第三章 出会い 2
町を出発して3日目の昼前、馬車はゲカルミに到着した。ゲカルミの入り口には立派な門があり、町と外を仕切っている。御者は門の前で馬車を止めると客を下ろした。客は門の前に並んでいる。アルベルトも最後尾に並んだ。
「こんにちは、何か身分証はあるかな?」
「すみません、ありません」
「それじゃあいくつか質問させてもらうから、こちらへ来ておくれ」
他の客がすんなり町に入っていったので、アルベルトもすぐに入れると思ったが、事務所に連れて行かれてしまった。
「どこから来たんだい?」
「アルバ村から来ました。アルベルト、18歳です」
「町に来た目的は?」
「冒険者になりたくて来ました」
「じゃあ、目的地は冒険者ギルドだな。犯罪歴はないね」
「ありません」
いくつか質問を受けた後、犯罪歴がないか調べるためにしばらく待たされた。15分程待ち、やっと町へ入ることができた。
ゲカルミはこの辺りでは1番大きな町だ。町中はかなり賑わっている。あちこちに商店が並び、商品をアピールする声がする。道も広く、たくさんの馬車が行き交っている。大通りは治安も良いのか、子供だけでで歩いているのもみかけた。
アルベルトは町中を見てまわりたい気持ちだったが、ひとまずは目的の冒険者ギルドに行くことにした。門番から道はきいている。大通りをまっすぐ進み、パン屋の角を曲がる。そこから3件目だと教わった。入り口に木製の看板がかかっているらしい。アルベルトがパン屋の角を曲がると、すぐに大きな看板のある建物が見えた。冒険者ギルドだ。
アルベルトは扉を開いて中に入った。中は広く、5つほどテーブルが置いてあった。右側に紙がたくさん貼ってある掲示板がらあり、左側はカウンターになっていた。昼時なこともあり、中にはあまり人はいない。
「こんにちは、初めてですか?」
アルベルトがギルド内をキョロキョロ見渡していると、カウンターに座っていた職員の女性が声をかけてきた。
「はい、オレ、冒険者の登録がしたくて」
「それでは、こちらで承ります」
職員に促され、カウンターに座った。職員はいくつか書類をだし、説明を開始した。
「こちらのカードに名前をお書きください。字が書けない場合、代筆することもできますよ」
「あっ、名前は書けます」
村のハンターに、冒険者登録に名前が必要だと聞いていたアルベルトは、長老にお願いして名前だけは読み書きできるように教えてもらっていたのだ。アルベルトはカードに丁寧に名前を書いた。アルベルトが名前を書いている間に、職員は後の棚から機械をもってきた。何やら透明な球がついている。職員はカードをアルベルトからカードを受け取ると、その機械の球の下にセットした。
「それでは、登録を行います。この球体の部分に手を乗せてください。少しピリッとしますが、案内するまでそのままでお願いします」
アルベルトは言われた通り球の部分に手を乗せた。職員がスイッチを入れると、透明な球が明るく輝き出した。アルベルトは手に痺れるような感覚を覚えたが、注意された通り手を離さずじっとしていた。1分程すると、球から光が消えていった。
「はい。もう手を離して大丈夫ですよ」
アルベルトは機械から手を離すと、一応自分の手が無事か確認した。どこも傷ついていないし、もう痺れもない。大丈夫そうだ。
「これで登録は完了です。こちらをお持ちください」
職員は機械からカードを出すと、アルベルトに差し出した。アルベルトがカードをみると、名前の横にアルベルトの顔が描いてあった。鏡で見るように鮮明だ。アルベルトが驚いていると、職員は微笑みながら説明してくれた。
「こちらが魔道具になっていて、カードに対象者の姿を映し出すんです。対象者の容姿が変われば、カードの姿も変わります。簡単には偽造できないので、協力な身分証となります。他の町に行く際も安心ですよ」
私にも仕組みは分かりませんが、と職員は言った。詳しくはわからないが、他の町のギルドでも、これがあれば仕事ができるようだ。なくさないようにしなくては。
「依頼は掲示板に貼ってあります。詳しい内容は依頼書をカウンターに持ってきてもらえれば説明します。基本的に全ての依頼を受けることができますが、中には難しい依頼もあります。自分の腕と相談しながら、無理のない範囲で依頼を選んでくださいね」
「ありがとうございました。頑張ります」
アルベルトはお礼を言ってカウンターを離れた。掲示板を見てみると、たくさんの依頼が貼ってある。アルベルトは字が読めないが、依頼書にはイラストが描いてあるのでなんとなく内容がわかった。多くの依頼は魔獣から取れる素材を求めるもののようだ。中には特定の魔法が使える冒険者を求める依頼もあった。アルベルトでもできそうな依頼もあったが、今から討伐に出ると帰りが遅くなってしまう。ギルドは24時間やっているとはいえ、慣れない場所で夜に討伐するのは危険そうだ。アルベルトは依頼を受けるのは明日にして、町をぶらつくことにした。
町を一周する頃には日が暮れていた。町中には店や工房は多くあったが、畑などはほとんどない。この町は工業を生業とした町なようだ。アルベルトは、町中央の広場に向かった。たしか、広場の周りには宿屋が多くあったはずだ。アルベルトが広場の方に歩いて行くと、何やら音楽が聴こえてきた。音楽に惹かれて寄って行くと、広場の中央に人集りができている。
アルベルトが人混みをかき分けて前にでると、広場の中央で吟遊詩人が楽器を弾いていた。
吟遊詩人は人嫌い〜惚れ込んだので無理矢理ついていきます〜 ゆず @yuzuyuzuusagi
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