11「真相」

沖縄に来た刃が最初にした事は、自分の体調管理だ。

医療班が設立した施設に行って、簡単に検査をしてもらうと、とても調子が良いとなった。


出撃命令があるまでは、待機。


施設にてキラスの手を握った右手を見ると、少しだけ微笑む。

すると、出撃命令があった。

隕石の落下を見ると、日本の南側が多く来ると予測された。

だから、攻撃部隊は南側に集中していた。


キラスの結界は、とても大きく出来るから、海に囲まれている北海道の一部を護る形となっていた。

隕石が海に落下した時の津波がどれ位の威力かは、大きすぎて分からないからだ。

そう、地球は、海で繋がっている。

空でも繋がっているが、被害を受けるとなると海が大きい。


「刃君は、空飛べないんだっけ?」


同じ沖縄に配置された攻撃部隊の先輩が話しかける。

髪は、肩甲骨まで伸びており、それをゴムで一つに束ねている。

細長い眼鏡をかけていた。

背は、キラスと同じ位で、軍の制服を着ていた。


「はい。」

「だったら、俺が連れて行ってやる。」


左手を出された。

刃は、右手を引っ込めて。


「右手でお願いします。」

「何故だ?」

「俺は右利きなので、攻撃は右手で行います。」

「なるほどな。」


先輩は、右手を出してくれて、自分の左手を出して握る。


「先輩の名前なんですか?」

「俺は、相座、北野相座きたのあいざだ。相座と呼んでくれ。」

「相座先輩、よろしくお願いします。」

「あまり期待するなよ。俺は、空を飛ぶのは得意だが、攻撃は得意じゃないんだ。」

「わかりました。」


刃は、相座と一緒に空を飛ぶと、既に隕石に攻撃を仕掛けている攻撃魔法を使える人が、任務にあたっていた。

まだ、肉眼で見えない位ある隕石を、攻撃魔法を使い届けている。

刃もダーツの矢を出して、攻撃を仕掛ける。


あれから、モノの目を見る力も得て、自分が撃ち込みたい所へと投げれるようになっていた。

相座も攻撃魔法で、形は包丁の形をしていたが、氷で出来ていた。

その氷の包丁魔法を使うが、ミスが多い。

それを刃が破壊する。


地上から見ると、結界魔法のおかげで、魔法を使っている人が隕石を破壊している情景は一般市民は見えない。

ただ単に、綺麗な星空が浮かんでいて、隕石が近づいているという情報から、どこに隕石があるんだろう?と眺めるだけであった。


そう、魔法は、あると思わせてはいけない。

一般市民がないと思ってくれているから、魔法が使える。


キラスが家に来なければ、刃もその一人であった。


「相座先輩、もう少し前へ。」

「これ位か。」

「はい。」


刃は、自分の目の前にある隕石を破壊した。

その時、隕石の一部が破壊されずに、地上へと落下し始める。


「しまった。」


そう思った時、その一部が破壊された。

下を見ると、そこには。


「母さん。」


さやがいた。

さやは、司と手を繋いでいた。

司は、自分の身体が空を飛んでいるなんて体験はしていないだろうに、平気でさやと飛んでいた。


さやの恰好は、主婦の恰好ではなく、魔法に出会った頃の制服に近い恰好をしていた。

きっと、その恰好が、魔法を発揮しやすいのだろう。


「手荒な結婚記念日になった。」


司は、その一言を発すると、さやと一緒に刃の前に立つ。

すると、さやは微笑んだ。


「見てて、刃。魔法の使い方を教えてあげる。」


さやは、自分の開いている手を前に出すと、視界一杯に手裏剣を出した。

それらを全てコントロールして、隕石を破壊している。


「すごい。」


その光景は、この場にいた魔法使い達は、圧倒された。


「君のお母さん、すごいな。」

「はい。」


その時、さやから発せられた言葉。


「もう、これでお別れになるかもしれないから、最後の魔法ね。」

「え?」

「この力が、あの時あれば、日本は負けていなかったかもしれない。」


さやは、いや、さやではない誰かが話しをしている。

良く、さやは自分の事ではなく、他人事の様に話す。

他人?


刃は、今一度、さやを見る。


「刃、本当に強い子に育ったな。それと、司。今までありがとう。」

「何を言っているんだ?母さん。」


刃は、さやを見ると、司は。


「やはり、あの時の子は?」

「ああ、この子だ。」


司は、手を挙げて軍にいる人の頭に直接気持ちを伝える。





見えて来た情景は、公園での出来事だ。

司は幼稚園年中組で、公園の裏にあるお墓を見ていた。

お墓には、沢山の魂が集まっていた。

その情景をみると、ろうそくの炎を見ているようで、とても気持ちが安らいだ。

そう、司には、幽霊が見えるという力があった。


幽霊の一つが司の前に来て。


「君、見えるの?」


と訊くと。


「うん。お姉さん、綺麗だね。」


すると、その会話を訊いていた、一人の女の子がいた。

まだ二歳位の女の子だろう。


「ねえ、誰と話をしているの?」

「ここにいる幽霊とだよ。」

「貴方、幽霊がみえるの?すごい!」


感動した女の子は、その瞬間に、手が赤く光った。


「何?」


怖がっていると、そこには、手裏剣が出て来ていた。


「君、手裏剣が出せるの?魔法だよ。」

「魔法?」

「そ、でも、魔法って誰にも出来るものじゃないから、誰にも話しちゃだめだよ。」

「誰にも、お母さんやお父さんにも?」

「うん。僕が幽霊を見える魔法が使えるのも、内緒にしてね。」

「わかった。」


それから、女の子は公園で内緒に魔法の練習をしていた。

その時、手裏剣がお墓に飛んで行った。


「飛んで行っちゃった。」


といい、そのままにした。


月は流れ、女の子が女性へと変化する中学生になった。

その時、魔法を使える人を探しているといって、勧誘された。

その女性が、火花さやである。


さやは、任務をこなしていった。

その帰りに着地に失敗して、意識を失くし、亡くなった。

その時に声を掛けて来た魂は、お墓から来た魂であった。


お墓から来た魂は、何故か、さやと相性が良かった。

それもそのはず。

二歳位の時に飛ばした手裏剣は、その魂に刺さっていたからだ。

さやが生み出した魔法と、十四年間も一緒にいた。


さやの身体が亡くなった事を知ると、その手裏剣を媒介にさやの魂と融合して身体へと入った。

記憶喪失になったのは、意識がさやではなく、そのお墓にあった魂だったからだ。


お墓の魂は、戦争の時にこの地域を護る軍隊の指揮を執っていた人であった。

自分の力が不足していたから、戦争で負けたと、悔やんでいた。

だから、さやの身体を乗っ取って、今の現在で日本を護りたいという気持ちが大きくなっていた。

だが、その気持ちは、一人の少年によって浄化される。


その少年が。

さやが公園で寝ていた時に発見してくれた司であった。

司は、幽霊が見える能力ゆえに、色々な魂に語り掛けられる事が多かった。


だから、その能力に魂が惹かれ、そして、傍にいたいと言い始めた。

それほどまでに司の傍は、居心地が良かった。

司が、普通に平和を望んでいたからこそ、その願いを受け入れ、さやの身体で過ごしていた。

しかし、そのさやの記憶を取り戻す魔法を使われ、全てを思い出した時、順番に魂は自分の役目を思い出してきた。


日本を護りたい!


そして、今日、司に全てを話し、司も自分がさやを受け入れた理由を見つけ出して、その結果、この様に最後の魔法を使うために来ている。





その情景は、一瞬であったが、軍に所属している人は記憶され、さやと司の行動を見守る。

記憶出来たのは、魂に呼びかける司の魔法で、生きている魂にも可能である。


それに、幽霊や魂は見えない。

ないと思われているから、司は魔法を使えるのである。


司は、指を絡め祈る形を取り、とある言葉を発する。


「神様、仏様、助けてください。」


すると、地上から数多くの白い光があふれてきた。

その光は、世界各地からも報告されている。

光の形は、炎の様な形をしていた。


よく、亡くなられた人は、神様、仏様になると言われている。

だから、司は、その言葉通りにお願いをした。


「さあ、魂達よ。この地球を、自分の生まれた故郷を護る為に、空から降ってくる隕石を破壊し、平和に過ごそう。」


司が言うと、光……魂達は、空へと上がり、降ってきている隕石を囲い、ぶつかり合って、順番に粉々に砕いて行く。

それと同時に、さやの魔法も加わり、砕かれる。


司とさやの魔法でも、砕ききれなかった破片を、刃達が砕く。


全ての隕石を破壊することが出来て、任務が完了した。

刃は、任務完了の合図を訊くと、司とさやを見た。

すると、さやを支える司がいて、さやの飛ぶ力が弱まり、落ちて来る。


「相座先輩。」


相座は、刃を掴んでいる右手ではなく、左手を伸ばして司の腕を掴むが。


「重い。」

「相座先輩。がんばって。」


周りの飛行魔法を使える人も駆けつけるが、エネルギー不足で間に合わない。

刃も司の腕を掴もうとした。

その時、相座の手から、刃が離れた。


刃は、落下し始める。


「刃!」

「刃君!」


司と相座が、刃の名前を呼ぶ。

だが、落下は止まらない。

飛行魔法の人も、全力で刃に目掛けて来るが、今まで隕石を破壊していたから、魔法のエネルギーが足りない。


「助けて。………キラス!」


右手を見て、握ると、落下が止まった。

目を開けて見ると、そこにはキラスがいた。


「はー、間に合った。」

「キラス。」

「あー、任務完了したから、いいですよね。指定された場所を離れても。」

「キラス、キラス!」


身体を震わせて、刃はキラスに抱き着き、泣いた。


その瞬間、軍の本部で見ていた夏音とマティドは、ホッとして身体の力が抜けていた。

司も相座も、ホッとしていた。


「でも、どうして俺が落ちそうなのを知っていたの?」

「ん?ずっと、意思疎通しているだろう?」

「え?そうなの?」

「こんなに近くては意思疎通をしているの、わからないか。それぞれの配置に着く前から、お互いに思い合っていたから、多分、その時に意思疎通で繋がっていたと思うぞ。」

「そういえば、相手を思うだけで出来るのが、意思疎通だったな。」


刃とキラスは、顔を合わせると、微笑んだ。

ゆっくりと、地上に降りると、すぐに検査となり、キラスは医療班に刃を預けた。

それと同時に、さやと司を掴んでゆっくりと降りて来た相座がいた。

相座は、さやを医療班に任せると、司もさやに着いて行った。


「刃をありがとう。」


キラスは、相座に言うと。


「任務をしただけですから。それよりも、キラス先輩もお休みなさってください。北海道から沖縄まで、あの短時間で飛んで来るの、エネルギーを使いましたでしょ?」

「そうだな。少し、エネルギー補給をしてくる。相座も休めよ。」

「はい。」


そんな会話をしながら、それぞれの回復をしに行った。


その後は、世界中の軍会議があり、情報を交換した。

隕石を破壊するという任務で、世界が地球を護るという意思が働き、それぞれの国を護るよりも大きく、平和への認識を改め始めていた。


その会議で「どうして今まで国同士で争いあっていたのか?」全くわからなかったのである。

考察するに、人間の身体には、昔から争う遺伝子が組み込まれていて、今回の隕石がそれを無くし、それを協力に書き換えた。


ほら、隕石には力が宿っていると言われたりしている。

ただ、隕石を見た人だけで、見ていない人には争う遺伝子は消えていないのだ。

今回、隕石を見たのが各国の代表だったことで争うのをやめる方向へと進んだ。


その時の内容で、さやと司の魔法を世界平和に使わないかと言われた。

しかし、それは叶わなかった。


今、司の魔法は使えるが、さやの魔法は消えてしまったと思われる。

何故なら、さやが目を覚まさないからだ。

軍の病院で治療を受けているさやの傍にいるのは、司と刃。

そして、キラスである。


「母さん、生きてはいるんだよね?」

「そうだな。目を覚まさないだけだ。」

「父さん、これからどうするの?」

「これからとは?」


刃は、さやを見て。


「だって、母さんの魂はもう……。」

「そうだね。」


刃と司の会話を訊いていたキラスは、さやの頭に手を乗せる。


「意識を取り戻すのか、わからないが、やってようか?」


その光景は、初めてキラスと会った時を思い出させる。

あの時は、狼狽えていたが、それでもさやが記憶を回復させたのには、違いない。

それに今のキラスは、刃は信用をしていた。


「出来るの?」

「わからないが、あの時の魔法を使えば、私の魔法と同調して目を覚ましてくれるかもしれない。」


刃とキラスは、司を見ると、司はさやを見て、キラスにお願いした。

キラスは、さやの頭に手をかざして、魔法を使う。

あの時と同じキラスの魔法陣。

いろは歌が星の形を作っている。


今度は、さやは苦しまずに、目を覚ました。


「母さん。」「さや。」「さや様。」


すると、さやは、視界にいる司を見ると、まだ、身体が動かないまま。


「すまない。私は、そなたを……。」


司は、さやの唇を人差し指で塞ぐと。


「分かっていたよ。君が、火花さやではない事。魂は、戦争で指揮をしていた人なんだろ?今まで、さやを演じて来てくれて大変だったね。」


黙って、刃もキラスも訊いている。


「だが、私は、さやの身体に入っている貴方を好きなんだ。小さい頃にさやに会ったのは知らなかった。けど、貴方が入っている時のさやは知っているし、そのさやを私は好きになった。だから、これからも一緒にいてくれると、嬉しいな。」


司は、指をどけると、さやの瞳からは涙があふれて来ていた。

身体が思うように動かないが、腕をゆっくりと上げて、司の頬を触る。


刃とキラスは、その場から離れ、病室を出た。

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