第2話 昼過ぎに起きたら妖精に怒られた
次の日の午後1時。頭の方から何やら喚き声が聞こえる。まだ十分に覚醒していない脳みそを働かせようとしながら、私は目を擦った。
「おっそーい! 今何時だと思ってるんだ!」
声の主を探すと、目の前にヌッと黒い物体が現れた。いや、よく見たら、昨日飛び降りを邪魔してきた変な妖精だ。茹でダコのような顔を、私の鼻にくっつく寸前のところまで近づけてくる。
妖精からの質問の内容を理解するのに数秒かかり、全く使い物にならない視力で掛け時計を見た。
「…ん、じゅういひじ…」
「違う、1時だぞ! オイラが何度も起こそうとしたのに、全然起きなくてびっくりしたぞ! お前いつもこんな時間に起きてるのか?」
「んえ? そうだけど」
「くわー! なんて怠惰なやつ! さっさと動け!」
「んん、まだ寝たい」
「コラー!」
妖精が可愛らしい手で私の顔をペシペシと叩いてくる。全然痛くないが少し不憫に思えて、ゆっくりと体を起こした。そのままのそのそと歩き、トイレを済ませた後、先程まで横たわっていたベッドにダイブした。
「っておい! トイレ行っただけかよ! なんで起きないんだよ」
「だって動く気力ないんだもん」
「…お前もしかして、普段からこんな堕落した生活を?」
「そうだけど。だって動いたら疲れるし、お腹空くじゃん。ここに食べられるものそんなにないし」
「お前、そんな生活じゃ死んじゃうぞ!」
「いや、昨日死のうとしてた人間にそれ言う?」
「うぅ、確かに…」
先程までの威勢はどこへ行ったのか、妖精は言葉に詰まった様子で頭を掻いている。これまた可哀想な姿だ。
「じゃ、じゃあ、今日はとりあえず必要最低限の行動をしようぜ! まずはご飯を食べて、歯磨きして、着替えて、そんで食料調達に行こう!」
名案だと言わんばかりにドヤ顔で提案をする妖精。
「え、それ本当に最低限の行動? ここから動くのだけでもしんどいんだけど」
しかし、それを一蹴する私。
「なんだって!? お前、貧弱すぎるだろ…」
「体力的な問題というよりかは、精神的な問題かも? やる気が出ないの」
「動くのにやる気も何もいらないだろ! 仕方ない、何かいい案がないか考えよう」
その後、妖精と私は会議を行った。しかし、なかなかいい案が出てこない。
「オイラが手引っ張ってやろうか?」
「いや、あなたの体じゃ無理でしょ。それにやっぱり動きたくない」
「むう…。そもそも、なんで動きたくなくなっちゃうんだ? お腹空いたり、トイレ行きたくなったりしたら、流石に動こうとするだろ」
「うーん、頭の中では動かないといけないってわかってるんだよ。でも、動かなきゃとか、動けとか考えれば考えるほど、足が動こうとしないの」
「ふーん」
何かを考え込んでいるのか、妖精は手を顎に当てている。直後、ハッとした表情を浮かべた。
「なら、考えなければいいんだ! 頭真っ白にしてみろ!」
「いや、できるならやってるよ」
何を言い出すかと思えば。これまでも考えないようにしようと努力はしてきた。それでも、私の思考は止まってはくれなかった。
「いやいやいや、お前はできないんじゃない。やりたくないんだ! やらない理由を作ろうとしているだけなんだ!」
「…はい?」
「ひえぇ!」
思わず妖精を睨んでしまった。だけど、今の発言にはカチンときた。やらない理由を作ってる?なんで私がそんなことしなくちゃいけないの。むしろ、変わりたくて必死にいろいろ試した結果がこれなのに。
「そ、そんな顔したって、オイラは怯まないぞ………。すみませんでした」
あっさり土下座した。
人生諦めようとしたら妖精と出会って人生好転した らまや @natsu0817
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