貴方は私、私は貴方。

色街アゲハ

貴方は私、私は貴方。

 さあ、一緒になりましょう。


 一つになりましょう。


 貴方は私、私は貴方。


 でも、でも、


 何で、どうして、


 何かがずれてて、一緒になれない。

 

 最初に映った景色を見て、貴方は、私は、


「綺麗。」と言った。


 けれども、一体、何を見て綺麗と言ったの?


 その言葉が紡がれたその時から、


 貴方と私、もう既に、


 別々の道に向けて歩き出してた。


 貴方は言う、

 

 お日様の見下ろす野原の中で、風に吹かれて小首を傾げる薄桃色の、花々の揺れに合わせて、その日の陽の出ている間中ずっと、一緒になって踊っていたと。


 私は語る、


 夜の空、一杯に鏤められた星達の、瞬く度に、流す涙の滲んで翳む空の下、眺めている内に思わずつられ、一晩の間、ずっと一緒に泣いていたのだと。


 見るたび聞くたび触れるたび、私達の話す事柄は、最早同じ処から出て来たものとは思えぬ程に、違う物へとなって行った。


 でも、哀しくなんてない。


 だって、お互いの語る話の内容は、思わず聞き惚れて仕舞う位に、楽しくて、哀しくて、時に受け入れがたい物ではあったけど、それでも、私と、貴方、どちらか片方だけでは決して見られない風景なのであったから。


 そうして、私達は分かれて行って、姿形や話す言葉もまちまちで、時に空を舞う翼を持って、時に地を這う足で以て、世界の端々にまで散らばって行った。


 互いが互いに決して成り得なかった物になって。


 貴方は私、もう一つの私。


 私は貴方、もう一人の自分。


 さあ、お話ししましょう。


 さあ、一緒になりましょう、一つになりましょう。


 おかえり、ただいま。


 さあ、貴方のお話を聞かせて。


 私は私のお話を語りましょう。


 貴方は私、私は貴方。


 初めまして、そしてお久しぶり。


 貴方はどんなお話を聞かせてくれるのかしら?




                                おしまい


 

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貴方は私、私は貴方。 色街アゲハ @iromatiageha

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