第19話

 二人の話を纏めると、どうやら二人は私を有名にしたかったらしい。その方法とは、魔物暴走スタンピートを起こし、私に討伐させることでSランク入りを狙うというものだ。


 たしかに有名になったら、いろいろと信用してもらえるだろうから動きやすくなると思うけどさぁ。私はてっきりルナがその役目を担うもんだと思っていたよ。だってもうSランクだし。


 ちなみにもう一つ分かったことがある。奈落の瞳についてだ。どうやらあの組織はエルミナが立ち上げた闇組織だったらしい。


 規模と浸透具合を考えても昨日今日できたような組織じゃない。エルミナはいつからこの組織を計画していたんだろう。


 ともかく二人の話を聞いて分かったのは、私のためを思ってやったと言うことだ。その方向がズレにズレた結果、魔物暴走スタンピートということになったんだけど。


 まだ被害の全容ぜんようは調べ切れていないが、おそらく死者もいるだろう。その死者の中にギフトの所持者がいたら――いや考えるのはやめよう。


 二人の会話が終わったところで私は重く頷いた。


「そうか。わかった」


 まったく、いつからこんな陰謀いんぼうみたいな壮大な計画になっていたんだ。私は純粋にギフトをさがせればいいだけだというのに。


 内心で深いため息をついた。ここからは私の番だ。二人にまったくの計画外じゃなかったんだぞ、と悟られないよう言葉を選ぶ。


「おおむね、私の思った通りに動いてくれていたようだな。素晴らしいぞ」

「セラフィナ様……! ありがとうございます!」

「セラフィナ様からそんなお言葉を頂けるなんて……ほんまにルナに乗ったかいがありましたわぁ」


 そんな目をキラキラさせながら祈るように手を組むようなことはないと思うんだけどな。それにここからは、くぎを刺さないといけない。


 小さい身体のせいかあまり低くならない声を必死で低く、威厳のあるように響かせながら続ける。


「だが……やり方が私の好みではない。魔物暴走スタンピートはやりすぎだ」


 ルナが口を押えてそんなはずは、と呟いている。その横ではエルミナが呪い殺すんじゃなかろうかと言うような形相でルナを睨んでいた。


「で、ではセラフィナ様は何を求めているのでしょうか……!?」

「そ、そうや。教えてくれはりませんか?」

「答え? そんなものは簡単だ。平和だ」

「平和……?」

「そうだ。平和裏に世界中の持つ人々のギフト。それを探し、求める。そして、私が求めるギフト女から男になるギフトを見つけ、私は」

「セラフィナ様はすべての頂点に立ちはるお方。つまり、貴重なギフト――それを探し求めて、セラフィナ様のお役に立てる、ちゅうことでよろしおすか?」


 エルミナが身を乗り出しながら私の言葉にかぶせてくる。かぶせないで良いんだけど。


 私のこと尊敬してるんだよね?

 最後まで言わせてくれない?


「その通りだ。だが、エルミナよ」

「つまり、セラフィナ様は貴重なギフトを探していて、その人を利用しようとしている、ということですね」


 ……ルナ?

 なに、もしかして二人して私をハメようとしてる?


「そうだ。ルナの言うとおり。だから――」

「わかりました。不肖エルミナ、これからも裏から全力でお仕えしていりますえ」

「ルナも同じく……!」


 ……まあギフトを探すというのは間違えていないか。私は深くため息をついて、


「わかった、これからも頼んだぞ。それで二人とも。街で起こしてしまった魔物暴走スタンピートについてはどう収集をつけるつもりだ?」

「それならうちにお任せておくれやす」


 エルミナはそう言うと、不敵に笑うのだった。



☆☆☆



 ドゴォォォオン!!


 周囲に割れるほどの大きな音が響き渡った。街の門にエルミナが激突した音。あのあと少し話を聞き、彼女の案に乗ることとなった。


 シナリオは始祖ヴァンパイアであるエルミナを退けることで、私を有名にしあわよくばSランクにしてしまおうという考えだ。さすが転んでもただでは起き上がらない。


「ずいぶんと、やりはるなぁ……!」

「……お前もなかなかやるようだな。名はなんと言う」

「ネフェリア、と」


 偽名だ。もしも始祖ヴァンパイアの名前がエルミナで通ってしまったら、裏の顔と言えど今後の活動に支障をきたしかねない。予防線はキッチリ張ってある。


「ネフィリア……か。少しは楽しめそうだ……行くぞ!」

「それはうちのセリフやわ」


 エルミナは再び激しくぶつかり合う。私は手加減をしつつもエルミナへ魔法の矢を放ち、エルミナはその矢をそれを血の槍で叩き落としていく。


 そんな攻防が何度か続いたところで、いきなりヴァンパイアが3人現れた。皆ホムンクルスだ。たしかリーリャ・サーリャ・マーリャだ。リーリャが代表してエルミナへ告げる。


「ネフィリア様。例の物、回収終わりました」

「わかった、ようやったな。ありがとうさん」


 ……ん、こんな筋書きあったか?


 疑問に思っているとエルミナが続ける。


「うちは目的を果たしました。今日はこれで引かせてもらいますわ。あんたの名前も聞かせてもろても?」


 これは筋書き通りだ。なんだ、元の軌道に戻すのか?

 そんなことを考えながら私は二人に言われたように自分の名前を告げる。


「私はセラフィナ。セラフィナ・ルミエールだ」

「覚えとくえ、セラフィナ・ルミエール。次はあらへんわ」

「……それはこちらのセリフだ」


 そう言うと、エルミナはアレクシス、ギルド長ガルドを連れて去っていった。


 なんだか筋書きと違うところがあったな。私を有名にする以外に目的があったかなぁ。てっきり私の為だけにやっているのかと思ったが、そうでもないのか。


 思考の海にとらわれていると、いきなり肩を叩かれた。かと思えば次々と冒険者たちから感謝の言葉が飛び出してきた


「始祖ヴァンパイアを追い返したぞ!!!」

「やった……! やったぞ! 生き延びたんだ!」

「セラフィナさん……! ありがとう!!」


 百パーセントのマッチポンプなんだけどね。そう思うとかなり後ろめたさを感じる。


 それにあれ、いつの間にか私が囲まれている。どうしたんだ。しかも私を中心にしてずいぶんと注目しているじゃないか。でもそんなことをする前に、私は街を助ける準備をした方が良いだろう。


「それよりも皆の者。まだ街は火がくすぶっていたりもする。魔物の残党もいるやもしれん。一刻も早く街を救ってやるのだ」

「そ、そうだ……!」

「おい、お前たち! セラフィナさんの言うとおりだ……! 行くぞ!」

「「「おう!!」」」


 冒険者たちは私の言葉に団結し、避難した町の人たちのところへと向かって散り散りに去っていく。


「セラフィナさん……本当に凄かったですね」


 と、遠目で見ていた、セシルが私の元へとやって声をかける。


「なに、それほどでもないさ」

「でもあの方――エルミナさんですよね……? セラフィナさんが外に出るときに、計画の一部を任せて欲しい、って言ってた」


 よくわかったね。あの一瞬で顔を覚えるなんてなかなかできる芸当じゃない。私なんかエルミナが外に出ていることを忘れてたくらいだし。


「で、魔物暴走スタンピートのどこまでが計画だったんですか?」

「……これはその、私とエルミナがやりすぎたのよ……」


 いつもよりしおらしいルナが珍しい。そのルナを見下ろすようにセシルがルナの上に上にかぶさる。


「やりすぎたってレベルじゃないと思いますけどね」

「わ、分かってるわよ。次はこんなことをしないわよ」

「本当ですか?」


 なんで私を見るんだ。私はいつでも平和主義なんだけどなぁ。そもそもギフトを探したいのだから生きてる人が多い方が嬉しいしね。


「なぜ私を見るのだ」

「いえ、もしかしたらセラフィナさんが一枚噛んでいたのかなぁと」


 噛む余地はないだろうに。そもそも目的を知っているのになんで疑ってくるんだ。セシルに耳打ちをする。


「私の目的は知ってるだろう。私にはメリットがない。もし知っていたら止めていた。念を押したのだ、もう大丈夫だと思う」

「……まあ、確かにセラフィナさんにメリットないですよね。わかりました。そういうことにしておきます」


 なんでセシルにとがめられてるんだ。そんなもやもやした気持ちになりつつも魔物暴走スタンピートは終息したのだった。

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