第39話
たのもーっ! 魔女さんのエントリーだ!
道場破りっぽく心の中で呟き(実際は無表情で無言)魔術式自動ドア上部のセンサーに手をかざしながら(身長が低いとたまに反応しないので)扉を開けて入場。
広いエントランスには候補生が何人もあっちこっちに散っている。
男女比は男多めの7対3くらい。年齢層は比較的若め。人数は、十数人。
グループになってるのは……受付で揉めてるっぽい3人組だけかな。
「おい、なんで俺たちの冒険者実績がまともに評価されてねーんだよ!」
「そーよそーよ!」
「……」
「いえ、いえ。魔術院としては、冒険者としての評価よりも実際に使った魔術での評価を重視せざる」
「俺たちは中級の中でも上位の冒険者チーム"旋風の刃"の元メンバーだぞ!」
「そーよそーよ!!」
「……」
って、いや……なにしてん院長。また身体が暇してるんか。
あと君ら、その人ただのモブの受付おじさんじゃなくて、人外の沼で全身浴してるマジやばいやつだからあんま喧嘩売らない方がいいと思うよ?
チラッとこっそり色々判別……うん。人間だね。どこにでもいるような凡百の人間。
ツンツンヘアーの頭軽そうな男と、金髪の高飛車っぽいギャル、あと一言も喋らないムキムキ男。
さっき探った感じと、中級って自己申告から考えると……魔女さん基準で25から35レベルくらいの魔術師かな?
保有魔術までは見てないから少し曖昧だけど、垂れ流してる魔力も洗練されてないし高度な魔術を使えるようにも見えない。
おそらくプラマイ10レベルも違わないはずだ。『情報抽出』の術式で抜き取るまでもないだろう。
……まぁこれも秘匿術式だから申請せずに使ったら怒られるやつなんだけど。必要性があれば別に事後申請でも問題ないし。必要性なくてもバレなきゃ大丈夫だし?(前科たくさん犯の極悪魔女さん)
というかさ、一応ここ、世界最高峰の魔術組織なんだけど……よくイキれるよね……そのメンタルの強さは見習いたい。
……ちょっと気になったけど、なんであの無言男、魔術師なのにムキムキなんだろ。魔法戦士ってやつかな?
もし接近戦に長けてるなら彼だけ上方修正してもいいかも。少なくとも他の二人よりは強そう。
帝国兵長さん以下、別れた頃のアル以上、かな。
まぁでも多分、今のあいつなら勝負にもならないと思うけどね。
あいつは努力家だったし、私といる時も私と別れてからも、ずっと鍛え続けてた。
きっと聖剣に選ばれてからもその力に驕ることなく鍛錬し続けてるはずだ。
きっと……そうなんだろう。
……。
あいつ、今どんな感じなんだろ。何やってるんだろうなぁ……。
「身の程知らずどもだ」
……ん?
なんか知らんやつに話しかけられた。
近づいてきたのは、かなり見なりが良い、人間の男。
短く整えられたさらさらの茶髪、仕立てのいい服、持ってる杖も結構高品質。たぶん……貴族?
んー、大したことはないか。レベル40くらい。たまに見かける上級冒険者クラスってとこ。
「万一戦闘にでもなれば、恐らくあいつらは瞬殺されるだろうにな」
「……なんでそんなふうに?」
適当に話を聞き流しつつ、こいつを探ったついでに他の周りの全員も確認。
簡易判定、えーっと魔女さん基準のレベルで大体が……20、35、30、40、25、20、35、25、45、95。……95?
なんか思わず二度見しちゃったけど、一人だけやたら突出してる子がいる。
私を除けば、あのツヤツヤな黒髪のポワポワ系少女が候補生最強かぁ……結構すごいね。
ほぼ人類やめかけてるよ。人外の領域に胸ぐらいまでは浸かってそう。
……ま、その胸は平坦だが。……ふ、勝った。
パッと見の感じ、魔力というより神力って感じの力が強い。多分聖職者かな。
なんで魔術院の試験に来てるのかはわからんけど。うーん。ユーは何しにここに?
まぁ神に仕えてようが魔術は使えるし、個人の自由だけどさ。別にどうとでもできるからいいか。
とりあえず……全員人間だし変なのは混じってなかった。
いや、いつもやってることだけど、院長が脅すようなこと言ったもんだからちょっと警戒しちゃってた。これで一安心だね。
「……今入ってきた貴女があれを見て一瞬、不穏な雰囲気を出したように感じ、少し引っかかった。だから念の為と探ってみたのだが、……そうだな。正直に言うと最初はわからなかった」
勿体ぶった感じの視線に釣られるように受付をチラ見したら院長と目が合った。
凡人に擬態した一般通過激ヤバ超級魔術師おじさんとアイコンタクト開始。
うん、やっぱ君、その魔力探知気づかれてますよ。
でも多分高評価っぽい。よかったじゃん。
……でもさぁ。
さっきから私のこともめっちゃ探ってるの、若干不快だからやめてほしいかなぁ。
こっそり使うために宣言省略してるからか術式隠蔽も中途半端で、うーん、なんていうか、素人。
「あの受付の男、底が知れない。流石は魔術の最高峰たる帝国魔術院だ。いや……もしやあの男が……デュ・シエルという究極の魔術師……?」
いえ、違いますが?
「……貴女もあの男の凄さが理解できているようだ。一目でわかるとは、すごいな。見た目以上に大したものじゃないか」
……ん。あぁ、ごめんね。
頑張って探ってたんだろうけどそれ全部、
「まぁ、探知、というか技術には自信があるので」
「そうか。……名前を聞いても?」
「アル」
「良い名だ。私は……ヴィーとでも呼んでくれ。お互い合格できるといいな」
今の私は、採用試験時の弟子基準のステータスを『情報欺瞞』の術式でセットしてる。
当時の弟子は、魔力量だけは結構多かったものの、それ以外がかなり稚拙だった。
そんなど素人時代の弟子状態の私は、彼の目には大したことないように見えるのだろう。
……。……まぁまぁ。これから私は一般魔術師として試験を受けるのだから。
ちょっとマウント取られたくらいで、こう、あまり心を乱してはいけない。
というか、そう仕向けてるわけなんだしさ。むしろしてやったりじゃない?
……。
……、ぐっ……。
やっぱムカつく……わからせてぇ……。
そんなちょっとしたら葛藤と戦ってたら名前(偽名)を呼ばれたので男と適当に別れて、受付に向かう。院長の方じゃなくて、ちゃんとした受付嬢の方。
同じ魔術院の一員だけど、会ったことない子だね。私は大体研究室に引き篭ってるので、奥に来ないような人たちとの交流はほぼ無いのだ。
まぁ受付といっても、見た感じそれなりの魔術師。色んな機密も扱ってるから最低限の実力は備わってるってことかな?
というかぶっちゃけ、パッと見の印象では院長の方が影が薄くて弱そうに見える。軽い欺瞞もしてるし、マジであの人タチが悪いわ。
そんな、そこそこ魔術師な受付嬢さん。私の正体には全く気付かず可愛らしい笑顔で色々と試験の説明をしてくれる。大体知ってるけど。……概ね以前までと同じかな。
で、受験番号的なものを渡される。これが、実績試験を加味した現時点での成績順になるわけだ。
さっきの人らが文句言ってたのは、この番号が思わしくなかったってことなんだろうと思う。
そして私は実績ゼロとして来てるので、ほぼ最下位。仕方ないね。
まぁ今日の私は冒険者のクーでも魔術院のクー・ド・ヴァン・デュ・シエルでもない。
ただの魔術が得意なだけの町娘アルなのだから。
……ちょっと新鮮な気持ちだね。帝国で生まれてれば、そんな風な人生もあったのかなぁ。
(偽名にあいつの名前を勝手に使うの、我ながらキモいのでは?)
うっせ、いいだろ別に。
というかあいつに姓があれば、そっちを使ったんだけどな。……別に他意はないぞ。
でも残念ながらど田舎村出身だからお互い名前しかなかったんだよね。仕方ないね。
まぁ今の私には家名みたいなもんあるんだけどさ……。
……。
アル・ド・ヴァン・デュ・シエル……?
うん。
……、ふっ……、ふふふ。……いいね。結構綺麗な響きじゃないか。是非ともあいつにはそう名乗ってもらいたいものだ。
皇帝様から名をもらうと言うことは、家名をもらうようなもの、家を名乗れる存在ってことは、貴族みたいな扱いって聞いたことある。
つまりいうなれば、私は一代貴族のようなもの。一人しかいないけど。でも、ここにアルが加わったら?
一人貴族が二人貴族に、独身貴族が新婚貴族に、ってね。……ふほほ。
「それでは皆さま、試験会場へどうぞ。……そこの貴女も」
そんな妄想の翼を逞しく広げて輝かしい未来にダイブしてたら、いつの間にか筆記試験会場への案内が始まってた。ちくしょう。もうちょい妄想させろよ。
くそ……仕方ない……。一応仕事だし真面目に試験やるか……。
……と、思ったはいいものの。
というかそもそもその前に、私ってどれくらい頑張っていいんだ……?
真面目にやりゃ当然受かると思うが、普通に合格を目指してもええのんか……?
会場に向かう前に、とりあえず再び院長をチラ見。
年齢よりも老けてるモブ顔おじさんは好々爺って感じの視線で軽く頷く……いや、どっちの頷きだよ。
あの時の弟子基準で言ったら割と落ちかねないけど、そんな感じでいけばいいのかなぁ。うーん。
……まぁいいや。別に私が合格を目指す必要性は無いわけだし。
適当に手を抜きつつ、仕事、というかいろいろ粗探しをしましょうかね。
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