そして白だけが残る。

サトウ・レン

やがて真っ白に――。

 こうしてベッドから窓越しの空を眺めている、とたまに思うんです。

 空の景色はこんなにも表情豊かでころころと色を変えるのか、と。

 今日の雲は仄かに澱んでいて、雲間から光を落としていますね。

 夏も、もう終わるからか、すこし風も冷たくなってきました。

 寒くなってきたら、病室の夜も寂しくなってきそうですね。

 そんなこと、心配する必要なんてひとつもないんですが。

 はじめて会った時のこと覚えていますか。きみと僕が。

 あの時も確か夏の終わり、秋めいてきた頃でしたね。

 実はすこしだけ、きみのことが苦手だったんです。

 それが誰よりも、距離の近いひとになるなんて。

 直接、口できみに伝えられたらいいのですが。

 その力も、僕には残っていないみたいです。

 目を開けているのも、もう無理そうです。

 あれっ、僕の顔に水滴が落ちましたか。

 こんな屋内にも、雨は降るんですね。

 ごめんごめん。ただの冗談ですよ。

 どうすればいいか分からなくて。

 きみの泣き顔を見ると、僕は。

 どうにも、困ってしまって。

 まぁ見えないんですけど。

 分かってしまうんです。

 何年もきみと一緒に、

 過ごしてきたから。

 もう、時間かな。

 楽しかったよ。

 ありがとう。

 さよなら。

 いつか、

 また、

 ね。

 。

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そして白だけが残る。 サトウ・レン @ryose

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