第8話 日の上がる前
西暦2025(令和7)年10月2日 ミズホ連合首長国 カグヤ島タケトリ市 タケトリ海軍基地
「敵支配下にある海域の強行偵察を買って出た「すおう」からの情報によれば、敵はワイファ王国のカンバース方面に艦隊戦力を集中して配備しており、近く大規模攻勢に打って出るものと推察される」
第1艦隊旗艦「かつらぎ」の艦隊作戦司令部にて、高杉二等海将は艦隊所属艦の艦長達を集めて会議を開いていた。テーブル上にはミズホが用意してくれた地図。
「そこで本艦隊は先んじてこれを強襲し、敵水上艦を全て撃破。敵の侵攻用戦力を壊滅させ、相手の目論見を完全にへし折る」
誘導兵器や優秀な艦載機といった優位な点はあるにせよ、数の面で劣勢にある事は間違いない。よって上手く戦って優位を得る必要があった。
「敵は相当な規模の艦隊を集結させており、空母6隻を主体とした50隻超の艦艇が停泊している。湾口に停泊している艦艇を優先的に撃破ないし撃沈して封鎖し、次いで空母を撃破。航空基地も破壊して制空権を奪取し、イニシアチブを取る」
「残った艦艇はどうする?」
「現地には大規模な造船施設は無く、魔法による残骸撤去や修理も難しいという。こちらも弾薬が無限に使える訳では無い、大物だけを確実に潰せ。最後に、残った艦や地上の軍事施設を艦砲射撃と巡航ミサイルで叩き潰す」
高杉はそう命じ、一同を見渡す。ミズホ側によれば此度の作戦で敵の主力艦隊を撃破した後に、皇国軍に占領された地域の解放作戦を実施するという。責任は重大だった。
「今回の作戦では、我が第1艦隊の総戦力が投入される。諸君、次も絶対に勝つぞ!そしてこの地域に平和を取り戻すのだ!」
『了解!』
・・・
その夜、「しなの」の食堂ではささやかな夕食会が開かれていた。
「今夜はミズホの伝統料理をメインにしているそうだ。と言っても、先祖が先祖だから、いつも食べているものと何ら差はないがな」
能登はその場に集う者達に向け、そう語る。焼き魚や鹿肉のソテーなど、ミズホでよく食べられている料理がバイキング形式で振舞われ、何人かはすでに手を付けていた。
「翌日にはこのタケトリを発ち、2日後にワイファ近海に展開。敵が軍港として利用しているカンバース港に対し、「かつらぎ」の艦載機が強襲を仕掛ける。なお「すおう」も攻撃に参加する。海中には味方潜水艦と海の魔物しかいないから、心置きなく水上艦へ猛攻を仕掛ける事が出来るだろう」
その言葉を聞き、失笑が響く。麻美子は「かつらぎ」にて同様の食事を摂っているだろうアーニャの顔を思い浮かべた。
「戦争はここからが本番だ。一方的な支配と搾取ばかりを求める連中に痛い一撃を食らわせようじゃないか」
この5時間後、第1艦隊は密かに出航。敵に発見される事の無いように一路西へ針路を取った。
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