季節は巡る、微睡みの中で
猫かふぇ
私の、四季への思い
私は、動く事が出来ない。
いや、出来ない訳では無いが、うーん、正しく言うなれば、動くのにとても不自由だと言うことだ。
そんな身体で、常に寝たきりだ。適度に、外に車イスを、押して行ってもらうが、それも、数回。
基本は、ベッドの上での生活。偶に本を、読んだり、テレビをみたりして、気を紛らわしているが、正直言って、退屈だ。余りにも、代わり映えのしない日々、話すことさえ、お医者さんや看護師さん以外とは、まともに会話していない。そんな日々だ。
だからこそ、思う。一体、何不自由なく、暮らせるのは、どれほど楽しいのだろうか…と。
呆れ返るほど、笑えるのだろうか。むせ返ってしまうぐらい、ご飯を食べるのか。他人と、愛を育めるのかな。そんな思いを、胸に秘め、窓の外をぼんやりと眺め、想いを馳せる。それが、日課となっていた。
その中でも、強く羨む事がある。それは、季節だ。
私は、季節を、感じることが難しい。他の人に、とっては長く、感じる物かもしれないが、私には、その感覚はない。何故なら、私にとってそれらは一瞬で過ぎ去っていくものだから。
もちろん、桜をみたこともあるし、紅葉も、雪も知っている。ただ、海は、まだ見た事ないからわからないけど、季節を感じる、それは私にとって憧れでもある。いつか、見に行けたらいいな……。
それまで、生きられる保障なんて、何処にも無いというのに。
4月12日(金曜日)晴れ、季節は春
「暇に、なってきたので、下の売店で日記を買ってみました。なんで、今まで、やっていなかったのかと、言うと余り、文字を書くのは好きじゃなかったから。でも、どうせならと思い、書いてみようと思いました。
さて、今日はいつもの検査の日です。と言ってもすぐ終わると、思います。あ、看護師さんが、料理を持ってきてくれました。私は、食べ慣れてるから何も感じないけど、病院食は、味が薄いらしいです。うーん、美味しいと思うけどなぁ。
検査も、終わり無事に病室に戻ってきました。特には、変化はないようでした。窓から、桜が散っているのが見えます。あれは……会社員の方でしょうか?あの着こなし、新しく入社したのでしょう。仕草でなんとなくですけどね。始まりの季節であることを、忘れてしまいます。春といえば……お花見でしょうか?皆で、桜の下に集まり、楽しく過ごす。そこに、ウグイスの鳴く声がしたりして。実際の所は、どんな物かは分かりませんが、やってみたいですね。おや、色々書いていたら行が、少なくなってきたので今日は、このへんで終わりにしましょう。
それでは、また明日」
6月15日(土曜日)雨 季節は……梅雨?
「梅雨の季節が、やってきましたね。この時期は、雨が多く降るので、余り好きではありません。雨音を聞くのは、好きなのですが、ジメジメしていて、気持ちが陰うつに、なってしまいます。窓の外を、眺めても、皆傘をさしているので、表情だったり服装だったりを、確認することが出来ないです。退屈です。梅雨らしいものとは、一体何でしょう?
あじさいだったり、カエルだったりが、私の中でのイメージなんですが、他にも何かあるのでしょうか?
それで言えば、食べ物も、思いうかびませんねぇ。
うーん、意外と強敵かもです。そもそも、梅雨は季節なのでしょうか?そう、と言われればそうなのですが、違う、と言われれば違う。ような気も、う~~ん、難しいことを、考え過ぎて頭が痛くなってきたのでやめます。はい、この話はここでおしまい。
今日の日記も、ここで終わり。よし、それじゃあ、また明日。おやすみなさい。」
8月15日(木曜日)快晴 季節は、夏
「暑い、その一言で片付くほど暑いです。まぁ、私の病室は、エアコンがついているので快適なのですが。散歩という、名目で外に連れられた時は、ゆでられているかと、思いました。改めて、この中、通勤や通学する人達は、すごいなと思いました。私と言えば、全然駄目で、たった数分で切り上げてもらいました。うー、情けないです。
夏といえば、色々ありますね。夏祭りに、花火大会、お盆に、七夕、どれも私が、体験したことないものです。恋人との、デートだったり、友達と楽しく過ごす、そんなぴったりの季節を、私は、病室で………。悲しくなって、きたので話を、変えます。
お盆、ご先祖様に、挨拶しないといけませんね。
こんな身体では、とうてい無理ですが。ゆるしてくれますかね。あぁぁ、と、少し眠くなってきたので、お昼寝したいと思います。それじゃあ、また明日。おやすみ」
10月14日(月曜日) くもり 季節は、秋
「だんだんと、寒くなって来ていますね。私は、あいも変わらず病室ですが、最近なんだか、眠ってることのほうが、多く感じます。季節も、あっという間に秋に、なってしまっていて。ついこの間まで、夏だと、思っていたのだけれど。今日は、スポーツの日らしいです。スポーツとは、面白いのでしょうか?やったことが、ないので分からないけど、テレビで、見る限り皆、楽しそうな顔を、しています。
………うらやましいなぁ。でも、私だって元気になれば、できるはずです。うん、やってやるぞ~。
それは、そうと今日、先生から、大事な話があるそうです。一体、何の話でしょうか?もしかして、回復してきているのでは、ないでしょうか!だと、したらとてもうれし、……」
1月13日(げつようび) はれ 季節は、ふゆ
「ても、とう、とう自由に、うごか、せなくなってきまし…た。ねて、いることもふえました。みんなが、たのしそうです。ゆきが、ふっています。しろくて、やわらかそうです。さわって、みたいです。まどに、てをのばし、……かんごしさんに、めいわくかけてしまいました。はんせいです。なみだが、とまらないです。かなしい、また、ねむくなりました。ねます。おやすみなさい。」
3月20日もくよう きせつ はる
「めぐり、ゆきまわった。わたしは、ねていた。わたしは、いたのかな?わからない。あ、さくらが、きれい、はじめてさわった、うれしい。やわらかく、あったかい。ぽかぽかする、わたしのゆいいつのたからもの、」
意識が、明朗としてくる。
身体が、自由に動く。良かった、やっと治ったんだ!
これからは、何をして生きようか。
やりたいことが、多すぎて迷ってしまう。
そうだな、まずはあの光差す方へ行くとしよう。
私の、新たなる人生を始める為に。
今度は、季節をこの身で、感じるために。
微睡みの中ではなく。
はっきりとした、意識の中で。
季節は巡る、微睡みの中で 猫かふぇ @necocafe
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます