良い余威酔い

初乃 至閉

良い余威酔い

 この時期携帯を外で使っているとすぐに熱くなって不便さを感じ苛立ってしまう。

その苛立ちを昇華することもできずに蓄積されてまた熱が籠っていく。

毎日の通学に授業、校内でうわさされる君のあの話、放課後のアルバイト、家に帰り夕飯のカップ麺を三分待てずに二分で食べ始めてしまうし、熱湯を沸騰前にカップ麺にいれてしまうせいか麺が硬いまま食べることが多い。

 はやくあのきみのわるい噂が噂なのか確かめないと。早く早く

ああ、携帯がさらに熱くなって動作が鈍い。

いっそどうでもいいと割り切れたならどれだけ幸せだったのだろうか。

自分の気持ちを何をしても昇華できないという生まれながら枷付きの人生を歩んでいるせいで結構苦労しているつもりだ。

早くこの霧を晴らさないと。ずっとありきたりな感情しかなかった僕を唯一貶めて苦しめてくれた君の事なら何でも知っておかなきゃいけない。ゆわば義務だ。

 噂を聞いたのは休みに入る前の日の給食時間だった。僕はクラスメイトと昼食をとっていた。最近はやりのスマホゲーム、先輩の彼氏が薬をやっているだとかつまらない話題ばかりで愛想笑いをしながら携帯をいじっていた。また熱が籠る。

つまらない話の中に君の噂を聞いてしまった。 同じクラスの繧ゅ≧縺昴≧さんは… 援助交際その四字熟語が僕の心の擦り傷を抉ったり、今までで一番深い傷をつけてくれたのを感じ、心地よかったのを覚えている。それまで僕は君のことなんてただのクラスメイトとしか思っていなかったのに僕の中で友達になってくれた。それと同時に君に対して裁きを下すべきだと感じた。

 携帯でその噂を聞いてから君のSNSアカウントを探った。学校名が添えられていたのですぐに特定することができた。きみのわるい噂は本当だった。もう焦らなくて済む。馬鹿だなあとおもいつつ愛おしいという感情が湧いてきた。

君は何かを投稿すると思えば大体は破廉恥な画像とともに援助の値段がいつも添えられていた。それに僕はいつも張り付くかのように目を通して一枚の画像を何時間もの時間をかけて堪能させていただいている。あとは時折呟く家庭の事や学校の友達、彼氏の事。きっとこの投稿は僕へのSOSなんだと、つらい日々を過ごしている君を諦観することしかできない君の周りとは僕は違って、君を傷つけることもないし、救って上げれるからね。安心してほしいな。なにか欲望をぶつけれたものは初めてで君に僕のいろいろな初めてや感情を支配してほしいと思った。

勝手だけど君の最後の人は僕にしてしまおうと思う。これだけぼくにじかんをつかわせたのだから。


 はやくしなきゃ。気味が悪いこんな趣味はないから。


僕は一か月分のバイト代を引き換えに君の最後をもらうために会う約束を取り付けた。

9/2 本当は学校のはずなのに君は学校を休んでまで僕に会いに来てくれたね。僕は愛されていた。そう確信できる。

 君の噂を休み前に聞いてから君のことでたくさんだった。たくさん君のことを知り僕が助けてあげないと僕だけにしてしまわないときっと君は救われないんだろう。

会う前日は特にそうだったけど僕は君のことを考えてたくさん空っぽにしてきた。ほかのやつとは違うからね。安心してほしいんだ。

 僕の母も援助交際をしていてその相手との間に僕が生まれた。誰もが予想する通りうまくいっている家庭とはいえずに家族全員が不満をため込んでいる状況になっていた。母や父は時折それを爆発させ僕や物に怒りをぶつけてきていた。

僕はそれを見てきているのでやはり悪なんだと思いながら過ごしてきた。

そしてやっと君に会える。

 9/2、12時36分、君は36分もの遅刻をして僕との集合場所に来てくれた。君は僕が声をかけてからあきらかに動揺していたね。愛おしい小動物のような華奢な体系と栗色に染められ艶々して少しまかれた髪の毛、カラーコンタクトや化粧をしなくても君はきれいなのにと思いながらもこの暑さで崩れてしまったのかファンデーションの後ろにある地肌が鼻周りや額からみえていた。

僕は今日がどれだけ楽しみだったか君に伝えたかったけれどいきなりこんなに感情をぶつけてしまうと逃げられてしまうかもとお金の確認だけさせてホテルへ向かった。とても動揺して目が泳いでいた君。全部もう見れないと思うと少し悲しいけれどこれが正しい裁きだ。君のために行動できたことが本当に幸せだ。

僕の初めてなのでせっかくなら彼女も万全な状態で行為をしたいだろうなと思ったので化粧直しをしておいでと指摘してあげた。

 かわいく化粧をした彼女はようやく自分から話題を投げかけてくれた。

「同じクラスのえっと…」   ああ、ぼくの名前は憶えてはいないものの同じクラスだと認識してくれていたのかとうれしくなって僕は君の話を遮るように今まで君にどれだけ時間をかけたのか、僕が君の最後になってあげようと君を救ってあげようといかに本気なのかを気が付いたら一時間ほど熱弁してしまった。

若干君は引いていたけど何とか行為に至るよう誘導してくれた。シャワーを浴び、部屋の自販機で売っていた缶チューハイを一緒に飲んだ。はじめてのおさけしばらくしてベットへ誘導してくれた君。たまに僕に身体や下半身をみて微笑んでくれる笑みが妖美でたまらなかった。もう見ることができないのは少し悲しいな。

 いつも何時間もまじまじと見てきたからだ。ぷっくりときれいに膨らんでいる胸部や唇と同じ色をしているかわいらしい体の中。ぼくはまじまじとたくさんみた

緊張もありつつもそれよりも君とつながりたくて一心同体の新しい生き物になりたくて。酔いに任せて初めてをしてしまった。僕の初めての性行為は彼女の中に溶けていくのだろう。そして彼女は僕が最後だ。行為が終わったころには当たり前だが彼女はうごかないでいた。すこし悲しさもあったけれど僕が救ってあげたんだと思うと誇らしかった。

 援助交際は悪だ。今までに何人もの汚いおとなに君は汚されたのだろうとおもうと悲しくなって何度も何度も君の中で溶けてしまった。昨日空っぽだったはずなのになあ。僕は僕は時間がない早くこの霧が晴れてしまう前に処理しなきゃいけないはずなのに。ドアをたたかれても僕は必至に彼女のなかでとけていた。はじめはとっても暖かかったのになあと思いながら何時間たったかわからないけど彼女の中で何度も溶けた融けた。余威に任せて彼女を裁いてあげたわけじゃないけど。でも君が悪いんだからね。援助交際なんてことしちゃうから。僕が救った君。僕で最後の君。


           警察が来ちゃう早くしないと。


僕には時間がない。部屋にある自販機からカップ麺を取り出し、水が沸く前に熱湯を注いで三分待てずに二分たってからカップ麺を食べ始めた。




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