安眠悪夢

バナナ連合会

第1話 最高の選択肢

「選ばれし者よ…我はそなたに会いに来た…我身に夢の力を与え、安眠せよ!!我に夢の力を宿せ!!」



20××年、1人の社会に退屈していた負け組が、好奇心でこの呪文を唱えた。


それが悪夢との戦いになることも知らずに…



2022年 9月2日


高校2年生の神楽 直樹 (かぐら なおき)はなるべく人とは関わりを持ちたくはないタイプである。



喉が乾いたので、水筒を手にした。


「神楽。今日の課題、終わった?」


天川は教室に入り、獲物を探す目で俺を見つけた瞬間、尋ねてきた。


「ああ、終わっている」


俺の唯一の友である天川 楼慈 (あまがわ ろうじ)は課題提出日には見せて〜、と言うだろう。


「見せて〜」


予想通り。

俺はいつも通り見せなきゃ殺されることを察してしょうがなく天川に課題を見せた。


「そーやぁさ。神楽って、孔波のこと好きだよな」


「ゲホッ、ゲホッ」


水を飲んだ瞬間に天川は、俺にとっての爆弾発言をした。


奇跡的にも、水は吐き出さなかったが、鼻に詰まったのが痛い。


「それはそうだけど、容姿淡麗、勉強・スポーツ万能の高嶺の花だぞ?俺と付き合ってくれるわけがないだろ!?」


「それはそうだな。おまえみたいな容姿は普通で勉強少しできる帰宅部の隠キャでは無理だろうな」


「容赦ないのは一旦置いておいて…そうなのだから、遠目で美貌を堪能していればいいんだよ」


机に左肘を着き、儚い夢を見ながら、友達と話している孔波を見ていた。



放課後、天川に家近いからって、孔波を狙う男多いから気をつけろよ〜とストーカーだけはするなよ〜と言われ、バスから降り別れた。


そんなことは絶対にしない。


なぜなら、俺は孔波 紗凪 (こうば さなぎ)への思いを断ち切るからだ。


そのため、神秘的に思いを断ち切る良い方法を家に帰りながら探していた。


仕事や趣味に没頭、写真や連絡手段を消す、体を動かす………


他にもいろいろな方法を見つけたが、バイトしてないし、孔波さんが写っている写真持ってないし、それ以前に今はそんな気分ではない。


俺は神秘的にわくわくして、スリルを味わえる方法はないかと、思いながらいろんなサイトを開きまくり、とあるサイトに辿り着いた。


安眠悪夢?


-

このサイトは社会の負け組となった人へのものです。

-


俺はクラスの中でも隠キャ………


興味を持ってしまったためか依存症かのように躊躇なく、そのサイトを押した。



家に着いた俺は靴を脱ぎ、自分の部屋の写真立ての写真に挨拶し、入った。


「へいちゃん、ただいま。あぁ〜。独特の甘い匂いが堪らないな〜」


俺は背中から空を舞う鳥のようにベットにダイブした。


天川が俺の家に遊びに来るときは毎回のように、薬物に手を染めたのか!?と言いつけてくるが、これは薬物ではなく、そういう香水だ。



少しベットで休んだところで、起き上がり、帰り道に見つけた安眠悪夢を検証し始めた。


サイトに書いてあった手順は、


①1番大切な人に関係するものを両手で持つ


部屋に置いてあった俺と大切な人が写った写真が入った写真立てを手にした。


②呪文を唱える


「選ばれし者よ…我はそなたに会いに来た…我身に夢の力を与え、安眠せよ!!我に夢の力を宿せ!!」


③寝る


俺は目を閉じると、そのまま全ての力を出し尽くしたかのように熟睡してしまった。



翌日、俺はベットに座りながら、寝ていると、1階にいる母さんの声し、起きた。


「直樹!高校に行く時間よ!」


「ああ、わかった…」


少し寝ぼけながら、返事をした。


安眠悪夢というサイトの検証をしてみたが、特に何も起こらなかった。


「うーん。いい夢をみるとか書いてあったけど、やっぱデマだったか」


俺は騙された、と落ち込みながら、しょんぼりと机の上で鞄に教科書やノートなどを詰めて、制服に着替えようとし、おろおろとクローゼットに向かうと、


「直樹!制服!下で干してるよ!」


母さんが制服が下にあることを教えてくれたが、別にクローゼットの中にもあるし…


「たまには言うことも聞いてみるか」


俺はクローゼットを開けるのをやめ、鞄を持って階段を降りた。


「直樹!朝ごはん!」


「母さん。朝飯はいいや」


母さんは俺のために朝飯を作ってくれたが、食べる気分でない。


母さんは本当にいいの?と何度も聞き直してきたが、俺は全て断り制服を着て、家を出た。



家を出たときには俺はベットで座りながら寝ていた。


「はぁ?」


「直樹!高校にいく時間よ!」


俺は1階にいる母さんの声を聞き、体が動いた。


「準備しているのだが、下にあるよな?」


鞄に教科書やノートを入れていると、


「直樹!制服!下で干してるよ!」


1階から母さんの声がした。


俺は神秘的だろうけど、たぶんデマだなと思って検証していたため、あのサイトが本当だったのか!?と驚きを隠しきれなかった。


確かあのサイトはこれに従うとその日の最高の選択肢を夢で見せてくれると書かれてあった。


だから、俺は下にある制服に着替えて、朝飯抜きで高校に向かえ、ていうことだな。


俺は鞄を持ち、制服に着替えて靴を履いた。


「母さん。朝飯はいいや。行ってきます。」 


夢だと、身体がやけに重くてだるかったが、なぜか今は軽い。


おそらくあのサイトがデマでなかったことが非常に嬉しかったのであろう。


グゥ〜


腹減った…


気分は最高だが、腹は最高ではないな。


「俺、食べるの遅いからな。食べてたら、時間なくなる」


本当はマジで食べたかったなんてもう言えないけど………


断食2日目並に飢えていた。


俺はいつの間にか独り言を呟きながら、家の鍵を閉めている。


これは果たして最高の選択肢なのだろうかと頭の上で?を浮かべて家の門を通り過ぎようとしていた。


「危ない!!」


俺の左横からいきなり誰か声とトラックが走ってきていた。


俺はスレスレのところで反射した。


「危ねぇ!」


トラックは俺の目の前を通り過ぎて行き、止まることはなかった。


俺はその代償として尻餅をつき、それと同時に俺が悪いと自覚する。


「大丈夫!?」


「左右を確認せずに道路に出た俺が悪いですね。トラックの運転手は悪くないです。なので、俺が自首するべきですね。詐欺罪、恐喝罪はまだしてないからなんの罪になるのでしょう…」


「ぶつかっていないから、器物損害罪ではなくて…運転手の方は業者の方だと思うから威力・偽計業務妨害じゃない?」


「あ、そうですね。ありがとうございます」


俺はニコニコと気遣ってくれた人の目を見て感謝の言葉を伝えた。


「では、私は交番に行くので」


ニコニコした顔から真顔に近い表情で立ち上がって交番に向かう。


その姿は何かを強く決意した人のように。


「ちょい!?それは乗りすぎだって!?」


俺は内心でえ?と呟く。


気遣ってくれた人が俺の左手首を掴み、少しキレかけていた。


そのため、俺は速攻で正座をし、相手の足を見て謝罪をする。


「この度は調子に乗りすぎたことに対し、心からお詫び申し上げます。体調についてですが、お気遣いなく、素晴らしい朝を迎えてください」


「いや…そんなに怒っていたわけではないけど…まぁ無事ならいいか」


俺は声に違和感を感じたのか足→腰→胸→頭の順で視線を上げていくと、初めて気遣ってくれた人が異性だと気づいた。


スカートに…Dぐらい…美貌…


「え?」


俺は独り言を呟き続けているため、まったく気づいていなかった。


気遣ってくれた人は同じくらいの孔波 紗凪だったていうことに………


俺は顔面に赤い絵の具を塗られたかのようにオーバーヒートし、正座したまま倒れた。



どこかからか聞き覚えのある音楽が鳴ったような気がした。


キーンコーンカーンコーン


「ウェストミンスターの鐘だぁ」


それの同時に目を開ける。


何か鳴ったような気がした。チャイムか?


チャイムが最後まで鳴り終わってからもそれは鳴り続けていた。


「腹にインド象が乗っている気分で潰れそうだ」


いきなり声を出すと、偉そうに俺の腹に座っていた天川がこっちを見てきた。


「ふっ、起きたか勇者よ」


「誰が勇者じゃ。変態になった記憶は1つもないぞ」


俺は天川の発言に否定するために即答した。


だが、天川の方が1枚上手をとっていたようだ。


「君は王子孔波にお姫様抱っこで保健室まで連れてこられたのだよ」


「は?」


俺はまた天川の発言に違う意味で即答した。


俺は生徒会戦の立会演説で言葉が詰まってしまった並の醜態に気づき、黙って顔を晒してしまった。


絶対晒さない方が天川の前での立場が保たれていた。


だが、今の天川はIDAに入っている。

まだ、誤魔化しは通用する。

そして、仮に本当だとしたら、実際にこうなる。


あったとすれば、天川の目をちゃんと見て、冗談よせ。これでも一応被害者だぞ?それより早く教室に戻るぞ。と言う………


それだけだったのに!!何をしているだ!?俺は!?


まぁいい。ここから、状況が悪くなっていかないように全身全霊で策を立てるだけだ。


返答に期待する子供のように無言で見つめてくる天川だけなら、立て直すことができた…


「神楽くん!!おっはよー!!体調は大丈夫?」


「あ………」


俺は数秒間止まってしまい、彼女が来た瞬間、あ、これもう無理だ状態になった。


さっきの一瞬まで、全身全霊状態で考えていたため、少し頭がクラクラしていた。


そして、天川は一瞬にして消えていった。


少し前まではIDA状態天川だけだったから、さらに醜態を晒すことはできたが、今は孔波さんがいる。


「どう?」


彼女は不思議そうな顔で気に掛けてくれた。

 

「だ、大丈夫。大丈夫。気に掛けてくれてありがとう。あと、運んでくれてありがとう…」


最後の部分は実際には知らないため、俺は自爆覚悟で感謝の言葉を伝えた。


天川がIDAに入っていたということはそれなりのことがあったって事。

朝に俺が孔波さんの目の前で倒れたってことは覚えているから、天川の発言は正しい…と思う。


孔波はお礼を言われたことに対して、照れているのか恥ずかしめに謝っているように見えた。


「こちらこそごめんね。神楽くんみたいな陰気キャに目立つ思いをさせちゃって…」


「その言葉どストレートに心に刺さるのですが…」


「まぁまぁ、謝ったし、なかったことにしよう」


俺の心に大きく刺さった学年の人気者からの隠キャ発言と勘違いした俺が恥ずい。

だが、最後の笑顔により、見事にキル回収されたのであったのだった。



それから少し続いた無音な時間の後、孔波はじゃあ、また教室で話そうね、と言い保健室を出ていった。


「神楽。下心丸見え。」


ベットの下に隠れていた天川がにょっきと顔を出した。


「布団が不自然に沈んでいたから、さっきまで誰か座っていた感が半端なかったぞ」


「話題に出なければそれでいいんだよ。神楽くん」


「その呼び方やめろ。キモいから」


天川は頑張って声殺して、高い声出しのに…と言わんばかりに落ち込んだ。


本音が出てしまったことに少し申し訳ない気持ちもあるが、ここはIDA状態の手順書通りにと。


「まぁでも、可愛いかったぞ?」


「ほ!本当か!?」


天川は無邪気な子供のようにはしゃぎ狂った。



いつの間にかお昼休み………

IDA状態が降下傾向に向かっていっていた。


「神楽ー。朝のことホントーか?」


「Yes mom.で、何を聞きにきたんだ?ココ」


ココとは、俺が唯一話せる陽キャの友達、本名は佐古 康平 (さこ こうへい)。


どうして、ココかというとたまたま名前しりとりで、「佐古」→「康平」と繋がってから、自分の名前でしりとりできるじゃん!て、なってココとなった。


佐古は興味津々に俺の顔に近づいてきた。


「いろいろすごい人気者にお姫様抱っこは普通起きないイベントだよ」


「だから、なぜ起きたかを知りたいって?」


「そうそう!」


俺は逆に2限から復活して、他の人に聞かれなかったのかを聞きたいが、おそらく話しかけづらいのと、孔波さんの方に聞きにいっているのだろう。


とりあえず、隣にいる天川に配慮するのように俺はココを教室の外で話すよう促した。



「IDA状態発動中?」


ココも気づいていたか。


IDA状態とは不規則暗黒時代(Irregular Dark Ages)の略で、天川に大きな精神的ダメージを喰らったときに、黒歴史が生まれ続ける言わば、自暴自棄状態のことである。


IDA状態の降下傾向かを判断するときは、天川のハイテンションが治ったかどうかで判断する。


ハイテンションでどうにもできないときは、IDAの全盛期。

ローテンションで元気でないときは、IDAの過渡期。


教室を出る前の天川はIDA状態の過渡期であった。


俺は何気もなく返事をした。


「ああ。話しが早くて済む。朝のことなんだが、俺も実はというと、あまり覚えていない…」


ココは目が俺の頭を突き抜くぐらいに驚愕した。


あんなラッキーでは済まないレベルで、しかも二度と話すことのできないであろう人からのお姫様抱っこというイベントが起こったというのに、覚えていない、と言われたそうなる。


「おまえも一生Irregular Dark Agesにしてやろうか?」


ココはニッコリと愛想笑いではない何かを狂い殺すかのような笑いをし、拳を握りしめていた。


「おまえも、て天川は安静にしとけば1日経たずに治るし、Irregular Dark AgesのDarkだけ英語ぽくいうな。せめて、全部そうするか、全部棒読みしろや。厨二病感が半端ない。」


俺は話しても話さなくてもどっちみち死ぬ予感がしたので、突っ込んだ。


「は、は、は、そうだね」


ココはいきなりに棒読み化した。


俺はまずい状況ということはわかったが、もう巻き返せると思えなかった。


どんどん握る力がお強くなっていく。


「棒読みではなかったね。幼稚園児よっ」


俺は読みだったねと言おうとしたときには、遅かったようだった。


そして、俺は今日2度目の地面を頭で味わったのだった。

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