第2章 36話 夜の散歩②

「夜の光はいいね。淋しくてきれいだ」


 シーファウの目に夜の灯火が映る。夜の闇のせいか、シーファウはいつもより落ち着いて見えた。なんだか、別人みたいだ。


 淋しい……。


 アイリーナはじっとシーファウを見つめた。彼はいつもと変わらない笑みを浮かべている。


 そっちのほうが淋しい……。思ったアイリーナは思わずうつむく。


 ……明日で最後かもしれないのに、シーファウ王子ははいつもと変わらない。少しは寂しがってくれてもいいのに……。


 風が吹いて、庭園の花々が揺れる。聖獣の森の木々から葉ずれの音がした。森に動物たちの気配はない。

 静まり返っていた。


「夜はやっぱり、動物のみんなはいません。もう見られないなんて残念です」


「見られない?」


 シーファウはふしぎそうにする。


「だって、明日は屋敷に帰るから」


「あ、ああ。でも俺はアイは離宮から結局離れない気がするよ」


 なんで?


「俺がアイの運命をねじ曲げたから。空に投げた小石のように、落ちてもどってくるはずだよ」


 いい方が怖い。


 また風が吹く。夜空の星が揺れた気がした。


 アイリーナは、みかんやシーファウと並んで夜空を見上げる。


 ずっとそうしていた。

 時間の流れは、とてもゆっくりだった。

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