第2話 ヴァンパイアハンター(後編)

 バン!と勢いよくドアを蹴破り、中に入ろうとすると、出会い頭にターゲットの連れていた男、マイクが襲いかかってきた。

 オレは軽く躱して男と女を交互にみる。


「ヴぅぅヴぅう!」


「あら、もうバレたの、意外と早かったわね」


 男の方は完全に理性が無くなっており、女の方、イヴ・ブラウンは、雰囲気が変わって、口元には鋭い八重歯が見え隠れし、血が着いている。


 眷属にされたか…


「ハル!ターゲットはクロだ!眷属もいる!」


 そう大声で言うと、ハルが直ぐに部屋に飛び込んできた。


 部屋に入ったと同時に、眷属化した男をハルは蹴り飛ばした。


「これやるよ」


 そう言いながらオレは持ってきたナイフをハルに投げる。


「ありがとさん」


 ハルは礼をいいながらナイフをキャッチし、吹き飛ばされた男の方を見る。


「眷属は任せたぞ」


「はいはーい」


 オレはイヴ・ブラウン、ヴァンパイアの方へ体を向け、走って距離を詰め、右手で殴る。


「そんなものが当たると思って?」


 そうヴァンパイアは小馬鹿にするように言い、ひらりと身を翻す。


「だろうな!」


 懐からピストルを取りだし、ヴァンパイアの頭に発砲する。


 予想外だったのか、少し反応がおくれ、弾丸が頬を掠めた。


「銀製の弾丸…少しは考えているのね」


 掠めたとはいえ、血が出ていたはずの頬はもうすっかりもとの艶のある肌に戻っていた。


 捕獲は無理そうだな。


「そうね…じゃあこうしましょう。私と遊んでくださる?」


 何を言い出すかと思えば自分と遊んでくれ…か。

 相当舐められているようだ。


「いいぜ、なんだ?」


 少しイラつき、挑発に乗ってしまった。


「ここは無難に鬼ごっことでも行きましょうか。」


「勿論、俺が鬼だよな?」


「ええ。その通り」


「5つ待ってやるよ。」


「5…4 …3…2…」


「1!」


 その瞬間に走り出し、逃げたヴァンパイアを追いかける。


 街の近くではあるが郊外で開けているのもあって、見失うことはない。


「あら、意外と速いのね。」


 そう言うとヴァンパイアはさらにスピードをあげる。


「っくっそ!」


 さすがに追いつけないと思い、近くに停められてあったバイクを借りることにした。

 持ち主への若干の罪悪感を振り払うようにして全速力で追いかける。


 ほとんど真横まで並んだところでピストルを取り出し、発砲する。


 今回はあっさり避けられ、街の方へと走っていった。


 見失わぬように追いかける。

 すると群衆の方へと入っていくのが見えたので、やむなくバイクを乗り捨てる。


 ヴァンパイアは群衆に紛れ、八重歯を鋭く光らせる。


「ぐぁぁぁぁあああ!」


 その悲鳴とともにヴァンパイアは裏路地に消えていった。


「おいおいおい、嘘だろ!?」


 眷属が増えた。

 しかしこれはありえないことだ、普通、ヴァンパイアは眷属は一体しか持てないのだ、こうなると奴はヴァンパイアの中でも上位に位置することになる。


「ヴうううう!」


 眷属にされた男は群衆の中で暴れている。


「キャア!」


「うわああ!」


 そんな悲鳴が聞こえてくる。


 群衆をかき分けて眷属にされた男の髪を掴み、ヴァンパイアが消えた裏路地へと引っ張っていく。


「グゥゥルルル」


 完全に理性がトんでおり、助けるのは無理そうだ。


「人間にしては馬鹿力ね」


 背後からそう声が聞こえ、振り向くと、コウモリの羽を生やしたヴァンパイアが居た。


 直ぐに男をぶん投げ、ヴァンパイアに当てようとするが、やはり当たらない。


「鬼に反撃してはダメなんてルールは…無かったわよね?」


 そう言うとヴァンパイアは両翼から2つづつ赤い玉を出す。


 嫌な予感がしたオレは眷属の男を盾にする。


 すると赤い玉から射出された細い線が眷属の身体を穿つ。


「…充分楽しめたわ、さようなら」


 その様子を見て軽く笑みを浮かべたヴァンパイアは飛ぼうとしていた。


 オレはそこ撃とうとするが、


「あと、その子まだ生きてるから気をつけた方がいいわよ。」


 そう眷属の男に指をさし、去っていった。


「がぁぁぁぁぁ!」


 男は先程よりも数倍も強い力でオレに襲いかかって来る。


「なっ!」


 やはり強化されている。

 おそらく先ほどの赤い玉、血が入り込んだことによって少しだが、ヴァンパイアの力が使えるようになったのだろう。


「おらっ」


 飛びかかってきた男の頭を掴み壁に叩きつける。


「グルゥゥ…!」


 壁に押さえつけたまま銃で両手両足を撃ち、行動不能にする。


「はあ…逃したか。」


 そう呟きながら、ハルに電話をかけた。

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