12「始末」

世界中で見られた隕石の報道は、自然に消滅したとなっていて、天体観測をしている人も、大気圏でなくなったのを確認している。

そんな中、さやは退院してきて、家にいる。


キラスも交えながら、例の客間で話をしている。


「さや様。魔法は?」


さやは、手を前にかざして、魔法を出そうとしても手裏剣を出せなかった。


「やはり出ない。この身体を留めていた火花さやの魂が完全に消滅しているのを、確認出来る。」


さや……、さやの身体に入っている魂が発する。

あの後、魔法を使い切ってしまったさやの魂が消滅して、もう一つの軍を指揮をしていた男の魂が、さやの身体を動かしている。

長年、さやの身体にいたから、身体と魂が定着したのだろう。


「貴方がいたから、あのような他人事の様な言い方だったんだな。」


刃は、さやに言うと。


「ああ。だが、これからは、そういうのは無しにして、ちゃんと、この魂で、この身体で生きていくよ。」


さやは司を見ると、司は微笑んだ。


「所で、中身、おっさんだよね?俺は、変わらず、母さんと思ってこれからも接するけれど、おっさんの名前教えてくれない?」

「そういえば、教えてないな。」


キラスを見ると、キラスも訊きたがっていた。


「私は、南都みなみとサカ。昔は、この辺に住んでいる人は、名前がカタカナなんだ。」

「サカ。なんか、さやと発音が似ているね。」

「そうだな。だから、これからもさやでいいよ。」


さやの姿をしたサカは、刃の頭を撫でると、刃は撫で方はさやがいた時と同じで、何も変わらないと思った。

しかし、一つだけ質問があった。


「でもいいの?父さんは、相手が男であっても、さやの身体に入ったサカさんごと受け入れたみたいだけれど、サカさん自身は?」

「司が、私でいいなら、それでいい。これからも変わらず、司の傍にいたいと思う。それが、私の仕事だ。」

「そう。それなら。にしても、これから大変だよね?家ではサカで、男口調でいいけれど、外ではさやを演じないといけないんだから。個人面談とか、近所付き合い、地域交流など、気を付けてよ。」

「わ…分かっている。」


会話を訊いて、司とキラスは微笑んだ。

その二人に刃は、一言投下する。


「で、キラス、俺への返事は?」

「え?」


キラスは、突然降られた言葉で、告白されたのを思い出した。

司は、キラスを見て。


「キラスさん、どういうことですか?」

「え?私は別に。」


刃は、説明すると、司とサカはキラスを見て。


「まだ、中学生なんだ。変な事は教えないでくれよ。」

「キラスさん、大人の対応でお願いしますよ。」


何故か、キラスに言葉をかけていた。

その姿は、子供を必死で守る親であった。


「変な事も大人の対応も、私は、刃の告白を受け入れては。」

「「うちの刃では不服だと?」」

「えー。私にどうしろと。」


その様子を見ながら、刃は顔全体で笑っている。


それからの生活だが、刃は魔法の訓練を受けていた。

空を飛ぶ訓練を付き合ってくれたのは、相座であり、少しずつであるが浮けていた。

キラスは、相変わらず、刃とは意思疎通が出来ていて、家と軍の施設を送迎している。


キラスが学校の勉強も見ていて、成績が中の下だったのが、上の中まで、中学三年生で上がってきた。

高校受験も、この辺りではレベル高い県立流石高校へ余裕ではないが入れる位まで上げた。


さやが貯めてくれていたお金は、刃の為に使い、高校受験や大学受験などの費用に充てた。

それが、さやへの手向けだと思った。


刃が高校へ入学した時、新たな任務があった。

それが、海の中に沈んでいる船の回収だ。

どこかで訊いたことがある任務だが、探索魔法を使える人が、探知した。

その海は、日本の南部の海であり、大昔に難破した船だという。


船の状態は、どうなっているのかわからないが、一隻の船が引き上げて欲しいと訴えていると情報が入って来ていた。


もう、空を自由に飛べる刃だが、海の中に行こうとしたら、結界は必要で、キラスとの任務になった。

空を飛び、海の中心に行くと、キラスの結界に入って、海に沈む。


「さや様との任務を思い出しますね。」


キラスは、あの時の任務を思い出しながら、刃と話をする。


「やはり、母さんは強かったの?」

「強かったよ。」

「俺は、まだまだ?」

「ん?もしかして、刃、さや様に嫉妬を?」


刃は、顔を赤くして、首を前に動かす。


「あの時の母さんを追い越さないと、俺は、キラスの横に並べないと思うから。」


あれから、刃は過去の火花さやの動画を何度も見直し、部屋にあった本を全て読み終わっても、再度読み直し、魔法の能力を高めていった。

しかし、どうしても、自分の母を越せない自分に焦っていた。


「刃は、ゆっくりと成長していけばいいと思うよ。」


キラスは、優しく諭してくれる。

船が見えて来た。


「ほら、今は、目の前に任務だ。」

「うん。」


内心、キラスとしては、刃をどう思っているかは、前向きに好意を持っている。

いや、持とうとした。

それには、夏音からの言葉があった。





「刃君から、告白されたんだって?」


キラスと夏音は、養子とはいえ親子として接している。

その親子の会話だ。


「されましたけど、相手はまだ子供。大人の私が、本気になって受け入れれば、成長の妨げになります。」

「でも、恋心は止められないと思うよ。」

「だとしてもです。それに、私は男ですよ。」


夏音は、キラスの目を真っ直ぐに見ると。


「刃君は、男とか関係なくキラスだからこそ好きになったと思うのです。好きになるには、男だからとか、女だからとか、性別で判断するものですか?」

「うーん。」

「ちゃんと、向き合って、答えを出しなさい。」


話をしている間に、ピンクの折り紙でダーツを折っていた夏音は、それをキラスに渡す。

受け取るキラス。


「私としては、息子がもう一人出来るの、とても楽しみにしていますよ。」

「義父さん。この地域は、同性結婚、認められているけれど、気が早いのでは?」

「それでも期待はしますよ。」





キラスとしては、刃の思いを受け止めたいと思っている。

だが、今ではなく、刃の進路が決まってからだ。

それまでは、今まで通り、見守る形になっていた。


「船、大きいですね。」


刃が感想を言うと。


「でも、これ位なら、私の結界で持ち上がりますよ。」

「俺がやるのは、海底と設置している場所を破壊でしたね。」

「見えるか?」

「もちろん。」


刃は、海底を見ると、光る所が見えた。

赤色のダーツを取り出し、魔法を込めて投げる。

すると、船が少し浮き上がった。


その瞬間を逃さなく、キラスは結界魔法を使い、船全体を覆うと、そのまま浮上する。

船が地上の空気に触れると、空で待機をしていた軍のヘリコプターから、複数降りて来て、船に乗る。

船はボロボロだったが、見て船だと分かる位には、形状を保っていた。

この船がどういう役割をするのかは、刃とキラスは知らないが、日本にとって助かる方向になったのを、ニュースで取り上げられた。


任務が終わった後、刃とキラスは、キラスの結界にいたとしても、濡れていた。

軍の入浴室で身体を温める。


「はー、いつ入っても、軍のお風呂はいいな。」

「そうだね。とても気持ちがいい。」

「キラス、俺、筋肉ついたかな?」

「義務教育までは、筋トレをやると背が伸びないって言われて、高校からし始めたんだっけ?まだまだだよ。」

「そうか。でも、俺、キラスを抱き上げる事は出来そうだぞ。」

「馬鹿な。私は、そんなに軽くないぞ。」


すると、キラスは、湯船につかっていたキラスの背中と膝裏に手を差し込み、そのまま立つ。

急に、湯船から上げられたキラスは、驚いていた。


「な!下ろせ!」

「ほら、持ち上げられただろ?」

「だからといって、周りの迷惑になる所ではやめろ。」

「はーい。」


刃は、キラスを再び湯船の中に入れる。

キラスは、そのまま浸かって、刃に視線を向ける。


「悪かった。」


そう思ったのは、以前、キラスにお姫様抱っこをされたのを思い出したからだ。

あの時は、自分の顔が女顔だと思い、女扱いされるのが嫌だったが、今では、女顔ではなく、男性の顔をしている。

前は、女に間違えられたが、今はそれがない。


進路相談の時に、さやがメイド服が似合うなんてこといっていたが、今では似合わない位の顔つきと身体をしている。


「そういう周りの状況を見て判断出来ないようでは、任務に差し支えますよ。」

「そうですね。」


キラスは、先に上がる。

刃は、風呂に入っている周りに礼をしながら、ご迷惑をおかけしましたといい、キラスの後を追う。

着替えて、牛乳を持って、刃の部屋に行く。

キラスも一緒で、お互いに乾杯をして、牛乳を身体に入れると、プファーといい、身体を休めた。


早速、ベッドに横なるキラス。


「少し休ませる。」

「分かった。」


刃は、また、繰り返し、この部屋に残されていた本を読み始めた。

何度も読んでいるから、本が少しだけボロボロになりつつある。

その姿を薄目で見ながら、キラスは眠りに落ちた。


刃は、キラスが完璧に眠ったと思うと、キラスの顔を見る。

とても整っている顔をしていて、大人の男性を意識させる。


大人の男性。


刃は、自分の身体を見ると、大人の様で子供の身体。

子供の様で、大人の身体。

こんな中途半端の形をしている身体を見ると、まだまだだと思う。

先程、抱き上げられたが、それでも、手はプルプルしていたのを感じたからだ。


それに、魔法もあの時、隕石の任務でさやが見せた、視界全部が手裏剣で覆われた数。

あの数、刃はダーツの矢を出せない。

あの数が出せれるようになってこそ、自分は母を超えられると思っていた。


さやの最後の魔法は、世界の魔法を使える人の目標となっていた。

その証拠として、精度がグングンと上がっていた。

訓練も頑張ってしていて、世界に広がっている


隕石の時から、世界は少しずつ協力という形で、国同士でいがみ合っている場合ではないと意識を向けて、地球国としての統制を取り始めていた。

だが、問題は、誰を地球国の長にするかで揉めていた。


地球に住んでいる全ての動植物や人間、それに人工物などを背負うわけだから、今まで自分の国を背負うのとは、重みが違う。

それらは、刃やキラスが考える事ではないが、そういう情報は軍にいれば入ってくる。


「もっと強くならないとな。」


刃は、その一言を発すると、再び勉強をし始めた。

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