解答篇

 ― 9 ―

 それから50年後、コンスルの隠し財産が発見されたというニュースが

某国を駆け巡った。




 そのきっかけは、生活に困ったコンスルの子孫が、獄中から届いた聖書の断片を

オークションに出したことにあった。


 その頃には、コンスルは歴史的な人物として有名となっていたので、その遺品にもそれなりの額がつくだろうと踏んでのことであった。


 さて、オークション業者がバラバラになった聖書を一冊に復元した際、その

小口部分(※)に文字が書かれていることを発見した。

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 ※……綴じられた側(=背)と反対の、開く側にあたる面

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 それは、地名といくつかの数字を記載したものであった。


 司法当局は、その話を聞きつけるとすぐに聖書を接収した。


 そして解読の結果、かつてコンスルの地所であった○○○○山中から、金銀宝石の詰まった袋がいくつも回収されたのである。




 ― 10 ―

 コンスルは、家族に聖書の断片を送るようになってからしばらくして、手元の聖書の小口部分に隠し財産のありかを書きつけた。


 この時点において、神父や看守は「コンスルは聖書をまじめに暗記している」と

いうことを認識していたので、「聖書をわざわざ断片にして送る」というある意味

では「不自然な行為」に改めて疑問を持つことはなかった。


 加えて、毎日送られる聖書の断片は、せいぜい2、3ページ、厚さにすればわずか0.2~0.3mm程度であるから、看守たちがいかに紙の表裏に目をこらしても、気が

付くことはできなかったのだ。




 そんなコンスルの鬼謀であったが、肝心の彼の家族が、彼ほど熱心に聖書を学ぶ

ことがなかったということは、実に皮肉なことであった。




 ちなみに、見つかった隠し財産は、某国の法律に基づき現在の○○○○山の土地

所有者のものとなった。


 しかし彼は、ギャングの報復といったような後難を恐れ、そのすべてを教会に寄付してしまった。


 結局、隠し財産は神様が預かりっぱなしになってしまったのだ。




 ― 11 ―

 隠し財産の騒動が収まった後、聖書はコンスルの子孫の元に返還された。


 彼らがこの聖書を改めてオークションに出品したところ、先の事件において重要な役割を果たしたアイテムであったことから、価格は高騰、とある好事家が相当な額で落札したということだ。


 隠し財産の額には遠く及ばないものの、子孫の窮状はいくらか緩和されたに違いない。




 聖書は、それから持ち主を何度か変えたのち、最終的にはコンスルの故郷の自治体に購入された。


 現在は、地元の博物館に展示されている。


 私は、この聖書の実物を目にして、コンスルが最期に天国に行くことができたのか、あるいは地獄に落ちたのか、つまり、彼の信仰が本物であったのか、あるいは見せかけであったのか、その点が非常に気になったのだが、その答えを知ることは永遠にかなわないだろう。


 それこそ「神のみぞ知る」の域であるのだから。

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神ノミゾ知ル 吉田 晶 @yoshida-akira

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