第2話(2/2) 「一思いにいきましょうか」とはなんの事ですか?
朱雀様の声だ。
目の前にいると思うと緊張で体がぴりぴりする。
今さらだけど私がしようとしてることって……犯罪!?
ていうか朱雀様は私のことなんて覚えてないよね、大丈夫だよね。
会ったのは小さい頃だし……。
「朱雀様の前だ、布を外せ」
「あっ!?」
お役人は私の顔を隠している布を勝手に外した。
彼はとたんに「あ、やばい。こいつ全然美人じゃない」みたいな顔をした。
そして長く細く息を吸った後、目を閉じて何度か頷く。
「では、失礼いたしまぁすッ!!」
開き直ったーー!!
何とも言えない感情でお役人の後に続いて部屋に入る。
礼儀作法が分からない私は、とりあえずお役人と同じように手を前で合わせ腰を屈めて頭を下げてみた。
これはいつまですればいいの!?
もう顔を上げていいの!? ダメなの!?
いや、ここはじっとしていよう!
だいぶ沈黙が流れた後、隣にいたお役人が私をつついた。
「おいっ、早く名を名乗れ」
「あっ! え、えっと私は、ほ、宝珠と申します。雪……、宝珠です!」
「そうですか。では下がっていいですよ」
え? もう終わり?
よ、良かった!
ホッとしたような、拍子抜けしたような……。
お役人が礼をした姿のまま下がったので私も同じようにして後ろへ数歩。
扉を閉めるという時、朱雀様はお役人へ声をかけた。
「あの……麒麟の命令など無視して良いですよ。どんな美人を探してこようが興味はありませんから」
「で、ですが……。このままではいずれ死んでしまいます」
「その時はちゃんと新しい朱雀が生まれます。安心してください」
え!? 朱雀様、もしかして死のうとしてるの!?
びっくりして顔を上げてしまった。
美しい青年が丸く大きな出窓にこしかけて外を見ている。
赤い髪は日差しを浴びて輝いていた。
昨日見た時と印象は変わらない。
今にも消えてしまいそうな儚げな雰囲気がある。
朱雀様は私の視線に気づくと形のいい目を見開いた。
あっ!
ま、まずい!!
そこでようやく自分が無礼を働いたのだと気づいて、勢いよく頭を下げ直した。
「朱雀様のお気持ちは分かりました。では今日のところはまた……」
お役人が私の前を通って扉を閉める。
「待て!!」
その間際、朱雀様は叫んだ。
その語気に私とお役人はビクッと肩を鳴らす。
「そ、その娘を置いていってください!」
「は、ははっ!!……え?」
「二人で話がしたいです」
「か、かしこまりました!!」
う、ううううそ!?
さっきの、不敬罪で裁かれるとか!?
お役人に押されて部屋の中に戻った後、すぐに扉は閉まる。
二人きりだ。
どうしよう。
「顔を上げてくれますか」
「は……い……」
恐る恐る朱雀様を見る。
朱雀様はいつの間にか重厚感のある剣を握って部屋の真ん中に立っていた。
あ……。
頭に走馬灯が流れ始めた。
「名はなんと? すみません、さっきよく聞いていませんでした」
「ほ、宝珠です」
「宝珠……。そうですか、良い名前ですね」
朱雀様は微笑む。
絵に残したくなるような美しさだけれど一歩一歩近づいてくるのが怖すぎる。
「では……一思いにいきましょうか」
朱雀様は私の目の前に来ると笑いながら剣を持ち上げた。
今日も君を食べるだけ。 nika @nika-25
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。今日も君を食べるだけ。の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます