スーパー・ノイジー・マジョリティ!
外清内ダク
スーパー・ノイジー・マジョリティ!
いま銀河でもっともアツいミュージシャン、それは言うまでもなく『
彼らのライブを聞いた者は口を揃えてこう叫ぶ。「魂が震えました!」だが実際震えているのは魂ではない。彼らの演奏は、ほとんどヤケクソみたいなイカれた音量がために、半径20km以内に震度5強の局所地震を発生させる。震えるものは地球の地盤、および観客の骨と脂身であり、ぜんぜん魂なんかではない。それが証拠に、彼らがライブをするたびに、少なくとも100名以上の
一般的なコンサートが音圧110デシベル前後であるところ、
ところがデビューから数年後。順風満帆に見えた彼らの前に、恐ろしくブ厚い壁が立ち塞がった。
『流行』という名の壁である。
超絶大音量ライブの全銀河的流行が、星の数よりも多い
いつの頃からか『発狂大音量系バンド』と総称されるようになった彼らは、またたくまに不毛な過当競争の泥沼に飲み込まれていった。音量も増加の一途をたどった。150デシベル、155デシベル、158デシベル……コンマ1デシベル刻みの音量競走を繰り広げたあげく、ついに世間の相場は200デシベルの大台を突破した。ライブ会場周辺国家をのきなみ壊滅させるほどの音エネルギーが、銀河各地の惑星でわりかしカジュアルな感じに撒き散らされた。
*
「もうだめだ!!!!」
「なんとか巻き返さなきゃ!!!!」
ドラムのメッチャ・タタクマンが、休みなくドラムを叩いてシャワーのように汗を飛び散らせながら咆哮する。しかしリード
「どうやって!?!? 我々にはキャッチーな見た目もないし、演奏だってそんなに上手いわけじゃない!!!! 運よくコンセプトがウケただけなんだ!!!! これ以上なにができる!!!!????」
どいつもこいつも異常な声量で会話しているのは、超絶大音量ライブの後遺症で皆とっくに耳がやられているからである。
完全に道を見失い、数年ぶりで静まり返った
と、そのとき。ベース電源のカクブン
「原点に帰るんだ!!!!
誰よりもデカい音を出すんだよ!!!!」
*
かくして、再起をかけた究極のライブに向けて一同は走り出した。皆が模倣するのなら、マネできないほどブッちぎればいい。200デシベル? ハ! そんなチンケなものじゃない。金輪際だれにも越えられない、銀河最大最強の極大音量演奏をやるのだ。作曲。練習。プロモーション。猛烈なあわただしさの中で時はアッというまに過ぎ去って、ライブ当日がやってきた。
会場を埋め尽くす観客の前で、ボー・カルオは、意外なまでに静かにこうささやいた。
「それでは聞いてください。
新曲です――『10兆デシベル』!!!!」
その瞬間、
宇宙が崩壊した!!!!!!
吹き荒れる音! いや音ですらない! 10兆デシベル、それはもうやかましいどころの騒ぎではない、ビッグバンのエネルギーをすら何億ケタも凌駕する超絶音量。メンバーは一瞬で蒸発霧散。観客は片っ端から素粒子に分解。ライブ会場から放出された常識外れの極大エネルギーが一瞬にして宇宙の果てまで到達し、宇宙全ての構成原子と真空と時空とをひとかけらも残さず吹っ飛ばす!
こうして宇宙は静かになった。あれほどうるさく鳴り響いていた多種多様なメロディーさえ、今ではもう、ぜんぜん聞こえない。
THE END.
スーパー・ノイジー・マジョリティ! 外清内ダク @darkcrowshin
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