第15話 最終話 (分岐2/2 別展開)

自転車で坂道を上がっていく。まだ桜の木は静かだが、枝先には膨らみが見られる。

地元に帰った私は、引越しの荷物が落ち着くと春の海へ来た。


海に来たからには直接肌に感じたい。裸足になると砂は弱い日差しにも温まっている。海水はまだヒンヤリ冷たい。波によって足指の間に砂が入っていく。透明な流れに雲母がきらめく。懐かしいな。

写真を撮ろうと携帯をかざす。


あ、通知が来てる。

「投稿しました」

短いメッセージ。あの人から投稿サイトのリンクと共に届いていた。待ち望んでいて、やっと忘れかけた連絡。

今更なんだろうという疑問、期待とそれを諌める思い。


投稿サイトを開くと、本名でそれは出てきた。

読み始めてすぐに気づく。これは私達の事。


読み終わり裸足のまま堤防に座る。

あの人から見るとこういうストーリーだったのか。言葉や態度に出ていなかった逡巡する思いが書き連ねられている。軽い笑いの振動が体から出る。

ふと見るとジャンルはラブコメになっている。はっきりいってラブコメディではないが傍から見れば喜劇だから間違ってないか。


電話はいつも緊張するが、かけない訳にいかない。汗ばむ手のひらを海風で乾かし、ボタンを押す。

きっとあの人も、ずっと電話を意識して過ごしていただろう。この長いコールも私からの着信を示す画面を見て躊躇しているのだろう。


電話が繋がってもお互い言葉がない。

話す事が許されているのか、わからないみたいだ。


「…読みました」私が口火をきる。


「連絡をしなくて、すみませんでした。

自分の気持ちと行動がどうすればいいのか…行き詰まってしまって」

あの人はひと息つくとさらに続けた。

「読んでいただけましたか。

わからないものです。

この私が。

あなたの事を思うと。

書かずにはいられなかった」

「今までありがとうございました。これからはもっと素直になります。また会っていただけませんか」


強い喜びが、腹部から湧き上がる。

「今度は私の海を見にきてください。ご案内します」


きらめく静かな海だ。

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羞恥をこえろ やってみる @yasosima91

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