旅行雑誌。」

「刃、我々、軍に所属する者が旅行など。」

「これが任務だと言ってもか?」


刃は、一枚の紙をキラスに見せる。


「関口刃、関口キラス、二人に偵察を言い渡す。下記の地域の中から、一カ所決めて、めぐるように。って、これの次いでに旅行だと。任務と私用を混合させるなと言いたいが、夏音様からの任務なら仕方ないな。」





関口刃と関口キラス、この二人のコンビは、二人が亡くなるまで続き、軍でも二人が一緒にいるのが当たり前になって、いつまでも任務をこなしていた。


任務をこなしていると、二人にピッタリの仕事が見つかった。

どうやら海中の掃除が、刃とキラスにはあっていた。

海中探索になると、ほぼ二人が任命される。

刃が、清掃する仕事に就きたいという願いが叶っていた。


軍の施設、最上階にいくと、海が見える。

最上階は、灯台になっていて、中はエレベーターで上がれる。

海は、とても穏やかで、落ち着いていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る