第2章 37話 星の夜の来訪者①
じっとしていたシーファウが、ふいに身じろぎした。
「シーファウ王子?」
「今、人の足音がしたんだよ」
アイリーナは身構える。
「離宮の辺りって、夜に人が来るんですか?」
「多くはないよ。たまに夜の聖獣の森を見に見物客は来るけど。……でも、用心のため帰ろうか、アイ」
シーファウの合図で、門番が門を開ける。詰所から出てきた近衛兵が駆け寄ってきた。
「シーファウ王子……」
どこからか、かすかに声がした。
風がささやくような、優しい声だった。
さわさわと草が揺れる野原の向こうに、人影が見えた。
シーファウと同じくらいの齢の少年と少女が立っていた。
二人とも細身で、薄い金の髪をしている。少女のほうが少し色が薄い。
優しそうな二人だった。穏やかでまっすぐな目をして。優等生のような印象だ。
少年のほうは野原に揺れる草、少女は春紫苑のようだった。
色素の薄いの髪が、草と一緒に風になびく。
「ユリウス、フィーナ……」
シーファウがそんな風につぶやくのが聞こえた。
「なんで、ここに?」
「シーファウが離宮を出たって噂を聞いて。もしかしたら会えるかなって」
「やっと幸せになったのね。うれしいわ」
「僕たちもね、もうだいじょうぶなんだよ。それに、あのときのことはシーファウのせいじゃないよ。だから、僕たちも三人も変わろう。あの幸せな時間に帰ろうよ」
帰る?
ユリウスと呼ばれた彼らは、真剣な目でシーファウを見つめている。
優しくと誠実で、シーファウを思っている瞳だった。
シーファウはなにも答えず、目をみはって立ち尽くしていた。やがて、悲しげに目を伏せる。
どこかで見た表情だった。
前にシーファウは、『自分は聖獣に愛されていない』といった。あのときと同じ目だった。
王宮の奥の宮 深窓の王子 近江結衣 @25888955
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