第42話 青い流れ星

 ふと、足に力が入りなくなりその場に膝をつく。リミットが近い。だが、目の前の事実は無情だ。

 まだ…俺の炎は盛っている。


「ヒノカグツチ…人にしては中々のものだろう。あの男でも逃げ出すのは納得だ。」


 次の瞬間には、ポセイドンは眼前に迫っていた。

 不意に今までの出来事がフラッシュバックする。2回も死んでたまるかよ…。


 振り下ろされたその拳を間一髪…避ける。


「避けるか…。」


 言葉を発する余裕もない。こいつ…師匠よりも速い。避けた先でも次の攻撃が待っている。目を使って次の行動を見たとして身体がついていくかどうか…。

 これまでの疲弊もあり、身体が思うように動かない。その一撃をもろに食らう。


 これまでにない程の威力を持ったそれは身体を大きく吹き飛ばし、海溝から一気に港まで叩きつけられる。


「…ァ…。」


 これは流石に堪える。そこから見ても奴等の巨体がよくわかる。絶望的ではある…だがここでやらなければ世界は終わる。


「まだ…まだァ…!!」


 せめて…せめてこいつらは命に変えてでも仕留める。それまでは死んではならない。

 青く炎が変化する。辺りを焼き尽くす勢いで…それらを全て身に纏い、大地を蹴る。


 狙うはポセイドンの脳天。直後、拳は突き刺さる。たがそれでも数歩よろめく程度。それでも…まだまだここからだ。

 ギアを上げ、もっと速度をのせる。もっと温度を上げる。もっと威力を上げる。


「ぐっ…。」


 その速度は音を優に越え、辺りには炎の残像が残るばかり。師匠にも放てなかった…さらにその先。緋色の羽はやがて蒼く揺らめく。

 稲妻がほとばしり、それよりも速い閃光が一閃轟いた。


 あまりの破壊力にこちらまで吹き飛びそうになるほどの爆風。あれで倒れなきゃ流石にもう打つ手がないまである。振り返り…目を疑う。


「人の身でここまでとはな…。」


 先の一撃を受けた右腕…それはようやくぶち抜いた。だがせいぜいそれまで。

 平然と話している様を見るにまだヤツには余裕がある。


「どんだけバケモンなんだよ。」


 拳は通用する…通用したとて倒せなければどうしようもない。まだ…まだ動ける。大地を蹴り猛攻を続ける。首もと…足…顔面…炎を纏い、その上で滅多打ちにする。


「あんたも中々…バケモンだよ!!」


 もろにカウンターを食らう。そのまま地面に叩きつけられる。動けない…まだ死ぬわけにはいかないのにからだが言うことを聞いてくれない。どうしたらいい?どうすればこいつを…倒すことが出きる?

 そんな風に思案していたときだった。


「人1人に構ってられるほど俺たちも暇じゃないんでね…。」


 そいつは残った左腕を掲げた。


「我らがダンジョンから解き放たれた今…我々の権能を縛るものは何もない…行け同胞よ!!」


 そう言って…そいつは何かを投げた。目を凝らしてわかる。


「青い…魔石…。」


 こいつだったのか…青い魔石の持ち主…いや、その権能の主は…。

 そんなこと考えている場合ではない。その魔石は東京の街に降り注ぐ。駄目だ…それは…それだけは駄目だ…いくら俺1人が強いからと言って…回りを狙われたら意味がない。今まで阻止できてたのはダンジョンという閉鎖空間があったから。今、それがない以上俺は…。

 目の前のヤツを倒したところで問題は解決しなくなる。駄目だ…どうしろって言うんだ。


 思案していても無駄だというように拳は振り下ろされる…それを避ける…。


 迂闊であった。当たり前だ。たとえ1人でどうこうできたとしても手下がいるに越したことはない。もう少し探るべきであった…。


 ともかく…陸のことは他の探索者に任せるしかない。俺は…この元凶をどうにかしないと…。


 戦わなければ…どうにもできない。


 まだ炎は消えていない…痛む身体を無理やり動かす。盛る炎…それを纏い拳を握った。


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 日野が飛んでいってから数分後、数発の雷が市街地に落ちた。さらにそのどこかで大爆発が起こった音が聞こえた。これが日野の言っていた…どうでもよくなる瞬間。明日があるかどうかさえわからなくなるような瞬間。


「終焉…。」


 止まった足を無理やり動かす。逃げなきゃ。もう2度と足なんて引っ張ってられない。もう誰にも迷惑なんてかけたくない。もう誰にも…見放されたくない。


 公共交通機関は粗方停止していた。原因は…今も落ちてくる雷にある。東京の町並みを壊していく…。


 逃げなきゃ…逃げなきゃ…それだけ考えても絶望がぬぐいきれない。

 走って、走って…延々と走って…少し疲れ足を止めた。


「なんで…なんで…!!」


 叫んだ。ここまで来て自分の無力さが恨めしい。うつむき地面に叫ぶ。そんなことしたって無駄なのに。辺りはパニック状態が続く。乱雑な人の声に私の叫びはかき消される。


 そんな絶望の中…からりと音がした。視界に映りこんだのは綺麗なガラスのように透き通った青い石だった。1つ、また1つと増えていく。


 不思議に思いふとみあげる。そこには青色の流れ星がいくつも…いくつも降ってきていた。


 次の瞬間…パニックの雑多につんざくような断末魔が響いた。

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怠惰なFクラス探索者、有名配信者の配信に写り混みバズる 烏の人 @kyoutikutou

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