第14話 最終話 (分岐1/2)

自転車で坂道を上がっていく。まだ桜の木は静かだが、枝先には膨らみが見られる。

地元に帰った私は、引越しの荷物が落ち着くと春の海へ来た。


海に来たからには直接肌に感じたい。裸足になると砂は弱い日差しにも温まっている。海水はまだヒンヤリ冷たい。波によって足指の間に砂が入っていく。透明な流れに雲母がきらめく。懐かしいな。

写真を撮ろうと携帯をかざす。


あの人にもこの穏やかな海を見せたかった。私の思い出の場所を紹介したかった。この写真の中にあなたがいてほしかった。


少し涙が込み上げてきたが、流れはしなかった。


いいじゃない。

よくがんばったよ。

また会いたい。

いつか、どうしようもなく触れたい相手にあって、その人も同じ思いになってくれたら。


そうならなくても、きらめく思い出が私にはある。

私は幸せだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る