第40話



 筆記試験には特筆すべきこともない。普通のペーパーテストだ。


 まぁ7割くらい書いてからあとは適当に間違った穴埋めしてサクッと終了。



 最先端の魔術、イコール帝国の魔術、イコール私の作った魔術理論、だからね。最近は院長たちもゴリゴリ色々考えてるみたいだけど。

 私がここに来た頃なんかは、皇帝様と院長たちがかなり頑張って体系化しようとしてたみたいだけどまだまだ原始的プリミティブだった。

 そこにめっちゃ口出しして自己流魔術と魔改造合体させて、そっから先鋭化された帝国魔術式として周知されるまで4年……。



 ……え、4年? まだ私方式になって4年しか経ってないの? 早すぎない?



 いや、概念的技術レベルが全然違うからまだ冒険者とかにそこまで広がってない、ってのは知ってるけど。

 でも魔術院のスタンダードにはなってて、帝国内の魔力技術に関してほぼ全部これで出来てるんですが……。

 改めて考えると魔術院の魔術師たちってとんでもなく有能なのでは……?


 というか元々魔術師でも何でもなかったはずなのに、今やその人たちの話に普通に混ざれてる弟子ってやっぱおかしいわ。



 まぁまぁ、さておき、出題されてるのは大半が私製の理論だから当然の如く満点は取れる。

 でも今回満点取るのが目的じゃないので手抜き。多分問題ないはず。


 ちなみにこのテスト、カンニングは一切咎められない。

 でも普通に術式で監視されてるので当然大幅に減点される。


 任務遂行のために周りの様子を探ると……んー、半数近くはカンニングしてるか。意外と多いな。


 上手にやってるのが2人。この部屋の監視術式には何も映ってない。

 不正は良くないけど、なかなかやるじゃん。魔女さんポイントプラス500です。


 あとは多少の差はあれど下手くそ。丸見え。クソザコ。身の程を弁えず自分の力を過信してるのってとっても良くない。

 この人たちは魔女さんポイントマイナス1万になります。



 ……受付で揉めてた3人は、意外にも不正をしてない。

 実績に拘ってるだけで割と真面目なのかもしれないな。あれはあれでダメだからマイナス10ポイントだけど。

 解答的には、まぁ可もなく不可もなくかな。半分取れてるか取れてないかって程度。

 でも不正無しでこれなら及第点といえる。100ポイントあげよう。


 めちゃ強まな板黒髪ちゃん(超失礼)も真面目に頑張ってる。でも1割も正解してない様子。……がんば。50ポイント進呈。


 さっきの貴族っぽい人も真面目に受けてるみたい。

 こっそり魔術で答案を覗いてみても9割近く正解だし、結構ちゃんと勉強してんじゃないの。感心感心。

 自己研鑽を怠らない人は魔術師に向いてるよ。魔女さんポイントプラス1000です。



 といってもこのポイントに特に意味は無いんだけどなっ!

 まぁせいぜい私の覚えが良くなるくらい? なんてね。








 そして筆記試験の時間が終わったので、次の実技の時間まで待機中。

 周りでは先ほどのテストについて自己採点をしたり色々と話し合ったりしている。


 なんかこの辺の雰囲気は前世の学校なんかと変わんない気がするね。……ちょっとだけ、眩しい。




「どうだった?」

「……別に」


 貴族っぽい奴がスッと近づいて話しかけてきた。……なんか馴れ馴れしいなこいつ。陽キャか?

 内心ちょっと戸惑いながらも、まぁ普通に返す。別に人見知りしてるわけじゃないぞ。私陰キャじゃないし。


「やはり……難易度が高かったな。帝国式の先端魔術に関してかなり学んだつもりだったが……太刀打ちできない難問がいくつもあった」

「ふぅん」



 覗いてた感じだと術式競合コンフリクトとか魔力負荷オーバーヘッドとかの問題で迷ってる感じだったかな。

 まぁ問題が意地悪だったからこの辺は捨てていいと思うし、別に悪くないんじゃない?



「貴女は、何処が難しいと思えただろうか?」


「え」



 いや……、え、うーん……難しい問題……?

 今回の問題で難しいと思えたやつ……何かあったかな……?


 えーっと……ハンドリング……コールバック……フォールトトレランス……アブストラクション……どれも別にそこまでって感じ。


 そもそも私って、こと魔術に関しては難しいと感じたこと、ほぼ無いんだよなぁ……。


 難しい、難しい……? 難しいって……なんだ? (哲学)


 そりゃ私だってたまには失敗するけど、基本的にそれは失敗も考慮してる時に限られる。真面目に取り組めば出来ないことなんかほとんどない。

 これまで私が作りたいと思っても作れなかった魔術って時間遡行と死者蘇生くらいしかないわけだし。……失敗作の紛い物ならあるけど。


 あ。あと最近だとあいつのこと見守る魔術。ほんと、女神パワーってずるいわ。

 遠隔だとマジで手応えがなさすぎて難しいというより無理。ソルまじガンバ。期待してるよ。


 いや、直接対面できればアプローチ方法も見つかりそうなんだけど……対面できた時点で目的達成してるじゃねぇかって話。



 まぁ、試験問題に関して、出てくるのがたとえ応用的だったとしてもあくまで試験にすぎないわけで、別に大したことなんかあるわけない。



 ……うん。

 この試験に関して、結論、全部楽勝。






「全部、別に」


「そう……か。大丈夫だ。他で挽回できるだろう」



 ……え? あれ? なんか勘違いされた? いま私のこと、できない子扱いしましたかね?

 いや、実際途中から真面目に解いてないし受かる気も無いからいいんだが。……いいんだが。



「あぁくっそ……難解すぎんだろ……なんだこれ……」

「そーよそーよ……」

「……」

「ぜんぜんわかんなかったよぉ……」



 少し離れたところで、なんか落ち込んでる人たちがいる。

 受付クレーマーズに謎の黒髪ちゃんが混ざってるね。


 まぁまぁ、大丈夫よ。

 試験結果は全部終わってからのトータルで決まるからこの先いくらでも挽回のチャンスはあるさ。

 ……黒髪ちゃんは実技でだいぶ巻き返さないとだけど。


 あとカンニングバレした約半数は、多分もう駄目かも。来年頑張ってね。






「最初に説明した通り、次の実技試験は2日間に分けて行います。今からお呼びする番号の方は明日の試験となりますので、本日はそのままお帰りください」



 ……お。私は明日組か。成績の上位チームと下位チームに分かれる感じかな?

 私は筆記をそこそこの点数にしたけど、実績がぶっちぎりでゼロなので下位に入ってる。

 黒髪ちゃんと受付クレーマーズも同じチームだね。あとは印象無い一般モブ魔術師さん。


 貴族っぽい男は今日のチームみたい。

 行ってらっしゃい。ま、せいぜい頑張るといいよ。



 ……。




 ……。





 ……帰るか。

 といっても帰るの、この魔術院にある研究室なんだが。


 陽キャ貴族を見送って、明日組の人たちが喧騒と共に出ていくのも確認し、一人になる。


 さっきまでの光景が嘘のように静寂に包まれた試験室から、そのまま転移を、




「いかがでしたか?」




 ……院長か。こっちくるのは気づいてたけど、今日の確認かな。



「えっと、候補生の様子。一人実力が突出してるけど勉強ができなさそう。最初文句言ってたグループは意外と真面目でそこまで酷くない。貴族っぽい人は優秀だけど自分の実力を過信してるきらいがある。他は有象無象。バレバレの不正をしてた人たちは特に駄目」



「ふむ、ふむ。まぁそんなところでしょう。……ここで聞くべき、ですね。貴女自身はどう思いました?」

「?」



 ……なんだろう。どんな返答が、求められているのだろうか。


 試験そのものについて?

 私には簡単すぎるくらいだけど、難易度が例年より著しく下がってるとは思えなかった。


 候補生について?

 さっき話したこと以上に何か、あっただろうか。



「いえ、いえ。ただ個人的に、貴女の等身大の感想をいただきたく」

「私の……?」




、いかがでしたか?」




「……」

「……」


「……」

「……」


「……ちょっと、だけ」

「はい」


「羨ま…………あ、いや、何でもないです。……帰ります」

「……はい。お疲れ様でした。明日もよろしくお願いします」

「……」





 急ぐように転移して、自分の研究室に戻った。町娘の服を脱ぎ、あいつのローブを着る。

 今日は出番がなかったショボい杖も私室に放り捨て、少しだけ、考える。


 あー……明日の実技試験、どうしよっかな。






 ……もしも。


 もしもだけど。




 私が本当に帝国生まれのアルちゃんだったら、どんなふうに試験を受けたんだろな。




 ……。



 ……仕事しよ。

 やらなきゃいけないこと、いっぱい溜めてるし。




 冷却箱をあけてー、お菓子セット、よし。甘い果実水セット、よし。


 よっしゃ、これでいくらでも頑張れるぜ!

 明日までToDoリストの消化作業、頑張るぞっ!







・・・




<聖剣ちゃん>

「魔力干渉が無くなったんだけど……やっぱ諦めた? ……よし、勝った!」




・・・

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勇者のことが気になって仕方ないTS魔女さん マッキーイトイト @mckeeitoito

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