第10話 カンバース攻撃②

10月4日 ワイファ島東部 カンバース港


「くそ、奇襲か!」


 地上に設置された皇国海軍戦線司令部にて、海軍第1竜騎兵艦隊司令官のマルケス提督は悪態を吐きながら空を見上げる。すでに各所からは黒煙が立ち上り、殆どの大型艦が見るも無残な状態になっていた。


「すでに我が方の空母は全て大破!艦載機の展開不能!空軍も敵機の空襲で一方的にやられております!」


「おのれ、敵は何者だ!直ちに動ける艦艇で反撃を―」


「て、提督!何かが高速で飛んできます!アレは―」


 部下とやり取りをしていた最中、大量の飛翔体が甲高い音を響かせながら到来。そして戦線司令部を含む複数個所に着弾する。それは第1艦隊及び打撃艦隊より放たれた07式巡航誘導弾による攻撃で、第一次攻撃隊と共に展開したE-2D〈ホークアイ〉早期警戒機のリアルタイム観測とミズホ軍が現地レジスタンスより手に入れた各種情報を基に照準。未だに人工衛星が無い状況での精密な攻撃を達成していた。


「ミサイル第一波、着弾。港湾部に甚大な被害が出ている模様」


「よし…湾外より逃げ出そうとしている奴はいないな?」


 艦隊旗艦「かつらぎ」の戦闘指揮所にて、高杉司令は尋ねる。「すおう」が先んじて雷撃で敵艦を沈める事で閉塞を成しているとはいえ、魔法などの『非常識的な手段』でこれを解決している可能性があるからだ。


「〈ホークアイ〉からの情報では、その様子は見受けられないとの事です。このままもう一押ししますか?」


「ああ。「しなの」に指示を出せ。久方ぶりの艦砲射撃だ、『婆さん』に栄誉をあげてやれ」


・・・


 旗艦からの指示に、「しなの」の戦闘指揮所CICは沸き立った。


「主砲、撃ち方用意!UAV、射出急げ!」


 能登は直ぐに命令を発し、艦尾のヘリコプター甲板より小型のヘリコプターが飛び立つ。CICから遠隔操縦されるそれが向かう先は、30キロメートル先のカンバース港上空。


「目標、港湾内敵設備、及び敵巡洋艦!GPSは使えないからな、しっかり狙え!」


「了解!データリンク開始、目標諸元を入力します」


 CIC管制官の手により、3基の主砲は旋回を開始。全長20メートルの長大な砲身は、まるで恐竜が首をもたげる様に仰角を上げる。砲塔内では電力を用いて重量1.5トンの榴弾と、それを30キロ先まで飛ばすための炸薬が薬室内へ自動的に押し込まれ、30秒で装填が完了する。


「主砲、装填完了!」


「総員、艦内へ退避!」


 ジリリリリとベルが鳴らされ、乗組員一行は訓練通りに衝撃に備える。そして能登は命令を発した。


「主砲、撃ちー方ー、始めー!」


 刹那、轟音が響き渡り、海面が爆轟と火炎に押しつぶされる。合計9発の砲弾は緩やかな放物線を描きながら飛翔していき、数十秒後、迎撃準備に取り掛かっていた陸上の基地施設に降り注いだ。


 堅牢そうな印象を与えていた建物は一瞬で吹き飛び、その場にいた兵員達は文字通り『蒸発』。陸上より指示を出していた存在が吹き飛んだ事に寄り、艦隊は一層混乱を極めた。砲弾はさらに降り注ぎ、不運な1隻が砲弾の直撃を食らい、爆発。一瞬で真っ二つにへし折られる。


「撃ち方やめ!威力確認!」


「「しなの」よりブラボー隊、威力の程はどうか?」


 新たな命令が下され、通信士は上空を舞う「かつらぎ」艦載機に問う。回答は直ぐに返ってきた。


『ブラボー1より「しなの」、敵基地は壊滅した。湾口の艦艇も大半が着底し、機能は完全に低下している』


「了解した。さて、後は地方隊の連中に機雷をばらまいてもらうだけだな」


 斯くして、『カンバース港攻撃』は日本側の完勝に終わった。パルディア皇国海軍は空母6隻を含む艦艇20隻を喪失し、マルケス提督以下艦隊司令部の幕僚が全滅。大東洋における制海権を大幅に喪失する事となる。


 同時に、原子力潜水艦部隊による大規模な通商破壊作戦が開始。占領地に物資を運び込んでいた輸送船団とその護衛艦は、北日本より受け継いだ戦力たる原潜部隊によって悉く海底へ叩き落とされ、彼の国の戦略を根底から覆したのだった。

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戦艦しなの 瀬名晴敏 @hm80

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