第9話 カンバース攻撃①
西暦2025(令和7)年10月4日早朝 ワイファ島カンバース港
その日も、カンバース港の湾外を見渡す事の出来る位置にある監視所は、平穏な時間が流れていた。
「ふぁ…今日も平和だ」
「そう油断するなよ。何せ海軍が二度も東の新参者にコケにされているからな。噂によればミズホはかなりの軍事大国を味方に回したみたいだからな…」
監視所のレーダー管制室にて、パルディア軍の兵士達はそう話し合う。ミズホ連合首長国に対して襲撃を目論んだ空母機動部隊が二つ、格下である筈の敵から手痛いしっぺ返しを食らい、300機近くの艦載機を失う失態を犯した事は周知の事実であり、大半の将兵はただ侮蔑の眼差しを向けるのみだった。
対してこのカンバースはどうか。陸上には栄えある皇国空軍第21竜騎兵連隊が配備されており、最新兵器である〈アルビオン〉主力戦闘機があれば、どんな敵だろうと一ひねりに出来ると信じていた。その上で空母の艦載機500機以上があるのだ。この物量を前にすれば、再度の侵攻は大成功に終わる事だろう。
と、その時だった。突如として対空監視レーダーのスコープに未知の反応が浮かび上がる。とその数は増していき、やがてついにノイズが画面を覆い隠していく。
「何だ…?」
監視兵の一人は首を傾げ、レーダーを睨む。が直後、外より大きな轟音が響き渡る。その音を聞いた者が管制室の外に出ると、湾口にて幾つもの黒煙が立ち上っているのが見えた。
「な…!?」
兵士達は驚愕する。とその真上を幾つもの轟音が駆け抜ける。見上げればその空には、見た事の無い様な巨大な飛行物体の群れがあった。
・・・
『ブラボー1より母艦へ、『トラ、トラ、トラ』!』
隊長機が無線で報告を上げる中、アーニャはコックピットから「すおう」のSS-N-21J〈サンプソン〉対艦ミサイルで撃破された敵艦船を見下ろす。12機の〈オルラン〉の主翼下には04式空対艦誘導弾が4発搭載されており、残るハードポイントには増槽1本と空対空ミサイルが2発ずつ。合計8発のミサイルを抱えながら300キロメートルの旅路を飛んできたのだ、相手も相当たまげているだろう。
『ブラボー各機、敵空母のみを狙え!』
「ブラボー4、了解。目標捕捉」
ヘルメットのヘッドマウントディスプレイには、機首のJ/APG-2B火器管制レーダーとJ/AAQ-2
「ブラボー4、フォックス3」
一度に4発の04式空対艦誘導弾が切り離され、巨大な艦影に向けて飛翔し始める。急上昇した敵機に対し、パルディア軍空母と巡洋艦は必死に対空砲火を撃ち上げるも、それ故に海面を這う様に迫ってきたミサイル群を見落としていた。
夜が明ける前の海面に、ポッと赤い光が瞬き、二つ、三つと数を増やしていく。そして主翼を翻しながら母艦への帰途に戻ろうとした時、自身を狙うものの存在に気付く。
「っ…!」
機体を翻し、攻撃を回避。2機の敵戦闘機が銃撃を放ちながら強襲を仕掛け、アーニャ機を追い掛け回そうとする。が、彼女は冷静沈着だった。敵はF-80〈シューティングスター〉に似たジェット戦闘機であり、亜音速ながら機動力は高く、しかも機銃のみであるためチャフやフレアは効かない。よってマッハ2の超音速と〈フランカー〉の十八番である高機動で回避するのみ。そして彼女はそれを成すだけの実力があった。
「もらった」
一瞬で背後を取り、2機同時に捕捉。〈サイドワインダー〉や89式空対空誘導弾の後継として開発された03式空対空ミサイルを発射し、2発とも命中した。
敵を排除し、アーニャは静かに眼下へ視線を移す。洋上では未だに十数隻の艦艇が対空砲火を撃ち上げ、友軍機はその間を縫う様に飛行場へ接近。レーザー誘導爆弾を投下して滑走路を破壊していく。そして遅れて、水平線の向こうより数十発ものミサイルの驟雨がカンバース港へ向かってきていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます