第3話「紫紺の告白、花園に咲く永遠の愛」

 ドアが開くと、そこには息を切らせた月姫の姿があった。彼女の長い黒髪は少し乱れ、普段の完璧な佇まいとは違う、人間味のある表情を浮かべていた。月姫は紫紺のワンピースを纏い、その姿は宝塚の舞台で輝くトップスターのように眩しかった。


「花凛、私のペンダントを知ら……」


 月姫の言葉は、花凛の姿を認めた瞬間に途切れた。そして、蒼と黒羽の存在にも気づき、月姫の瞳に驚きの色が浮かぶ。


「あら、暁月さん、燐さん。どうしてここに?」


 月姫の姿が、まるで舞台の幕が上がるように現れた。彼女の紫紺のワンピースは、優雅に揺れ、その姿は宝塚の舞台で輝くトップスターを彷彿とさせた。長い黒髪は、わずかに乱れ、普段の完璧な佇まいとは違う、人間味のある表情を浮かべていた。


 部屋の中の空気が、一瞬で凍りついた。


 花凛の心臓は、激しく脈打っていた。彼女の内面では、恐怖と罪悪感、そして長年秘めてきた想いが激しくぶつかり合っていた。言葉を発すれば、全てが終わってしまう。でも、言葉を発さなければ、何も始まらない。


 その葛藤の中で、花凛の瞳に決意の色が宿った。


 彼女はゆっくりと立ち上がり、震える足で月姫の前に歩み寄った。そして、まるで宝塚の舞台で最後の告白をするヒロインのように、優雅に、しかし震える声で言葉を紡ぎ始めた。


「月姫様!」


 花凛の声が、静寂を破った。


「私が……私があなたのペンダントを……」


 言葉が詰まる。花凛は深く息を吸い、勇気を振り絞った。


「本当に申し訳ありません!」


 最後の言葉と共に、花凛は優雅に、しかし激しく月姫の前に跪いた。その姿は、まるで罪を告白する貴婦人のようだった。


 部屋中が、再び静まり返った。


 蒼と黒羽は、息を呑んで二人を見つめていた。月姫の表情が、まるでスローモーションのように、驚きから困惑へ、そして何か別の、名状しがたい感情へと変化していく。


 その沈黙は、永遠とも思えるほど続いた。


 やがて、月姫の唇が小さく開いた。


「花凛……」


 その声は、春の訪れを告げる風のように、柔らかく、暖かかった。


「どうして?」


 その問いかけには、非難の色は全くなかった。むしろ、理解しようとする優しさが滲んでいた。


 花凛は、ゆっくりと顔を上げた。涙で潤んだ瞳で、月姫を見つめる。その瞳には、後悔と恐れ、そして何よりも、深い愛情が宿っていた。


 二人の視線が交わった瞬間、部屋の空気が変わった。まるで、長年閉ざされていた扉が、ゆっくりと開いていくかのようだった。


 そして、花凛の唇が、再び動き始めた……


「私、月姫様のことが好きで……でも、私なんかじゃ釣り合わないって思って……せめて月姫様のものだけでも側に置きたくて……」


 花凛の告白に、月姫の表情が柔らかくなった。彼女はゆっくりと花凛に近づき、その頬に優しく手を添えた。


月姫の瞳に、深い慈しみの色が浮かんだ。その眼差しは、まるで月光のように柔らかく、花凛の心を優しく包み込んだ。月姫は、ゆっくりと花凛に近づき、その頬に触れようとする手を宙に浮かせた。


 その指先が、花凛の頬に触れる寸前??。


「花凛……私もよ」


 月姫の声は、春の訪れを告げる風鈴の音のように、清らかに響いた。


「え……?」


 花凛の驚きの声が、小鳥のさえずりのように可愛らしく部屋に響く。その瞳には、信じられない気持ちと、小さな希望の光が宿っていた。


 月姫は、花凛の驚きに満ちた表情を見て、優しく微笑んだ。その微笑みは、まるで満開の桜の花びらが舞い散るように、美しく儚かった。


「私も、あなたのことが好きだったの」


 月姫の言葉は、長い間封印されていた真実の扉を開くかのようだった。彼女の声には、これまで隠してきた想いの全てが込められていた。


「でも、私も自信がなくて……言い出せなかった」


 月姫の告白に、部屋の空気が一変した。それは、まるで長い冬の後に春が訪れたかのような、生命力に満ちた温かさだった。


 花凛の瞳から、大粒の涙がこぼれ落ちた。それは、悲しみの涙ではなく、長年秘めてきた想いが解き放たれた喜びの涙だった。


 蒼と黒羽は、この劇的な展開に息を呑んだ。

 二人は無意識のうちに手を取り合い、その指が絡み合う。


 月姫は、優雅な仕草で花凛の涙をそっと拭った。その指の動きは、まるでピアニストが繊細な曲を奏でるかのようだった。


「ずっと……ずっとあなたのことを見ていたのよ」


 月姫の声は、感情に震えていた。


「あなたの優しさ、あなたの笑顔、全てが私の心を捉えて離さなかった」


 花凛は、月姫の言葉を一つ一つ、宝物のように心に刻んでいった。


「でも、私は"紫紺の乙女"として、みんなの憧れの的でいなければならなかった。そんな私が、一人の少女を特別に想うなんて……許されないと思っていたの」


 月姫の告白に、花凛は小さく首を振った。


「月姫様……いいえ、月姫」


 花凛の声は、今までにない力強さを帯びていた。


「あなたは、誰かの理想像である必要なんてない。ありのままのあなたで、十分に素晴らしいわ」


 その言葉に、月姫の瞳に涙が浮かんだ。


 二人の視線が絡み合う。そこには、もう迷いや恐れはなかった。あるのは、純粋な愛情と、これからの人生を共に歩んでいく決意だけだった。


 月姫と花凛は、少しずつ顔を近づけていく。その動きは、まるで宝塚の舞台で繰り広げられる、最も美しいラストシーンのようだった。


 そして、二人の唇が柔らかく重なった瞬間――。


 部屋中が、桜色の光に包まれたかのようだった。


 月姫の告白に、部屋中が温かな空気に包まれた。蒼と黒羽は、この展開に驚きながらも、二人の幸せを心から祝福する眼差しを向けていた。


 月姫は花凛の手を取り、そっと立ち上がらせた。

 二人の視線が再び絡み合い、まるで世界中の時間が止まったかのようだった。


「これからは、正直に気持ちを伝え合いましょう」


 月姫の言葉に、花凛は頷いた。そして、二人はゆっくりと顔を近づけ、柔らかな唇を重ねた。その瞬間、部屋中が桜色に染まったかのようだった。


 蒼と黒羽は、この感動的な光景を目の当たりにし、思わず手を取り合っていた。


「私たちも、お互いの気持ちをもっと素直に伝え合うべきだったわね」


 蒼の囁きに、黒羽は頬を赤らめながら頷いた。


「ええ、その通りよ、蒼」


 黒羽は蒼の手を優しく握り返した。その瞬間、二人の間にも新たな感情の芽生えを感じた。


 月姫と花凛のキスが終わると、四人の少女たちは互いを見つめ合い、笑顔を交わした。彼女たちの間に流れる空気は、以前とは明らかに違っていた。それは、新たな絆の始まりを告げているようだった。


(了)

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【学園百合小説】紫紺の乙女と花園の秘密 藍埜佑(あいのたすく) @shirosagi_kurousagi

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