県警少年課の日常 ~変人な先輩と僕の日々~

こむぎこちゃん

第1話

「あのー。先輩、今一応仕事の時間なんですけど……」

 僕は恐る恐る先輩に声をかけるが、先輩はしっしっというように手を振るだけ。

 僕ははぁー、とため息をついた。

 安藤梓先輩は、僕と同じく県警少年課に所属する先輩。

 補導されてくる子たちよりも子どもっぽく、いつもへらへらしていてどこかつかめない。そんな人だ。

 今日の先輩は、なぜかVRゴーグルのようなものをつけ、手にはコントローラーを握っている。

「先輩、ちゃんと仕事してくださいよ!」

「えぇ~、ちゃんと働いてるよ~」

 そう言いつつも、ゴーグルを外さない先輩。

 いや、絶対ゲームしてるだろ。

「先輩!」

「君、静かにしなさい。今いいところなんだから」

 いつになく真剣な様子の先輩に押され、僕は黙った。

 そして、僕はこの中で一番の年上の斎田さんに小声で助けを求める。

「ちょっと、斎田さんも何とか言ってくださいよ!」

 が、斎田さんは、いいのいいのとにこにこして首を振るだけ。

 この人、昔は敏腕刑事らしい……んだが、白髪に丸眼鏡の斎田さんは、優しいおじいちゃんといった雰囲気だ。

 はあ、この職場、一体どうなっているんだ。

 僕がため息をついたそのとき。

「ふむ。やはり私の読みは間違っていなかったようだな」

 そう言った先輩が突然ゴーグルを外して席を立つと、先輩はスマホを見ながら部屋を出ていった。

 突然のことに驚いて、僕は一瞬反応が遅れる。

「ーーあっ、ちょ、先輩! どこ行くんですか!?」

 僕は慌てて先輩の後を追った。


 先輩とともに部屋を出た2時間後。

 僕たちはいつもの部屋に帰ってきていた。

「先輩は、なんであの少年の居場所がわかったんですか?」

 先輩は、部屋を出たあと何の迷いもなく歩いていき、母親から依頼の来ていた少年を発見、保護したのだ。

「君、いい質問だね。知りたいかい?」

 ふっふっふと笑うと、先輩はしゃがんで扉の外に向かってチッチッチッと舌を鳴らした。

 すると、1匹の黒猫が入ってきた。

 その子を抱えると。

「すごいだろう、私が発明したんだ!」

 そう言って誇らしげに掲げた。

「発明……って、一体どういうことです?」

「発明は発明だよ。こいつは猫型ロボットだ! あ、ちなみに、耳はネズミにかじられないように少し丈夫目に作ってあるから安心してくれ」

 いや、そんなドラ〇もんみたいな心配はしていないんだが。

「私が開発したAIに本物の猫を学習させ、リアルな動作を再現。見た目もさわり心地も本物そっくりだろう?」

 え、AIを開発……?

「そして、小型カメラとGPSを搭載し、不良少年少女を見つけたらすぐにわかるようになっている」

 ……もうこの際、発明だとか開発だとかは気にしないことにしよう。

 それより。

「そもそも、なんで猫なんですか?」

 僕が聞くと、先輩はさも当然のように答えた。

「不良の少年少女は、大抵猫好きだからな」

「は、はい?」

「君、知らないのかい? 少女マンガでは定番じゃないか。不良少年が猫と戯れているところを目撃し、ギャップにキュンとするなんて、よくある話だろう?」

「はあ……」

「それに、私も猫好きだからな。根拠も十分だ」

「安藤くんは昔の経験から、子どもの行動パターンをよく理解しているからね。僕も昔は苦労したよ」

「え? それってどういう……」

「まあまあ。そんなことより、世紀の大発明をした安藤梓様を褒め称えたまえ!」

 先輩が言うと、斎田さんはパチパチと拍手を送る。

 先輩の性格も経歴も行動もよくわからないけど……なんだか一周回っておもしろいと思い始めてきた。

 先輩は変人だと思ってきたけど、僕もなかなかの変人なのかもしれないな。

 斎田さんと一緒に僕も拍手を送ると、先輩はうれしそうに笑った。

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