君が残した愛の形 後半

「確かここだったよな?」

「そう、だね。ここって書いてある」

「ここかぁ」


学校の裏庭にあるひまわり畑の一角。確かにここに埋めた。まるで宝の地図のように書かれたバッテン印の場所を、みんなで囲んで見守った。たいちは、昔と変わらない姿でスコップを進める。そういえば、昔もこういった力仕事を、いつもたいちが任されていた。10年経っても変わらない姿に、なんだか目頭が熱くなった。


土がどんどん重なり山のようになっていくなか、突然金属音が鳴りみんなの目線が一点に注がれた。たいちが優しく土をどかすと、いかにもタイムカプセルらしい金属の箱が現れた。


「誰か一緒に持ち上げてくれ」


かなり重いらしい。


「任せて」


腕を捲りながら立候補したのは、明美と仲の良かった旧友の友愛ゆうあだ。10年も経って、久しぶりの再会がクラスメイトのお葬式ともあって、みんな気が引けているのだろう。他のみんなはどこか距離を感じるのに、友愛はかなり意欲的だ。たいち曰く、このタイムカプセルの話は、友愛が始めたらしい。それは確かに意欲的になるかと納得しながら、2人の様子を見守る。


2人の手際の良さあってか、あっという間にタイムカプセルは顔を出した。まさか宝物というか。それでもランドセルくらいの大きさだろうか。なんだか歴史のオーラを感じる。


「さて、開けますか」


サビサビになったそれを、たいちがこじ開ける。ゔゔと唸り声をあげたかと思えば、カランと音を立てて蓋が開いた。


「おーーーーー」


野次馬の歓声が沸く。


中はビニールが何重にも巻かれてるいる。それをたいちが一枚一枚破き、ついに本性を表した。みんなの名前が書かれたジップロックが何袋も入っていた。


「すげぇ!!」

「懐かしいなあ」

「これ私のだ」

「俺のはこれだ」


みんなが次々に自分のを取って行き、最後に2つだけが余った。松野明美と書かれた袋と、僕の。みんなそれを見て、言葉を詰まらせた。何かを思い出したかのように辺りはまた雨音が響く。


「とりなよ。2つとも。明美も君に開けて欲しいんじゃない?」


友愛の透き通った声と雨の音が混ざる。


僕はそっとしゃがんで手を伸ばし、2つのジップロックを手に取った。その瞬間、走馬灯のような記憶が蘇る。


「一緒に開けようね!」

「何を入れたかって?内緒だよ!」

「楽しみだね!開けるの!」


あの頃の明美の声が聞こえる。いつの間にか傘は地面に転がっていた。僕は息を飲んで、明美のジップロックを開けた。中には手紙と、かろうじて花と分かる植物が3本入っていた。


もう溢れ出た涙は、止まることを知らないようだ。僕は勢いに任せて手紙を開けた。そこには、いかにも小学生が書いたような字で【10年後の私へ】と書かれていた。


【10年後の私へ こんにちは!私はそろそろ西北小学校の卒業式です。昨日、中学校もれんくんと毎日一緒に行く約束をしました!22歳になった私とれんくんは結婚していますか。楽しみです。もし結婚していたらこのひまわりをプレゼントしてください。お花屋さんのママが、ひまわり3本の花言葉は、あなたが運命の人だって言ってました!れんくんにも伝えてください。れんくんずっと大好きだよ。2011年の明美より】


読み終わるや否や、徐に一本のひまわりを取り出した。今にも砕けてしまいそうなひまわりを手にとって、空を見上げる。


「俺も大好きだったよ」


雨粒と涙が混じって、頬を伝う。

またいつか何処かで、会うような気がしていた。その時に2人で回想するはずだった。「懐かしいね」なんて言いながら。その明日はもう来ない。明日という言葉の魔法をいつのまにか信じてしまっていた。こんなに後悔したのは人生で初めてだろう。たかが、好きという3文字なのに。悔しいを通り越した感情に殺され、全身の気が抜けたようにその場へしゃがみ込んだ。


雨足は強まりも弱まりませずに、ずっと降り続いてた。西からさす光に反射した雨粒が、キラキラしながら地面に散っていく。夏の終わりが始まったような、そんな日だった。


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君が残した愛の形 Neon @KAMIZAKI_K

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