第五話
『彼』は友より『自分達』を優先した
そうする他なかったし、それ以上のことができなかった。
罪悪感に苛まれるのは当たり前だった。
『彼』は自らの家が祀る月の神に希った。
自分が犯した友を墜しいれた「罰」を、そして決して消すことができない「罪」を体に刻んでほしいと―――
◇
夢を見た。
ありえない夢。
たくさんの魔物達と森で川で遊びまわる夢。
隠れ鬼をしたりかけっこをしたり時には悪戯をしたりする戯れる夢。
なんでだろう経験したことはないのにとても懐かしく感じる…とても温かくそして暖かくなっていく
いつまでもこうしていたい。
でも沸騰したかのような急激な熱さといっしょにノイズが走り場面が切り替わる。
視界いっぱいに映るのは惨状。
煌煌と燃える集落、崩れた家の下敷きとなった人、何かに下半身を喰われた人、引き裂かれた人。
見渡す限り殺戮の後
手には血濡れた刀、足元には先ほど見た一緒に遊んだ魔物とも、周りにもいっぱい横たわった友達だったもの。
突然「キャー!」という叫び声が前方から聞こえる。
視界の先で人がイノシシのような魔物に襲われてる、いや喰われてる。
彼・にも見覚えがある。
瞬き一つの間に彼に切りかかりとどめの一突きを頭に突き立てる。
でも彼の頭は固く刀が折れてしまった。
息の根を止めるためにこの体は焦る気持ちとともにこぶしに霊力を込めて殴る。
手に感触が伝わってくる。
殺意はない、憎しみもない。
ただ、目をそむけたくなるほどの罪悪感と自分への嫌悪が募ってゆく。
どんどん負の感情が流れ込んでくる。
だめだ、これ以上は心が壊れる、本能がそう訴えてくる。
もういやだ!もう見たくない!
そんなことは叫べない。
目は閉じれないし、体は勝手に動く。
ぐしゃりと最後に何かをつぶした感覚の後やっと目が覚めた。
「——―!はっ、はっ、はっ、はっ――――ぐ」
たまらず飛び起きた。
呼吸がちゃんとできない。
同時に胃から逆流してくるのを感じる。
吐き出すのを堪えたため口の中が嫌な味で満ちる。
熱を出していたのだろうか汗が滴るのを感じる。
「フーーーーーーー」
長く息を吐いて喘ぐ息を整える。
「やけに臨場感のある夢だったな....」
まだ手に感じた殴り殺す感触を覚えている。
早く忘れようこ、れ以上は思い出したくない。
思考を変えて自分の体を見る。
先ほどから昨日まであった体のあちこちからくる痛みがないのだ
「あれ?腕の傷跡がなくなってる?」
それだけじゃない、包帯の下の痛みも感じない
極めつけに足にはあるはずもない感覚がある。
恐る恐る掛け布団をのけて自分の右足を見る。
「なんで?指が生えてる…」
傷の治りが速いのは久月家の体質で説明がつくけどあまりにも再生が急だ。
ましてや欠損の再生なんてもはや人間じゃないだろ....
異常な再生への困惑が収まらないでいると唐突に「失礼します若様、おはようございます」という挨拶とともに雫が朝の着替えとともに部屋に入ってくる。
ちょうどいい、父の側にもついていた雫なら何か知ってるかも聞いてみるか――――
「おはよう雫、あのさ、足の指が生えてきたんだけどこれも久月家の体質のせいなのか?」
「——―――」
雫からの応答はない、ただなにかぶつぶつ言いながらで僕の体のあちこちを探り始めた。
「うわ!いきなりどうした!?」
「死に至るような傷跡がない...それすらも治った?でも周りに出血の跡がないし......」
「雫、どうなんだ?何か答えてよ」
僕の呼びかけに雫は「ハッ!」と反応した
「申し訳ありません、私では詳しくはわかりかねますが....おそらく体質によるものかと思われます
見たところ体の傷は全部治っているようですね、今日にでもリハビリなしで通・常・の鍛錬に復帰可能なことを当主様にお伝えしてきますので若様はお部屋でお待ちを」
そう言って雫は足早に部屋から出て行ってしまった。
「いちゃった....まぁいっか。とりあえず着替えよ」
考えてもどうにもならないことは後回しにするほかない。
それよりも朱だ今頃孤児護送の後をつけてるはずなんだが....
朱には昨日出入り口となる山道を教え確認させてある。
朱は隙を見て暗示をかけると言って今日の早朝には出ていったはずなんだがうまくいったかな?
◇
「雫おそいな。もう昼をまわっちゃうぞ」
雫が部屋から出いってからずっと待っているがなかなか帰ってこない。
指示があるまで何もすることないし、朱のことが気になるしで、もどかしい時間を過ごしていた。
すると部屋へ誰かが近ずく足音が聞こえてきた。おそらく雫のものだろう。
予想どおり断わりの挨拶とともに雫が入ってくる。
「若様お待たせしました。当主様よりご指示をいただいてまいりました」
「ずいぶん遅かったね、父さんはなんて?」
「今日より通常の鍛錬に戻り退魔の技術向上に励めとのことです。
また今一度同じような魔物への態度を見せたらあの部屋へ三日間放り込むとのことです」
朔耶の脳内にトラウマになったあの魔物たちの醜さが恐怖が痛みがフラッシュバックする....
あの部屋へ三日!?今度こそ死んじゃうじゃないか!
「それともう一つ、もうすぐ到着する孤児達との顔合わせに付き添えとのことです時が来たらまたお呼びに参りますので私は失礼します」
雫はトラウマを思い出し硬直する僕に淡々と指示を僕に伝え再び部屋を後にした。
少し時間を置き落ち着いた僕は指示を反芻する。
鍛錬のことはもう覚悟を決めるしかない..でも僕に魔物を傷つける、殺すことができるのだろうか...もう逃げたい。
朱はうまくいったのだろうか、速く確認したい。
朔耶は雫が来るまでの時間を鍛錬のことと朱への心配を頭で抱えながら悶々と過ごすのであった――
解脱の退魔師(旧 退魔恋譚) ダラダラ鳥 @o-ga-
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