シャボン玉

白崎なな

第1話美しい音と色

 私は、サクッと音を立てて食パンをかじる。自分の歯形が綺麗に食パンにつく。私は、もともと朝は食パン派だった。和食も魅力的だが、和食よりも美しい音が聞こえる食パンは朝からテンションが上がるのだ。


 私の世界には、音楽で溢れていた。産まれた時からピアノがそばにあり、バイオリンの弦に触れてきた。音は、色に変わって弾け飛ぶシャボン玉のようで耳と目で楽しめる。


 こんな美しい世界なのに、みんなには音としか聞こえてこないらしい。なんて勿体無いんだと、思っていた。


 しかしそんな世界もいつからか、くすんだ色で染まるようになってしまった。近くに飛ぶ美しいシャボン玉に、触れようと手を伸ばすほどに遠く。伸ばしては、空虚を掴むを繰り返す。触れるシャボン玉は、くすんだ美しさのカケラも感じられない色をしている。


 私は、近寄るシャボン玉にいつしか触れることもできなくなっていた。



 美しい世界だった、音楽に溢れた毎日は一変した。キラキラと輝いて見えた音たちは、雑音にしか聞こえない。


 何も考えず、アップライトに向かい幾度となく弾いた譜面は見たくもなくて破り捨てた。あんなに指を広げたピアノの白と黒の鍵盤は、真っ黒のカバーに常に隠されている。



 美しい音を立てていた、食パンですらもう何年も口にしていない。久しく食べていなかったそんなパンを、今日は食べたくなり口にしていた。


 やはり、サクッと音を立てる音は美しい。恋しい煌めくシャボン玉が感じたくなり、しばらく離れていたクラシックを流した。


 音で色で感じられる音楽が好きだ。



 聴こえてくるはずのない声だって聞こえてくる。いわゆる絶対音感というやつだ。ピアノの音が音を教えてくれる。この曲は、B♭の和音が美しい。



 追いかけるほどに遠く、じっと待つほどに近づいてくる音。


 あの時の私は、きっと必死に音を追っていたのだろう。美しい和音は、目の前を華やかなシャボン玉で覆い尽くしていく。




”今なら、美しいシャボン玉を自分の押した鍵盤からも見えてくるだろうか”




 私は、真っ黒のアップライトを撫でた。埃をかぶっている。カバーを開いたピアノの鍵盤は、艶を帯びていて私の帰りを待っていたように感じさせた。



 恐る恐る私は、指を鍵盤添える。そっと押したB♭の音はずっと弾いてなくて調律がおかしくなっている。


「ごめんね。Cの音に近くなっているね」


 私は、ピアノを撫でるように音を奏でた。調律は完全に狂ってしまっている。それなのに、キラキラと輝くシャボン玉で空間が埋め尽くされた。



「今度、調律してあげないと」



 私の声は、美しいピアノの音と色に溶けていく。




_________________________

    〜後書き〜

カクヨムには、後書き欄が存在しないのですね……。

 なので、勝手に作成しました笑


 ここまでお読みくださり、ありがとうございます! 企画参加のお誘い、ありがとうございましたっ!



 ちなみに、私はB♭菅楽器を最初にやっていたせいでB♭=ド になっております。

 吹奏楽はもちろん、ギターコードやオーケストラでもドレミ表記しないんですよね。B♭ C D…… と言った感じですかね!

 (知らない! という方は私の説明が不足すぎて、理解できないかと思われます。すみません!)


 ピアノは、そもそもC菅扱いなのでCがドなんですけどね笑

 完全に書き終えてから思いましたが、B♭管で書かれてますね笑


 まぁ、音が違うんだぁと思ってもらえたらそれでいいかなぁ?


            白崎 なな

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

シャボン玉 白崎なな @shirasaki_nana

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画