彼の発明方法

位用

 


 とある高名な発明家が死んだ。


 その発明家は、今まで人類が成しえなかったことを幾つも成し遂げ、世界中の人が彼の名前を知っていた。あるときは、低コストでの人工重力機器の発明に成功し宇宙進出を大きく進め、またあるときは、イルカの超音波の仕組みを利用した地雷の撤去装置で数多の国に安心を届けた。


 死因は94歳で老衰、眠るように安らかになくなったという。彼の死は、世界中を悲しみで包んだ。もはや世界は、彼を尊敬するものか、彼に救われたものだけになっていたのだ。


 しかし、発明家の死から1か月、彼の息子が驚くべきことを口にした。


 「父は死の直前、一人で何かを発明していた。私にはそれが何なのか分からないが、どうやら完成していないらしい。誰か、この発明を完成させてくれないか」


 その情報は瞬く間に世界中に広がり、そして、世界中の科学者から研究家、大学教授や医者まで、あらゆる国の中でも特に賢いものが総勢28名、彼の研究に携わりたいと集まった。


 いったいどんな発明なのだろうか、集められた賢者達は期待に胸を膨らませ、彼の研究所へと向かった。


 そこにあったのは、掌よりも少し大きいくらいの立方体だった。幾つかのボタンがあり、導線が張り巡らされていて、誰が見ようとも、複雑であるという感想をいだくであろうものだった。いったいこれはなんなのか、どう使うために開発されたものなのか、全員の期待がさらに高まった。


 全員が一通りそれの観察を終えた後、発明家の息子が束ねられた紙を持って来た。


 「これは、そこにあるものの下に置かれていたものです。よければ使ってください」


 賢者たちは、もう興奮を隠さなかった。我先にとその資料と思しきものに手を伸ばし、読み漁ろうとした。しかし、それは叶わなかった。


 「……いったいこれは、何が書いてあるんだ?」


 そこには、点や線が乱雑に、しかし規則性を感じ取れるように並んでいた。文字の様にも思えたが、その場にいた世界一の言語学者でも、その文字を読むことは愚か、何の文字なのか特定することも出来なかった。


 ☆


 「聞いたか、あの残された発明の話」


 「あぁ、結局その箱が何だったのかも分からず、文字も読めずで終わったんだろ」


 「そうそう。しかもさ、そんなことがあったから過去の発明品の資料も探してみよう、ってなったらしいんだけど、発表に使ったり、他人に説明するためのもの以外、つまり、あの人が開発中に取っていたであろうメモとか図、式、表、一切見つからなかったんだと」


 「へぇ、それは不思議なこともあったもんだな」


 「あぁ、発明は基本一人でしてたらしいし、もう何が何だかさっぱりなんだと」


 「実はあの人は地球の文化を発展させるために来た宇宙人だ、っていうのが今一番有力な説らしいぜ」


 「最有力の説がそんな馬鹿げた話とはな」


 「まったくだ」


 ☆


 セルビア出身のアメリカ人発明家、ニコラ・テスラはこう語っている。


 「わたしの脳は受信機にすぎない。宇宙には中核となるものがあり、わたしたちはそこから知識や力、インスピレーションを得ている。わたしはこの中核の秘密に立ち入ったことはないが、それが存在するということは知っている」


 もしかしたら、この発明家は…………。

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