第45話
「……いてぇ」
コハネの第7軍団基地医務室。ベッドの上でジェズ・ノーマンは全身の痛みに静かに悶えていた。
とんでも概念武装のわけがわからん官服により膨大な魔力を強制的に流し込まれたジェズ。その後遺症として全身の魔力回路が異常な状態となっており、ベッドの上の住人と化していた。
ジェズが第10階梯無属性魔法「無血革命」によりオークエンペラーを討ち取ってから数日後。
その場でぶっ倒れたジェズや負傷兵などを引き連れてレネやエリンなど第7軍団の一部はコハネに帰還していた。
戦場の趨勢自体はオークエンペラーが討ち取られた段階でほぼ人類側の勝ちが確定。そもそもセレナの戦略級魔法で魔物軍の過半数が狩られた直後だった事もあり、大した抵抗もなく魔物の残党は殲滅されていく。
魔力が尽きていたセレナやレネ、リリーやエリン、そしてジェズを除いた第10軍団、第9軍団、第7軍団第2連隊、そして第78戦時混成軍団の面々により半日もかからずに戦闘は終結。
しかしここで終わらせないのがタッシュマン王国が最前線国家たる所以。
戦闘集結から2日後。遅れてきたオスカー率いる第78戦時混成軍団の歩兵2000を中心に第10、第9軍団、およびコハネで待機していた第7軍団第3連隊も加わりバスティオナを一気に取り戻すための反転攻勢が始まる。
第7軍団第2連隊やレネが率いた1000騎はコハネにて待機。なお当初の予定では第9軍団も再編が終わるまではコハネで待機する予定だったが、第9軍団暫定軍団長マリア・ヴァレンティたっての希望で奪還作戦に出撃していた。
マリアからの嘆願に対し、流石に兵の消耗や疲労が無視できないと最初は出撃を却下していたレネ。しかしマリアに連れて行かれた第9軍団暫定駐屯地にて2000名の勇士が整然と並び、出撃命令を待っている様子を見て考えを改める。
精神的にも肉体的にも決して万全ではないだろうに、姿勢を正し強い意志を込めた表情で整然と並ぶ第9軍団の兵士達。つい数日前まではボロボロになっていた武具も磨き上げられ太陽の元で強く輝く。
彼らの覚悟を受け取ったレネもまた、命令を下す側の覚悟を決めた。
「第9軍団暫定軍団長マリア・ヴァレンティ!」
「はっ」
第9軍団の2000名が並ぶ前でレネの前に跪くマリア。それに続いて2000名も膝をつく。
「ロイヤルオーダー11の権限に基づいて貴殿に特命を下す。絶対にバスティオナを奪還せよ。この任務が成功するまでコハネより内の土地を踏む事は許さん。必ずや成し遂げよ。……頼んだぞ」
「必ずや」
マリアに続いて第9軍団2000名が静かに闘志を漲らせる。
・ ・ ・
こうしてオークエンペラーとの戦闘終結からわずか2日でタッシュマン王国側は本格的な反転攻勢を開始。
第10軍団軍団長であるセレナ・カスティロを先頭に、後に“逆境不屈”の二つ名で呼ばれる事になるマリア・ヴァレンティ率いる第9軍団、更に“遅れてきた男”と呼ばれる事になるオスカー・ベイリー率いる歩兵2000、そして第7軍団第3連隊は破竹の勢いで進軍。
全ての魔物を殺して、殺して、殺し尽くしてわずか2週間後にはバスティオナを奪還する事に成功した。
なおこの間。文官(?)はひたすらベッドの上で悶えていた。
・ ・ ・
概念武装、
この概念武装とジェズの“魔力放出が下手”と言う体質がかけ合わさった事でとんでもない威力の単発攻撃が実現。
これは錬金術師ヴィクター・アルケミスがジェズの特性を理解していた点が非常に大きい。いずれにせよワンオフの特注品であり、使用する人も場面も選ぶ代物だった。
黄金の右ストレートをぶっ放した後に官服はその機能を停止。概念武装展開モードだった官服は輝きを失いその形状を元に戻すとジェズはその場でぶっ倒れる。
なおジェズが倒れる際「服が破れなくてよかった」と本当にどうでも良いことを考えていたのは余談である。
いくら魔力放出が下手で結果として魔力圧縮が得意な体質だったとはいえ、流石にここまでの量の魔力を体内に取り込んで圧縮した経験はない。
要するにジェズの体は悲鳴をあげていた。特に右手など最初の数日は感覚がなかった程である。
ジェズは冗談半分で「なぁ、俺の右手ってまだ付いてる?」とエリンやレネに気軽に言ってみた際にガチで心配された事で大いに反省。その手の冗談は言わないようにしようとマジで反省したジェズだった。
そんなこんなで回復に努めている間に後に南方大騒乱と呼ばれる一連の戦いも終結。
そんなある日。相変わらずジェズが病室のベッドの上でゴロゴロしているとレネとエリンがやってくる。
「と言うわけで王都に戻るぞ。お前も来い」
レネの話によるとバスティオナ奪還の報告、およびロイヤルオーダー11の報告のために王都に戻る必要があるらしい。加えてエリンからも。
「私の師匠にジェズの容態を見てもらおうと思って」
体の中身がボロボロなジェズをタッシュマン王国最高の医師でもあるエリンの師匠に診せようと言う話らしい。
自分が知らぬ間にあれよあれよと決まっていく予定。せめて何か言わせて欲しいと思ったところでレネ姫がニヤリと笑い、
「ジェズ・ノーマン。第78戦時混成軍団の副将の地位は現時点を持って解く。代わりに私の主席秘書官に任命する。エリンと協力して王国議会へのロイヤルオーダー11に関する報告書作成を頼む」
そしてレネはややドヤ顔でジェズの肩を気軽にぽんぽん叩きつつ。
「という事で非常に文官らしい仕事だろ?頼むぞ、自称文官殿」
文官は姫様からは逃げられない。
第1部 南方大騒乱編 完
【応募用】 文官してたら姫騎士に脳筋だとバレて前線送りになった けーぷ @pandapandapanda
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