10「告白」

もう、魔法があるのが当たり前の生活になっている関口家。

会話も、魔法関連が多くなってきていた。


キラスとは、いいコンビになっていて、最初のいがみ合いなんて無かった。

親友以上になって、意思疎通の距離も大きくなってきている。

どれ位の意思疎通が出来るのか?と思って試した事がある。

北海道から沖縄まで、ほぼ、日本全国の端から端までの距離出来ていた。


「すごいですね。キラスと刃君。」


夏音と一緒に刃とキラスが会話をしている時に、マティドが報告の為、発した。

軍の中でも、ここまで意思疎通が出来る相手はいない。


「それと、刃君。ダーツが出せる数が多くなってきて、今では、五十個一度に出せますよ。しかも、それぞれ、違う特性のを。」

「いやはや、こんな人材がいて、見つけられたのは、とても嬉しいですね。」


その言葉を訊いて、刃は少しだけ照れていたが、それでもキラスから認められるには、まだまだだと言って、訓練を続けている。


「さて、今日は、訓練が終わりましたでしょ?食堂で食べて、家に帰って、休みなさい。」

「はい、そうしたいのですが、家にはその……。」

「何?」

「今日は、結婚記念日って事で、俺は、この施設で泊まります。両親の邪魔はしたくないし、明日の学校の準備もしてきてますから、朝、キラスに送って貰います。」

「ほほー、気が利く子ですね。刃君は。」

「いいえ。それに、俺は、あの両親がとても好きです。いつまでも仲良くして貰いたいですからね。」

「そうですね。とても、仲が良いですね。お父様は、魔法は?」

「使えないみたいですよ。」

「そうですか。そこまで仲が良ければ、魔法が使えるとコンビ組めそうなんですけれどね。」


夏音は残念がっていた。

夏音の部屋から、刃とキラスが出て行こうとした時、ビービーと警報が鳴った。

この警報は、日本が攻撃されると予告された時に鳴る。


瞬間的に警戒の形に入った。


夏音は、マティドと一緒に各部署に連絡をしている。

その様子を見て、キラスは刃の手を引っ張り、食堂へ連れて行く。


「キラス。」

「私達、魔法を使える人がする事は、ただ一つだ。」

「食事と水分だね。」

「そうだ。魔法をフルで使うかもしれない。限界を超えるかもしれない。だったら、魔法が使える者が、この警戒の時にする事はエネルギー補給だ。」

「分かった。」


食堂へ行くと、沢山の人がいた。

それらは全て、魔法が使える者である。

シュナが、とても大変そうに切り盛りしていた。

シュナが刃を見ると、こんな事もあろうかとと思い、刃とキラスにお弁当を作っていた。


「ほら、これが刃君とキラス様専用のお弁当だよ。」


シュナにお礼を言って、受け取り、前はさやの部屋、今は刃の部屋に入って、食す。

早く食べ終わったキラスは、その部屋にあるベッドに横になった。

もはや、さやの香りはなく、刃の香りになっている。


「寝ます。何か変わりがありましたら、起こしてください。」

「わかった。」


キラスの結界は、睡眠が大切だ。

一分、一秒でも、身体を休ませる。

その時、刃の軍から支給されている端末から連絡が入った。

以前の、かかってきたのみ受け取れる機械だ。


「はい。刃です。」


刃は出ると、声はさやだ。


「何かあったのでしょ?私も今、そちらに向かっているわ。」

「え?どうして分かったの?」

「魔法使えるから分かるのよ。軍の人に家の車のナンバーいうから、通して貰える様に連絡して置いて。」

「わかった。」


車のナンバーを紙に書いて、施設の入口にいる監視に渡すと、刃は再び自分の部屋へと入った。

弁当も食べ終わり、水分を補給している。

手を見ると、何故か、震えていた。


怖い?


違う。

これは、なんだろう。


落ち着く為に、この部屋にあったお爺ちゃんとお婆ちゃんの写真と、父方のお爺ちゃんとお婆ちゃんの写真も持って来てあり、手に取り、胸に抱き寄せた。


しかし、この警報は、尋常ではない。

他国からの攻撃?

中学生といっても、子供だが、今の世界情勢は学校で習っている。

学校だけではなく、今は、インターネットで情報は入ってくる。

間違っている情報もあるが、それでも、どんな状態になっているのかは、分かるのである。


マティドが、刃の部屋に入ってくる。


「会議を行います。来てください。」


刃はキラスを起こして、一緒に会議室へと行く。

会議室は、以前、不発弾の会議をした所とは違って、五倍くらいある広さと机や椅子の数があり、モニターも大きかった。

そこに、入りきらない位の人が集まっていた。


今、施設にいる人、殆どがいると感じられる。


「さて。」


夏音が前に出て説明をする。

以前は、マティドが説明をしていたが、夏音が出て来るほどの話だ。

緊張が、会議室に走る。


「詳しく説明をしても長引くだけだから、簡単に話します。」


夏音は、持っていたタブレットを操作して、モニターを表示させると、一目でわかった。

モニターには、地球があり、宇宙から隕石が降ってきている映像があった。

この資料を作った人は、とても早く作業をしたのだろう。

見た目、雑に見えるが、完結に説明するには、とても分かりやすい絵だ。


「この日本、いや、地球に隕石が迫ってきています。日本に直下する隕石もあります。この隕石一つで、氷河期が訪れるのではないかと、未来予測の魔法を使える人は、全てが口を揃えていいました。そこで、我々がやる事は、隕石を日本に落とさない為、砕く事です。」


夏音は、また、タブレットを触り、画面をスライドさせる。


「役割としては、この通りです。」


モニターを見る。


予測魔法、このまま予測を捕え続ける。

透視魔法、隕石がどのくらいの大きさなのかを空を見て、捕え続ける。

結界魔法、各都道府県にて、決められた配置に着き、準備をする。

攻撃魔法、隕石を落とす為に、決められた配置に着き、準備をする。

浄化魔法、隕石を捕えられる様に、空気の不純物を取り除く。


食堂の職員は、決められた配置に着き、魔法を使う人のエネルギー補給。

医療の職員は、決められた配置に着き、全ての人の体調管理。

武器弾薬の職員は、準備を整えて、決められた配置へと向かい、準備。

モニターの職員は、サーバーやネット回線を開き、正確な情報を集め配信。

その他の職員は、自分の出来る範囲のフォローに回る。


そんな風に書いてあった。


「なお、国には報告しておきますが、一般市民には隕石が近づいている情報だけを提示し、警告はしません。この意味は分かりますね?」


この説明を訊いている人達は、全員、緊張をしている身体に、生唾をゴクンと飲み込んだ。

そう、一般市民が普通の生活をしているから、その間に全ての隕石を砕き、失くせ。

絶対に気づかせてはいけない。

それが、軍の……魔法使いの任務であった。


「キラス、これって地球全部なんだよね?」

「ええ、でも、私達は日本しか守れません。他の国を護ろうとすると、反逆罪、または、侵略罪になります。もしも、他の国が救援を申し出されれば、出動しますよ。」

「そうなんだ。」

「……大丈夫だよ。インドにも魔法を使える人はいますし、無事だ。」

「え?」


刃は、どういう事なのかと思い、キラスの言葉を訊いている。


「分かるって、コンビだからな。」

「?……もしも、インドが助けてって言って来たら、俺、行くからな。」

「その時は、私も一緒だ。安心しろ。」

「ありがとう、キラス。」


刃の配置は沖縄になり、キラスの配置は北海道になった。

そちらに行く前に、刃とキラスは話をする。


「それにしても、他の国にも魔法を使える人はいるんだろ?」

「はい。ですが、日本ほど多くはないですよ。」

「そうなの?どうして?」


キラスは、自分の生い立ちを、刃に確認させると。


「貴方は神を信じますか?と言われたら、刃はどうする?」

「別に、信じる信じないは置いといて、見えない物は信じられない。」

「それです。魔法は、ない所からあるに変える力です。日本人は、そういう存在に真剣ではないでしょ?」

「そうだね。イベントは好きだけれど、そこに何かいると思うと、それは違うね。」

「はい。それに、神だけではなく、仏もいます。日常に信じていないし、感じていないからこそ、日本人には魔法の素質がある者が多いのです。」

「いないと思っているからこそ、出来るってこと?」

「そうです。刃、貴方が先程、信じられないと言いましたね。その気持ちが魔法を使える要素になるのです。いいですか。もう一度いいますが、魔法はない所からあるに変える力ですよ。」


キラスは、右手の人差し指を出して、内緒とするように自分の口へと持っていく。


「それに、都合がよいと思いますが、いざって時は、「神様仏様助けてください。」って祈りますから、あれも一種の魔法ですよね?」

「ないと思っている神や仏の存在を、あるに変える魔法の言葉ってことだな。」

「神や仏が、その言葉を訊けるか訊けないかは、普段の行いが作用します。行いが良ければ、もしかしたら、助かりますよ。よくいいますでしょ?徳を積むって。」

「その徳が、神や仏が助けてもいいと思う材料になるのか。……だから、親って、手伝えとか、部屋を掃除しろとか、勉強しろとか、色々言うのかな?」


その言葉を訊くと、キラスは大きく笑った。


「なんだよ。」

「いや、日常に持っていくのは、刃のいい所だ。」

「でもさ、いないと思っているけれど、いるって思うから魔法が使えるって、本当はいて欲しいんだよな。神も仏も。」

「そうですね。」

「だったらさ、この地球も神様かもしれないよ。だって、こんなに自然があって、生命があふれて、生き生きしている惑星なんて、授業で習った限りだと地球しか知らないんだ。だから、地球に住んでいる人全て、魔法が使えるんじゃないかな?」


キラスは、刃の言葉は、とても新鮮に感じられた。


そうかもしれない。


地球という惑星は他にはないと思う。


だからこそ、そこにいる全てのモノは、魔法が使えるかもしれない。


神や仏、国や人種は関係ない。


自分が、凄いっていう心を燃やす力があれば、自分だけの魔法が使える。


魔法が使えていない人は、まだ、自分の心を燃やすだけの凄さに出会えていない。


出会えることが出来れば、魔法を使える。


だって、と思われる惑星に住んでいるのだから。


「そうかもしれませんね。」

「きっとそうだよ。だから、シュナも料理っていう魔法を使ってくれているんだ。うん。俺、日本を、ううん、地球を護りたい。」

「刃は、本当に、優しいな。」

「は?優しいのは、キラスだよ。」

「私?」


刃は、キラスに気持ちを話す。


「俺の訓練付き合ってくれたり、施設に行くために毎日迎えに来てくれたり、分からない問題を教えてくれたり、コンビ組んでいるからって、仕事だからだけで、ここまで出来るモノなの?」

「それは。」

「違うでしょ?俺の事、大切にしてくれている証拠でしょ?それって、好意がないと出来ないと思う。」

「好意?」

「俺、気づいているから。その、キラスが俺の事、好きなの。俺はキラスに惹かれている。だから、いずれ、俺がその気持ちを受け止められる器になった時は、覚悟してよね。」


その言葉を言った瞬間に、施設内に響き渡る配置へ着く命令。


「じゃ、お互いにがんばろう。キラス。」


刃は、キラスの右手を一度握り、離して、自分の持ち場に行く乗り物へと向かった。

その場に残されたキラスは、その手を口元に持っていき、頬だけではなく、顔や耳まで赤くなっていた。


「私が、刃を好き?どうして、そう思うのか。……でも、好きなのか?私は。」


キラスは、自分の胸に訊くと、ドキドキしているのを感じた。

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