怠惰なFクラス探索者、有名配信者の配信に写り混みバズる

第41話 海

　水の球を視界に捉える。今だけはなにも考えなくていい。神を倒さなければならないのだから。

　奥の手…というわけではない。ただいまだけは、力に振り回されておいたほうが得だ。

　今まで自分を縛ってきた魔力、集中力。その枷を解く。

「始めっから…本気で行かせてもらう。」

　直後、その存在に向かって急降下する。俺はこの瞬間から…奈落の業火を全て解き放つと決めた。

「来なよ…ヒノカグツチ！！」

　その一声と共に、ヤツは掲げた手を振り下ろす。チラッと振り替えれば俺の後ろから無数のケートス我降り注いでいる。

　俺もそれに応える。紅い炎は辺りの空気を焼いていく。最低限、魔力は生命活動にだけつぎ込み今まで押さえてきた熱を全て解放する。

　昔1度やったことがある。福岡のダンジョンで1度だけ。最新部で本の一瞬解放しただけで、あのダンジョンは立ち入り禁止になってしまった。

　それを今回常時開放する。

　割れた空気が、水が、土がプラズマ化して稲妻が走る。その勢いにのせたまま、俺は目の前のヤツの脳天めがけ拳を握る。

「師匠…力借りますよ…。」

　継承したその力。人を凌駕するその力を思い切り振り下ろした。

　一撃がいちいち爆発のように弾ける。ヤツの脳天は即座に地面に叩きつけられる。

「ぐッ…！！」

　まあ死なないのはわかってる。遅れて落ちてきたケートスどもは結局俺の熱に阻まれ近づくことさえできない。

「神性持ってるのに…熱い…これがあんたね。」

「熱いってだけですまさないで欲しいな。」

　拳を握りそいつに近寄る。

「ちょいちょいちょい！まだなにもしてないじゃないの！」

「こっからする気なんだろ？なら一緒だ。」

　容赦はない。俺がこの姿な分短期決戦に持ち込まないと終わる。

　その巨体をしたから殴り上げる。宙に浮かぶその姿。間髪いれずにまた殴る。

「痛いわねッ…！！」

　その巨体から放たれる張り手。だけど師匠に比べればぜんぜん遅い。真っ正面から撃ち合い、ぶち破る。

「これ…ネフィリムの力なの…？」

　怯んだ隙にその図体に蹴りをぶちこむ。

「ぐッ…。」

　硬い…明らかにおかしい。師匠よりも断然硬い。

「全く、神の話くらい聞きなさいよね！」

　そう言うと、この温度下の筈なのにヤツは水の球を生成する。

「行きなさい！」

　またケートスか…とも思ったが今度は様子が違う。その巨体を活かした質量爆弾としてこちらに飛んでくる。なまじ奴等も神性を持っているために着弾を許してしまう。少し、怯む。だがそれだけだ。

　ふと顔を上げる。

「私は海の神よ？」

　そうしてその水の球で俺のことを包む。水攻め…だが警戒すべきは酸素量ではない。その水圧であった。

　流石は海の神…飛んでもない量の水が圧縮してある。が、俺にも意地がある。阿鼻司の効果範囲を広げる。俺の周囲からこの水球を包み込む程度に。

　その途端に爆発が巻き起こる。

「嘘！？これもダメなの！？」

　視界は不明瞭。だが魔力でわかる。このままヤツを焼き尽くす…。

　接近し、詠唱をする。

「【阿鼻司】。」

　途端に炎が巻き上がる。

「があぁぁぁああぁあッ！！！！」

　流石の神性持ち。この程度じゃ無理か。だがまだ余裕がある。

　燃え上がる目の前の巨体を見据え、集中する。

　解き放った阿鼻司の熱を1点に集中させる。

「終わりだよ。」

　手のひらを前につきだした。熱戦は海溝を駆けるそのままヤツの身体をぶち抜いた。

「わ、私は…！！海の神なんだ！！」

　まだ生きているのは流石だ…だけどこれを食らってしまえばもう時間の問題だろう。

「スサノオの仇は…取るッ！！」

　直後、予想だにしない圧力が俺を襲った。

　ヤツの作り出した水の球…その中に俺はいた。あんな状態でも魔法を使えるということに驚きだ。が、警戒すべきはそっちではない。いつも召喚に使われている水の球…その中なのだろう。水棲魔獣がこれでもかというほどいやがる。

　俺の熱量なら…容易い。それを信じ、熱を放射する。襲いかかるクラーケンや、シーサーペント。避けようにも水圧が邪魔で思うような動きができない。

　爆発的に温度を上げる。それこそ、阿鼻の炎の一欠片ほどを顕現させたように。

　なにもかも弾ける。そうしてその水の球から脱出はできた。できたが…はっきり言ってそろそろ限界が近い。

　その巨体を見つめる。随分と深傷を追わせることには成功しているが…これでもなお生きている。

「なんであれから抜け出せるのよ…。」

「俺は炎だからな…。」

「炎ならおとなしく…私の海に消えなさいよ！！」

　そう叫んだ直後、その背後に巨大な水の渦が現れた。依然ここは乾上がった海底だったのになぜ…これもヤツの力かと考えたとき、その水の渦から声は聞こえてきた。

「お前の海では無いんだがな…。」

　聞いたことのない声。それと同時にあのジジイの気配も現れる。

「あ、あんた！なんでここに！？」

「アムピトリテがここまで…聞いてはいたがヒノカグツチ、まさかここまでとはね…まあ同じ海の神としてここにいるのは道理だろ。」

　例に漏れずに巨体…人の言葉を話す槍を携えた異形の神…。

「ポセイドン…。」

　アムピトリテと呼ばれた神は…現れたその神をそう呼んだ。