第三章 出会い
第三章 出会い 1
アルベルトが1番近くの町に着く頃には、空が赤く染まっていた。予定通り夜までに町にたどり着くことができ一安心だ。
「こんばんは。アルバ村のアルベルトです。ゲカルミ行きの馬車に乗りたいのですが、いれてもらえますか?」
「あぁ、ヘンリーさんのところの坊ちゃんか。ゲカルミまで行くなんざ珍しい。商談かな?」
アルベルトが門番に声をかけると、門番はヘンリーからアルベルトについて聞いていたようでにこやかに応じてくれた。
「いいえ、冒険者になりたくて。1番近くのギルドがゲカルミなんです」
「冒険者とは、思い切ったことをするね。わかった、お入りなさい。馬車は中央広場からでてるよ。きをつけてな」
「ありがとうございます!」
無事に町に入ることができたアルベルトは、先に魔獣の素材を売りに行くことに決めた。宿に泊まるにも馬車に乗るにもお金が必要だが、アルベルトの手持ちは0だったからだ。
「いらっしゃい!買い物かね、買取かね?」
「買取でお願いします」
「それじゃあっちのカウンターで見せてもらおうか。……ずいぶん大量だね、1人で仕留めたのかい?」
「はい。コツコツ貯めていたんです」
商店の主人は大柄の翌日に焼けた男性だった。アルベルトが集めた大量の素材を軽々と持ち、カウンターに広げて査定を始めた。アルベルトは正面の椅子に腰掛け、その様子を見ていた。
主人は拡大鏡で素材を観察しながら、3つに分類していった。鑑定に通じていないアルベルトにも、素材の上等さで分類していることがわかった。主人は素材の買取に慣れているようで、手際よく素材を分類していく。アルベルトが飽きてくる前に全ての鑑定が終わった。
「1番左の山が1つ銀貨1枚、真ん中が銅貨50枚、右か銅貨10枚でいかがかな?」
「大丈夫、それでお願いします」
素材の値段の相場など全くわからないアルベルトは、主人の言い値そのままに素材を売ることに決めた。買い叩かれている可能性もなくはないが、商店の主人はなんだかいい人そうだし、大丈夫だろう。
数が数なので、合計の売り上げはかなりの額になった。これなら今夜宿に泊まっても、ゲカルミまでの馬車代は十分残るだろう。アルベルトは主人にお礼をいうと、宿を探すことにした。
15分ほど町を彷徨い、宿をさがした。見つけた宿ら1泊銀貨1枚、朝食付きだ。他の宿より少し高めだが、綺麗だし、何より馬車乗り場に近い。アルベルトは銀貨と引き換えに鍵を受け取った。
部屋に入ったアルベルトは、荷物を下ろすとベッドに倒れ込んだ。ベッドはふかふかで気持ちが良い。高いだけあり、上等なベッドを備え付けているらしい。掛け布団も藁ではく鳥の羽が詰められているようで、潜ってもちくちくしなかった。横になっても草の匂いがしないのがなんだか新鮮だ。たくさん歩いて疲れていたのか、アルベルトはそのまま眠りに落ちた。
次の日、朝日に起こされてアルベルトは目覚めた。いつも夜明け前に起きるアルベルトにしては遅い目覚めだ。昨日は半日ほぼ休みなしで歩き通したのだ、無理もない。馬車が出るのはお昼ごろなので、まだ時間には余裕がある。アルベルトはゆっくり朝食を取ろうと食堂へと降りていった。
朝食はチーズにパン、野菜とミルクのスープに焼いたソーセージと、なかなかに豪華だった。食後にはコーヒーが振る舞われた。アルベルトはコーヒーを飲んだことがなかった。ヘンリーやジェームズは毎朝飲んでいたが、クリスとアルベルトはまだ小さいからと飲ませてもらえなかったのだ。ヘンリー曰く、一家の主人になってから飲むものらしい。
なんだか一人前の大人になった気分になり、アルベルトはすまし顔でコーヒーを口に含み、顔を顰めた。苦い、苦すぎる。感想が苦いしかでてこない。父や兄はこんなものをおいしそうに飲んでいたのか。なるほど、立派な大人ならこの苦さに耐えられるのかもしれない。
「あらあら、あんた、コーヒーは初めてかい?コーヒーをそのまま飲むのは物好きがするもんだよ。ほら、砂糖を入れな」
顰めっ面をしているアルベルトに、宿の女将が笑いながらテーブルの上の容器を差し出した。確かに、兄もコーヒーに何か入れていた気がする。アルベルトは勧められた通り砂糖を入れて、もう一度コーヒーを飲んでみた。やはり苦いことに変わりはないが、ほのかに甘みを感じるようになった。これならなんとか飲めるかもしれない。
「苦手かい?ミルクを入れると飲みやすくなるよ。サービスしてあげるから、ためしてごらん」
難しい顔をしているアルベルトを見かねて、女将が牛乳を持ってきてくれた。言われたとおり牛乳を入れてみると、コーヒーが格段に飲みやすくなった。コーヒーの苦味がまろやかになり、程よい香ばしさに変わったのだ。
「ありがとう、女将さん。これなら飲めそうだよ」
「そりゃよかった。今後は砂糖とミルクを忘れないことだね」
コーヒーを飲み終えたアルベルトは女将にお礼をいって鍵をかえした。宿を出たアルベルトは町の中央広場へと向かった。近くなのですぐに着いた。広場には、あちこちに馬車が停まっていた。全部で10台ほどあるだろうか。この中から目的の馬車を探すのは大変そうだ。
「すみません、この馬車はゲカルミまで行きますか?」
「いいや、この馬車はグレイス行きだよ。ゲカルミに行く馬車は緑の馬車だ」
よく見ると、馬車の荷台に色の着いた布が結びつけてある。どうやら布の色で行き先を見分けるらしい。アルベルトは馬車の荷台を見て周り、目的の、緑の布をつけた馬車を見つけた。
「すみません。ゲカルミまで行きたいのですが」
「終点までだね、銀貨50枚だよ」
アルベルトは御者に銀貨を数えて渡した。懐はだいぶ寒くなったが、もともと馬車代が出せればいいと考えていたのだ、構わないだろう。
御者によると、ゲカルミまでは馬車で3日かかるらしい。途中いくつかの村や町に寄り、夜はそこで過ごすようだ。馬車にはアルベルトのほかに3人の男が乗っていた。
「それじゃあ、出発するよ」
お昼の鐘と同時に馬車は出発した。
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