13「再現」

高校卒業式が終わり、軍に呼び出しを受けていた刃。

高校までは、キラスが迎えに来ていた。

もはや、刃は自動車の免許を取っていたが、自動車での通学が禁止されていたから、卒業しても次の就職や進学までは、高校生扱いであり、学校のルールに従う。

だから、四月までは自動車で学校へは、行けない。


「卒業おめでとう。刃。」

「ありがとう、キラス。」


自動車に乗ると、卒業証書入っている筒を膝の上に置いた。


「司様とサカ様は?」

「二人共、卒業式終わったら仕事に向かったよ。」

「仕事?サカ様は?」

「今は、父さんと一緒に市役所勤めだよ。あれから、試験や面接受けて、合格したんだ。」

「そうか、一緒にいられるのはいいね。」

「そうだね。」


刃は、制服のポケットに意識を移したが、今日はこれから軍に呼ばれている。

キラスへの用事は、任務が終わってからにしようとした。


軍の施設に着くと、早速、訓練場に来た。

マティドが待っていて、説明をする。


「軍が開発した魔法使いの情報を入れて動くロボットよ。」


ロボットは、とても精工に作られており、見た目は人間型のフィギアだ。

フィギアの見た目は、刃もキラスも良く知っている人物だ。


「母さん。」


そう、刃の母、さやであった。

タブレットで見た恰好であった。


これを作った人は、火花さやをよく研究していると思う通り、細かに作られていた。

目も瞬きが出来て、笑えば頬が自然と動き、ロボットというよりは、一人の少女が目の前にいると思われる位の出来上がりである。


「で、刃君に試して貰いたいのは、このロボットに最強であった「さや」のデーターを入れて、対戦して貰いたいのよ。」

「え?」「げ!」


刃は、驚いていたが、キラスは嫌な顔をさせていた。


「さ…最強だった頃の……さや様?」

「はい。」

「刃と闘わせるのか?」

「そうね。魔法使い同士で闘って欲しいのよ。」

「刃!」


キラスは、刃に顔を勢いよく向けた。

刃は、そんなキラスに驚いている。


「やめておけ!さや様の力は、私がよく知っています。あの攻撃は、結界魔法が使える私の結界を破壊する位の力ですよ。」

「そんなにか。」


刃の顔を見ると、ワクワクしている。

キラスは、止めても無駄って思ったのか。


「それは、結界が張れる私も参加。」

「してはいけません。」


マティドは、にこやかにキラスを止める。


「でも、刃が。」

「危険だと思ったら、こちらでロボットを止められます。」

「しかし。」

「キラス。これは、命令ですよ。」

「ぐ。」


命令と訊くと、否定できない。

軍の掟が、キラスを支配していた。

刃は、既に、自分の身体を解すために体操をしていた。


「キラスは見ていてよ。こんな機会ないんだから。」


キラスにウインクをした。


「やっと、母さんを……火花さやと闘える。火花さやを超えるのは、今しかない。」


刃は、火花さやロボット、「さやロボ」と対戦する。

さやロボは、データーを入れられ、目を開けると、目の前にいた刃を見た。

刃は、さやロボに見られると、自然と身体を防御の形にする。


「へー、あんた。魔法使うのね。私も使うのよ。」

「へー、最近のロボットは、こんなスムーズに話せるんだな。」


すると、さやロボは右手の平を上に向けて出し、手裏剣を一枚出す。

刃も、同じくダーツの矢を一個出した。


「あんた、ダーツなのね。私の手裏剣とどっちが強いかしら?」


言い終わると同時にさやロボは、手裏剣を投げる。

刃は、それを避けると同時にダーツの矢を投げるが、さやロボは避ける。

今度は、数を五個に増やして、同じくすると、同じように避ける。

それを、十個、五十個、百個にしても、同じく攻撃して、避ける。


「百個出せるのね。すごいわ。」

「そっちこそ、後どれ位、手裏剣出せるんだ?」

「千個以上は軽いわ。出来るなら、視界全てを手裏剣に変えられるわよ。」

「千……俺は、そこまで出せるのかは自信ないが、けれど、俺は威力は大きいぜ!」


刃は、自分が出せる最高の数を出した。

その数は、自分の視界を尽くすほどである。

ダーツの矢一つ一つには、強力な魔法を込めてあり、瞬間にさやロボに向けて攻撃する。


しかし、さやロボは、ニヤリとして、同じ数手裏剣を出して、ダーツの矢を全て破壊した。


「そ…そんな。」


刃は、目を見開いて、驚いていた。

さやロボは。


「今度は私の番ね。さっきのは、君の最大の数だったんでしょ?私も私の最強の数出してあげる。全部、撃ち落とせるかしら?」


さやロボは、その言葉通り、手裏剣を出せるだけ出した。

訓練場の空気が、全て手裏剣かと思う位の数だ。

刃は、自分の周りを見ると、手裏剣で覆われている位であり、とてもじゃないが、この数は異常だ。


「この部屋の大きさだけでは、手裏剣全て出せないわ。まあ、いっか。さあ、私の手裏剣達、行きなさい!」


さやロボは、手を刃に向けると、手裏剣達は刃を襲う。

刃は、自分の出せるダーツの中で、この量を覆える力となると、青色のダーツに変化させた。

そして、手裏剣で埋め尽くされた視界から、目を見つけると、そこに一本の青色をしたダーツの矢を打ち込む。

すると、そこを中心に、全ての手裏剣を順番に凍らせ、全てが氷に覆われた。


「すごいわ。私の手裏剣を全て、一つにするなんて。」


さやロボは、興奮していた。

刃は、一つになっている手裏剣の氷から、また、目を見つけ、今度は赤色のダーツの矢を出して放った。

すると、手裏剣の氷は、全て砕け散ってなくなった。


「あなた、そんな変化も出せるのね。」

「はーはー、すごいだろ?」

「うん、すごくいいわ!なら、私も出来るかしら。」


さやロボは、火花さやが出来なかった事もやろうとした。

その時である。

さやロボは、動きが止まった。


刃は、身構えたが、マティドはロボット開発者と、この闘いを見ていて、刃に教えた。


「予想外の事が起きて、ロボットが停止したみたいよ。」

「予想外?」

「火花さやが出来なかった事を、そのロボットがすごいと思って、やろうとしたから、予想外のデーターで動かなくなってしまったの。」

「だったら、この勝負、どちらが勝ちなの?」

「それはもちろん、刃君よ。」


刃は、訓練場で倒れた。

そして、大の字になって、右手を拳にして上に突き上げた。


「やったー。母さんを超えた!」


その姿を見て、キラスは、考えていた。

確かに、刃の勝ちだ。

それは、ロボットに「すごい」と思わせてしまった。

それにより、魔法のデーターを埋められたロボットが、さらに強い魔法を使おうとした。

データーにありえない力を出そうとしたのだ。


魔法は、ない所からあるに変える力。

それをロボットがしようと思う位、刃の魔法は強くなっていたのである。


キラスは、刃を認めるしかなく、水分を持って刃に近づいた。


「キラス?」

「よくがんばりましたね。刃様。」


すると、刃は、顔を赤く染めた。


「やめろよ。その言い方。」

「でも、さや様以上になったら、いう約束。」

「キラスには、言って欲しくないし、あれは俺にとっての黒歴史。」

「そうなんだ。」

「いつも通り、呼び捨てで良い。」


刃は、起き上がり、ポケットにある物をキラスに差し出す。


「これを受け取ってくれ。」


刃の手に握られていたのは、指輪であった。

その指輪は、刃が軍で稼いだお金で買ったものである。

夏音から、刃の事を考える様にといわれ、高校生の内は見守るとなっていたが、答えを出さないといけない時が来てしまった。


多分、卒業間近で言われると思っていたから、心の準備はしてあった。

しかし、この訓練場でとなるなんて予想外だ。

訓練場は、まだ、マティドもいて、ロボット開発者も見ている。

モニターでは、夏音も見ている。


指輪をケースに入れて、見せている刃を見て、頭を少しだけかく。

キラスは一息吐くと。


「私はてっきり刃は、シュナが好きだと思っていた。」

「そうみたいだね。どうそんな風に思っていたのか。」

「本当に。様子を見ていたが、刃は私を気にしてくれていたのは、伝わっていた。…結果的には、刃の気持ちを受け取りたい。」


刃は、そのままで続きを待っている。


「確認をする。私は、男で大人だ。刃とは、二十八も離れている。今年で四十六のおっさんだ。それでもいいのか?」


キラスが、日本に夏音が養子として連れて来たのが、七歳。

さやと出会ったのが、二十歳の時。

さや…サカが刃の産んだのが、二十歳の時である。


刃は深いため息を吐いた。


「もう、年齢とか関係ないよ。俺は、キラスがいいんだ。」


指輪をケースから取り出して、キラスの左手を掴んだ。


「さあ、覚悟はいいか?キラス。」


キラスは、刃の視線で何とも言えなく、そのまま指輪を薬指に受け入れてしまった。

刃は、キラスの左手の薬指に指輪を確認すると、満足した顔になった。


「これで、キラスと恋人同士になったな。」

「刃、本当に、私でいいのか?」

「キラスだからいいんだよ。おっさんとか関係ないって。」

「でも、子孫残せませんよ。」

「そこの所は、両親は別にいいと言っているし、夏音様がもしも子供が必要なら、養子の手続きをしてくれると言っていたぞ。世界には親を必要としている子供が沢山いる。だけど、子供から見て両親が男でよければだけれどな。」

「義父さんならやりかねませんね。確かに両親男でよければ、だな。」


だが、この地域には、両親男性で、一人の女性を養子にした経歴をもっている家庭が一つあった。

一人の男性は、手芸の会社、一人の男性は、ホテルで料理人。

その二人に育てられた女性は、警察官になっている。

この話は、両親男性で目立っていたから、この地域の話題になっていた。

願わくば、両親が同性であっても、目立たない世の中になるといいなと、刃もキラスも思っている。


それに、今の刃は、両親が男性の家庭環境で育っている。

身体が女性であるさやであっても、中身は男性のサカと一緒に暮らしている。

家の中では、サカはサカとして、男性の口調をしているから、結果的に男性三人が一つの家で暮らしている環境だ。

刃は、別に両親が男性というのを継続中な為、親の立場と子供の立場、どちらの気持ちも分かる。


キラスは、ふと、養子である自分の再確認する。

刃からは、キラスが少しだけ寂しそうにしていると思ったのか。


「キラス。愛してるぜ。」


笑顔で刃は言うと、キラスはどうでも良くなった。

それ位、刃の笑顔はキラスの心を解かしていく。


「さて、キラス。籍を入れる日をこれから決めようか。そうそう、結婚式もしよう。この軍の施設でやろう。それと、俺は、この軍にそのまま就職したからな。大学も通信教育で受けるし、後は資格、色々とあるからまずは生活の一部、簿記から始めるよ。」

「刃、そんなに一度に。」

「大丈夫。魔法がなんとかしてくれるって!それに、俺は、まさかこんな気持ちが産まれるなんて思ってみなかったからな。そう、愛という形の無いモノ。魔法ってないものをあるものにするんだろ?俺がキラスを愛していれば、魔法は無くならないし、強化出来るよ。」

「まったく、刃、君という人は。」


キラスは、左手薬指にはまった、まだ慣れない指輪を見て、微笑んだ。


軍は、初めての職場結婚で、盛り上がっていた。

この火花さやロボットと関口刃の魔法対決は、モニターで映し出されていた。

まさか、刃がキラスに告白するとは思わなく、その場面もきっちりと流されていた。


その日は、家に帰り、司とサカにキラスと一緒に報告すると、司もサカも祝った。

軍の中では、ひっそりと恋心を芽生えさせている人もいて、刃とキラスの件をきっかけに恋愛をする人が現れて来ていた。


マティドは、その結果報告を見ると、魔法と恋愛の関係性についての研究をし始めた。





「いかなることがあっても、相手を愛しますか?」


夏音は、軍の会議室を教会風にして、神父の真似事をしている。

目の前には、軍の制服を着た刃とキラスがいて、お互いに。


「「はい!」」


元気のいい声で、返事をした。


「よろしい、では、誓いのキスを。」


良い所で、ビービーと警報が鳴った。

こんな事態になるんじゃないかと思い、制服のままでいた。


「刃。続きは、任務後だ。」

「ああ、じゃ、俺達がすることはただ一つ。」

「「エネルギー補給だ!」」


仲良く手を繋いで、食堂へ行く。

その姿を夏音は見ると、緊急事態で険しい顔の前に、微笑みを作った。


「さて、恋人の誓いを邪魔したのは、どなたかな?」


夏音は、指令室へと向かった。

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